21 戦闘

 新しい採取エリアを探すのは面倒。でもそのまま帰るのもなぁ。

 そう思っていた時に、ふとチュートリアルクエストの事が頭に過ぎる。

 そういえばまだ達成してないチュートリアルクエストに良い感じなのがあるかも。


 

 

 確認してみると残っているクエストは『⑦ モンスターを倒そう』『⑨ 【第二の街ジブル】に行こう』『⑩ ジョブを登録しよう』の3つ。


 

 このゲームに慣れるまでは【第一の街モノーン】に居続ける予定だから『⑨ 【第二の街ジブル】に行こう』は保留。

 ほらここって最初の街だから、ゲーム初心者向けの説明多そうだからね。

 慌てて次の街に行っても、よく分からない単語とか出てきてもイヤだし。特に急いでるわけでも無いからね。


 『⑩ ジョブを登録しよう』も他のギルドは王都にあるってギルド説明の時に聞いたから、こっちも保留だね。


 となると今達成できそうなのは『⑦ モンスターを倒そう』になるんだけど。

 ……戦闘かぁ。


 

 運動センスないし、正直全然自信ない。


 とはいえレベル1の時からHPもATKもDEFも倍くらい成長しているんだよね。

 攻撃しないと敵対しないなら敵に囲まれる心配もないし、HPポーションもある。

 

 

 1番弱いモンスターなら倒せるかな?


 そうだ。シラナイマユ、だっけ?見つかるかなぁ。

 確か反撃してこないらしいし、戦闘訓練みたいな感じでクエストクリアできそう。



 

 とりあえず近くにモンスターが居ないか見渡してみると、見つけたのは採取前にも見たウサギ。

 そう変わらない位置にいたので、ご飯の後のんびり日向ぼっこしてたのだろう。


 そう思うとちょっと罪悪感が芽生えてくる。

 とはいえ相手はモンスターだし、そもそもゲームだし、攻撃するのは悪い事じゃない。


 

 覚悟を決めて、胸の前で《初心者用サバイバルナイフ》を両手で握り直す。

 

 

 深呼吸。

 ……よし!大丈夫。



 目を開けるとウサギと視線が合う。

 

 ……なんだか警戒してるような。

 いや、気のせい気のせい。大丈夫、大丈夫。


 

 自分に言い聞かせながら思い切ってナイフを振りかぶる。


「え、えぃ!」


 やった、当たった!


 ウサギを掠める程度だけれど、それでも当たった!



 喜んでいる私とまたウサギの目が合う。

 ……そうだ、1回攻撃を当てただけじゃダメなんだった!


 慌てて気を引き締め直す。

 次はウサギが攻撃してくるはず。そう思って身構える私。



 ウサギは素早く動き出す。

 ……私に背を向けて。



「……え?」


 ポカンとする私を尻目に、言葉通り脱兎の如く駆け出したウサギはもう追い付けない程遠くに行っていた。

 そういえば逃げ足が速いのが『グラスラビット』の特徴だったけ。


 

 逃げ出してすぐに追いかければ、見失わないかもしれない。

 でも走りながら攻撃するなんて芸当、私にできるとは思えない。

 となると逃がさないように戦うか、いっそ最初の一撃で倒しちゃうかしないといけない。


 まぁ私にはどっちもできないだろう。

 素直に他のモンスターと戦った方が良いだろう。



 

 戦い……と言えるかは分からないけれども、1度経験した事で忌避感は少し無くなった。

 私には無理だと思って気負い過ぎていたのかもしれない。

 でもあのウサギみたいに危なかったら逃げても良いんだし、もっと気軽に考えよう。


 

 そう思ってモンスターを探すために少し歩く。

 今度は緑色のスライムを見つけた。

 

 さっきは忘れていた〈目利き〉を発動させる。

 元々SPを無駄にしないように戦闘しようと思っていたのに、緊張して頭から抜けてたんだよね。


 

 =〈技術:目利き/Lv.1〉が発動しませんでした。=


 ん?

 

 あ、そっか。〈目利き〉の説明は『未所持品の詳細が分かる』だったから、モンスターには使えないのか。

 勘違いをしていて恥ずかしい。

 こんなミス普通ならしないよね。ノンアクティブで良かったぁ。


 

 

 気を取り直して両手で握ったナイフを振り下ろす。


「ゃ!」

 

 スライムの大きさが膝より低いくらいだからちょっと攻撃しにくい。

 それでもウサギ相手の時よりしっかり当たった感じがしたから、コツを掴んじゃったかも。


 スライムを見るとブルブルと震えている。

 痛かったのかな?……そう思うとちょっと申し訳ない気が。


 そう思ってスライムを見ると突然、私に向かって飛び掛かってきた。


「え?あ、キャッ!」


 危ない、避けなきゃ!

 そう思って慌てて動こうとすると、足が縺れて転んでしまった。

 当然スライムの攻撃にも当たってしまう。

 

 

「イタタ……あ。」


 尻もちをついたままの態勢でお尻を擦る。

 そしてまだスライムは目の前にいるとこを思い出した。




「待って、おねがい。ねぇ、まってよぉ……。」


 ブルブルを震えては飛び掛かってくるスライム。

 現実の喧嘩もVRゲームの戦闘もしたこと無かった私は恐怖で腰を抜かしてしまい、完全にパニックになってしまった。


 そのままHPが尽きて目の前が真っ暗になるまで、されるがままになっていた。

 

 

 怖かった。

 もう絶対戦闘なんてしない。

 

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