Lesson2

electric guitar

#1

 最近、螢が冷たい。


 いや、正確に言えば昔から俺と一線引きたがっていたのは知っているが、最近は妙にコソコソしてる。


 ──せっかく一緒のメンバーになったバンドなのに、なんか張り合いないなぁ……。


 新曲を作成している俺は、ギターのコード譜を眺めながらぼんやりと考える。


 思い起こせば、螢はいつも俺をあしらうのが上手かった。


 俺がどれだけ頑張っても素知らぬ顔をして本を読み、何を誘っても糠に釘を刺すみたく逃げられる。


 でも……いつも帰宅部で、部活に誘っても入ろうとしないあいつを、半ば強引に入部させたのは後悔していない。


 一緒にテレビを見ていた時にあいつが「やりたい」とぼやいたから、ふと気になって螢に確認せずに動画履歴を覗いたのは確かに悪かったけど、それでもこの一年間楽しそうにしていた事に変わりはない。


 まぁ、なんだ。

 動画の履歴については年頃の男が音楽関係ばかりで、一切エロ動画を見ていない事についても驚いたが。


 自慢じゃないが俺なんて、履歴のサムネイルだけで目も当てられない。


 いやいや、そんな事は置いとくとしても……林先輩がいた時は作詞作曲もしていたのに、俺が入った途端に作らないなんてどういう風の吹き回しだよ?


 ぐるぐると脳内を駆け巡る疑問に自問自答を繰り返した俺は、第二音楽室もとい、部室で一緒に練習していた岡部先輩と目が合う。


「冴えないのか?」


 無表情のまま岡部先輩は俺に問いかけるが、ドラムを打つ手は動いている。


「いや、まぁ……ははは……っ」


 正直言って、俺は岡部先輩が苦手だ。


 なんかの部活と間違えてるんじゃないかと思う短めのスポーツ刈りに、鋭い切長の目。

 何を考えてるかよく分からないし、そもそも目が怖い。

 だからいつも彼の顔を見ては、目を合わせる事なく口元を見る様にしている。


「螢、お前のこと嫌いなのか?」


 それでも先輩は続けた。一発KOのクリティカルヒットを打ち出しながら。


 ──それ、単刀直入に言うかなぁ?!


 俺は無理に作った笑顔を先輩にむけるが、きっと口の端が歪んでる。


「……さぁ……どうでしょうかね?」


 動揺を隠しきれない俺はギターの練習も程々に岡部先輩を見た。それでも意に介した様子は無く、機械の様に正確にビートを刻む先輩は「そ」とだけ答えた。


「先輩はなんでそう思ったんですか?」

「何となく」

「何となくって……」


 俺は少し苛立った。

 先輩とはいえ、家族間のことを理由もなく茶化すなんてあんまりだ。そう文句の一つや二つでも言ってやろうかと考えた矢先、「入部希望でーす」と部室の扉が勢いよく開く。


 驚いて振り返った視線の先には、焦茶色の坊ちゃんカットでクリクリとした瞳の少年が立っていた。


「新入生の柳田 虎徹でーす。楽器はキーボード希望でーす」


 呑気な声と語尾に再び口の端を歪ませた俺は、先輩から逃げる様に柳田と名乗る彼に「どうも」と声を掛けた。

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