第7話
「アルセルトよ、今戻ったぞ。スカーレット嬢もいた故連れて参った…で、皆してるなぜ我を見るのだ?」
アルセウム様が救出活動を終え戻ってこられると周囲の視線が注がれていた。ん…さっきスカーレット嬢と言わなかったか?ということは…
「アルセルト様!!会いたかったですわー!!」
そう叫びながら私に向かって突撃してくるのは婚約者のスカーレット・リグ・マイスターだ。彼女はマイスター伯爵家の長女で私とおなじ16。そして何より私より優れた魔法使いだ。
「スカーレット、今は大事な話をしてるんだ。離れてくれ。アルセウム様、救出ありがとうございます。視線が注がれているのは…あのスタンピードの話を国が滅びた例として話したからですね。当然アルセウム様のご活躍も話したら…実はすごい人だったって驚いてるんですよ」
「あれは今でも覚えとるぞ?我の妻も目の前で引きちぎられたでな。父と母はブラックオーガに食い荒らされた。他にも知りたいなら話してやるぞ?スタンピードを戦ったものとしてアドバイス出来るかも知れないでな。それより今大事なのはスカーレット嬢の話だ。おそらくこの件にも関わってくる」
ん?自然に受け入れていたがスカーレットがここにいるということは彼女も何らかの方法で来たのだろう。それに関係するとはどういうことだ?
「スカーレット、話してくれないか?私が兄上に殺されたあと何があったのか。それにこの世界に何が起きようとしてるのかを…もうわかってると思うがこの世界は別世界だ」
「そうですわね。では自己紹介から。私はテンペスト王国マイスター伯爵家5代目当主、キズヤ・リグ・マイスターの長女、スカーレット・リグ・マイスターです。それと…アルセルト様の婚約者ですわ。さて、話しましょうか。アルセルト様がデックボウに殺されたあと何が起きたかを。あの後すぐ陛下はあの場にいた全ての人を総動員しデックボウを捜索しましたわ。けれどその日は見つかりませんでした。そして次の日…陛下が何者かによって暗殺されてしまいました。その後も大臣が暗殺されました。その日の昼過ぎでしたわね…異様な魔力が城の地下からして来ましたの。アルセウム様とアルセルト様は城の地下に何があるかご存知ですよね?」
「スタンピード以来封印されたダンジョンとその中に封印されたとされるネイシス・テンペストの遺体…かつてはアルセウム様もあの場で幽閉されていたので…牢獄」
「そうですわ。私たちが地下に調べに向かいましたの。しかしそこには誰もいませんでしたの。ダンジョンの封印が解けている以外は。そしてそこにはネイシスの遺体を封印した棺があるのですがその棺がなかったんですの。不思議に思い私たちは近づきましたわ。しかし何か転移の罠が仕掛けられてたらしく謁見の間に飛ばされましたの。そこで見たものは…姿かたちが何もかも変わったデックボウが玉座から私たちを見下ろしていましたわ。そして自分の名をネイデックと名乗り世界中のダンジョンでスタンピードを発生させて世界を自分の者にするとも。さらにはアルセルト様の気配がまだするといいその近くのダンジョンでスタンピードを発生させると。当然私たちは戦いましたが力及ばず敗れ殺されたのです」
・つまりどういうこと?
・1つの世界を滅ぼせる力を持ってしまった悪いやつが弟を何がなんでも殺そうとしているってこと
・なるほど…もはや神では?
「スカーレット、ありがとう。そして神…か。半分は正解だ。藤宮大臣、ガンズ大統領、先程の文献には続きがあるのです。テンペスト王国が建国された直後の後始末まで記されているので」
「どうか話していただきたい。少しでもまずは情報が欲しいからね。知っての通り世界中の人がこの配信を見ている。そしてスタンピードはこの世界では初めてのことで未知数です」
「わかりました。長くなりますが最後の最後まで話させて貰います。
スタンピード収まりて残るはかつて栄えし帝国の影無くなった瓦礫なり。周辺国も同様、損害なりて金不足して滅亡す。人々生活に困りて鎮圧にて活躍したスカイ・テンペストを皇帝としテンペスト帝国を建国せり。スカイ、戸惑うも帝都の瓦礫を除去し新たに帝都を築き始めたり。帝城の地下スタンピードダンジョンにて封印せし。その際スタンピード起こせし大罪人、ネイシス・テンペスト中に封印せり。英雄、アルセウム・テンペストなる者の亡骸見つかりて国葬せり。墓、帝城の庭に作られる。
一月後帝都完成なりて皇帝、元皇女と婚約せり。その際国名、テンペスト帝国よりテンペスト王国に改名せし。そのまた一月後滅びし周辺国、王国より援助を受け復興せり。しばらくの後アルセウムの亡骸動きだして王都徘徊せり。国王の父、討伐困難とし王城の地下に幽閉されり。
王国歴23年、後世に話残さんとして国王命じ作られたり。
著者 テンペスト王国文学大臣ベリル・リグ・マイスター」
・これを聞く限り神になったとかないんやけど?
・確かにな…
コメントにそんな言葉が飛び交い始める。ちらっと藤宮総理大臣を見ると彼も同意するかのように頷いていた。しかし私は重要なことを話していない。
「ここまでが文献の記述です。そしてこの著者、ベリルはマイスター家の固有スキルの持ち主でもあります。その固有スキルというのが未来予知というものでして彼の遺言にこれを予知しているかのようなんです。ちなみにマイスター家の未来予知は外れたことはありません。ベリルのみまだ当たってないのです」
「なるほど…そのベリル氏の未来予知がそちらのスカーレット嬢の話と一致するということですか?」
高梨がそう推測する。私もその場にいた訳ではないので推測するしかなく…真相を知るには現場にいたスカーレットに聞くしかない。
「スカーレット…ネイデックの姿は覚えているか?覚えているなら教えて欲しい」
「口で説明するよりもあれは描いた方がいいですわ。少し待ってくださいまし」
そう言って自分の収納魔法から羽根ペンと紙を取り出し姿を描き始めた。
その姿は何枚もの真っ白な羽が背中から生えており目は赤く染まっていた。
・絵がとっても上手いな…
・神々しさを感じるんだけど
「この姿は…」
私はそう思いベリルの遺言状にスケッチされていた予知で見たとされる怪物と見比べる。まさに瓜二つだった。
「ベリルの未来予知は
大罪人ネイシス、欲、強い、子孫、融合、神、なり、世界、災、起こす、この姿、ネイシス、復活、姿
まさにこれに描いてある絵と一致している…」
・ラグナロクが起きるんか?
・ラグナロクって何?
・もしそうだとしたら世界滅ぶぞ
・ラグナロクは北欧神話にある最終戦争のこと。神々や巨人、冥界の戦士などが戦争して最終的に全てが終わる。
・でもラグナロクだったら世界中のダンジョンでスタンピード起きてもいいんじゃねえか?
・だったらラグナロクちゃうか…
「ラグナロクじゃなかったことには安心するね。じゃあ対策会議を始めようか…」
藤宮総理大臣が少し笑みを浮かべるが一気に真面目な顔になる。
それにつられて私やスカーレットも気持ちを切り替えてた。ちなみにアルセウム様は余程のことが無い限り戻さないつもりだ。
今まで沈黙を保っていた探索者の人たちも少し真剣な表情になる。
会議はまだまだこれからだ。
異世界で暗殺された王子様、転移してパニックになっているところを有名配信者に助けられダンジョン配信者として生きていく 時雨古鷹 @sigurefurutaka9618
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