22 リスポーン

=【復活の儀】を執り行っています……残り5秒=


 

「気が付きましたか、モカ様。貴方は無念にもモンスターによって殺されてしまいました。しかし貴方は神々の奇跡により復活致しました。神の御業に共に感謝の祈りを捧げましょう。」


 促されるまま左手を右手で包み込むような祈りのポーズをとる。

 しばらくそのままの状態で、レンブランサ神父に声を掛けられて教会を後にした。 



 


 …………こわい

 こわい、こわい、こわい、怖い、怖い

 怖い。



 教会を出て放心していた私の頭がようやく回り出す。

 でもそれは襲われていた時とはまた違った恐怖が私を支配しているだけだった。


  思い出すだけで呼吸が荒くなって、手が震えて、血の気が引いてしまう。


 すぐに立ち上がれば良かったとか、ポーション使えば良かったとか、敵なんだから気なんて遣わずに攻撃し続ければ良かったとか、改善点はたくさん浮かぶ。

 でもそれを実行できる気はしなかった。


 きっとモンスターと戦うと、さっきみたいに怖くなってしまう。

 ううん。安全な街に居ても思い出すだけでこんなにも怖いのだから、戦闘になったらもっとずっと恐怖してしまうだろう。




 ぎゅっと唇を噛む。

 思考がどんどん良くない方へ進んでいるのを自覚する。


 何か気を紛らわそう。

 そうしないとずっとグルグルとこのことを考え続けてしまいそうだ。どうせどんなに考えても戦闘になったら恐怖でまともに動けないのに。

 

 

 ……とりあえず、ギルドに行ってクエストの報告しようかな。

 まだデスペナルティは無いから、そのままギルドに行って大丈夫なはず。


 

 

 

 そういう訳で『総合ギルド ビヨンド』に到着した。

 最初に来た時よりプレイヤーさんは少ない。


 

 ……皆クエストに行ってるんだろうな。

 きっと私みたいにはならずに、戦闘系のクエストもいっぱいしてるんだろうな。

 ……すごいな。私には無理だ。


 劣等感や諦観が渦巻いて自己嫌悪が降り積もっていく。

 

 

 ……何考えているの私。

 そんなこと最初から分かっていたでしょう。

 だから戦闘せずに遊ぶって決めてたし、ノンアクティブだから誰にも迷惑かけてないじゃない。

 私の『好き』だけで遊んで良いの。


 

 ネガティブになっていく思考を無理やりプラスに変える。

 でも何だか泣きそうになって、心は苦しいままで。

 

 いっそ、BOO辞めちゃおうかな、なんて。

 

 辞めたらお父さんは私が気に入るって言ってた人事部長さんに怒るかもしれない。

 でもこのままズルズルと続けてもどんどん気が滅入りそう。


 きっとお母さんはその事にすぐ気づいて、そんなに他人に気を遣い過ぎないで良いって言ってくれる。

 お父さんは私を心配して、無理をさせたって謝って、それからBOOを渡した常務さんにもっと怒ると思う。


 だから今辞めた方がマシだよね。

 

 そう考えると泣きたい気持ちはそのままだけど、少し心が軽くなってきた。


 

 

 最後に受けてた依頼の薬草だけ渡して終わろう。


 

 そのまま辞めてしまえば薬草は届かない。

 私が薬草の納品依頼を取ったことを話しちゃったから、そうなると私の事を無責任な人だと思うだろう。

 もう会うことはないし、そもそもゲームだけど、そう思われるのは嫌だから『報告受付』へ向かう。

 


 

「こちらは『報告受付』ですよ。どの依頼の報告でしょうか!」

 

 元気そうな受付が声をかけてくるのと同時にウィンドウが出てきた。

 左は依頼一覧、右はインベントリのウィンドウだ。

 ただインベントリの方はすべて灰色になっている。

 

 とりあえず『採取[《ヒールリーフ》を取って来て]!OK!』と書かれていたので選択すると、インベントリの《ヒールリーフ》が通常の色に戻った。

 どうやら報告できるのだけが押せるようになるらしい。

 分かりやすいね。


 とりあえず品質が高い物から選択していく。

 それからまとめて報告できるようなので他の依頼も選択する。

 最後に右下にある『報告する』を押すとウィンドウが消えた。



「わぁ~すごい!たくさん依頼を達成してくれたんですね!」


 ニコニコしながら受付の子が驚いている。

 ちょっと大げさというか、気恥ずかしいというか。


「うんうん、個数OK!品質も問題なし!ありがとうございます、モカさん。」


 急に名前を呼ばれてびっくりした。

 でもギルドに登録して受けた依頼の報告だから、職務の一環として知っていたのかな。


 

「報酬ですが順番に186シェル172シェル184シェル380シェルで合計922シェルです。」


 え、安くない?

 やっぱり大げさに言っていただけで、本当は大した事無かったんだ。

 ……真に受けて喜んじゃった。



「あ、やっぱり少なく感じちゃいます?実は依頼書に書かれている基準の品質って★3の事なんですよ。」


 ★3!?

 明らかに足りてない。

 だって私が採ったのは最高で★2なのに。


「ただ【モノーン】の周辺の薬草って生えてる時点で★3に届かないのばかりで、必然的に基準以下の報酬になっちゃうんです。だから採取依頼って本当に人気なくて……。」


 なるほどそういう事か。

 確かに〈目利き〉した薬草も★2.5だったね。

 それに薬屋でも似たような話を聞いた気がする。

 何でも良いから薬草が足りてなかったら、これでも大喜びしてもおかしく無いかも。


 

「だからモカさんが持ってきた時、本当に嬉しかったんですよ!できたら、また、気が乗った時だけでも良いんで!薬草の採取依頼を引き受けて欲しいんです!」


 勢いに押されて頷く。

 気迫がすごい。

 もしかしたらこの子、私の知らないところで凄く苦労してるのかも。

 そう思ってしまうような真剣さだった。


 

 それに。


「やったー!本当ですか!?ありがとうございます!本当に助かります!」


 

 私はダメな奴だ、そう思っていたのにこんなにも必要されるなんて。

 喜んでもらえるなんて。

 …………嬉しい。

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