#3
「てか、俺のどこが良い人ぶってるって言うんだよ!」
半ギレで言った直後、先輩と目が合い気まずくなる。
「自覚なしってヤツー?」
「だな」
岡部先輩は眉間に皺を寄せ、柳田は頬杖をつきながら顔を見合わせる。
「自覚も何も……」
どんどんと語気が弱くなる俺は、螢について考える。
生まれた頃から病弱で、いつも目立たない様に息を潜めている螢を連れ出すのは、幼い頃から兄である俺の役割だった。
昔は一緒に遊んでいたし、苦手な事や出来ない事も代わってやったのに、それの一体何が気に入らないのだろう。
いつだって螢が危なくない様に心配して、何があったら一番に駆けつけた。
それは兄として、そしてもう一人の自分として当たり前の事で、親からも常々言い聞かされてきた。
──「昴はお兄ちゃんなんだから、螢を守ってあげないと」。
だから俺はそれを遵守して、履行してきただけなのに。
何なら、何もしなくても周りの気を引ける螢が羨ましかったぐらいなのに──。
「……俺の何が間違ってるんです?」
同じ髪色の、同じ瞳。
いつも同じ景色を見ていた筈なのに、一体何が違うの言うのだろう?
俺は呟きにも近い声で二人に問いかけると、対照的な双眼が俺を見据える。
「昴、お前……なんか勘違いしてるぞ」
先に口を開いたのは、岡部先輩だった。
「勘違い……?」
「あぁ……確かにあんたらは双子だが、だからといって相手が自分と同じ気持ちだとは限らない。……何てったて所詮、他人だから」
「他人って……ッ!」
「じゃあ今、螢が何を考えて、どうしたいか全部わかるのか?」
目の奥を刺すような鋭い視線に当てられて、俺はたじろぐ。彼の瞳は、俺の心すら見透かしている様だった。
「これをしてあげるーとか、あれをあげたーとかって、一種の自己満足……つまりエゴなんだよねぇ。先輩がした事って、本当に卑屈さんが望んだことなのー?って聞いてんの」
柳田は両手を頭の後ろに組んで適当に座った椅子の背もたれに体を預けると、呑気な口調で俺を詰る。
「……」
ビックリする程言葉が出ない。
俺が今までやってきたのは、螢がやって欲しい事じゃなかったとしたら?いつも俺をあしらうのも、話題を共有したがら無いのも、違うバンドを組んだのも……。
──もし、自分が螢だったら。
「俺、めちゃくちゃ鬱陶しいじゃん……」
心の声がそのまま溢れた瞬間、柳田は「今更ー?」と馬鹿笑いした。
「……もう駄目かな」
「いや、知らんし。てか、メンタル弱っ!」
人が本気で言っているのになかなかの鬱陶しさであるが、反論するほど元気じゃない。
「不安の種は早めに解決しておけ……気付いた日が吉日だぞ」
鼻で小さく息を吐いた岡部先輩は立ち上がると、俺の肩に手を置いてドラムのスティックを持ち直した。
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