第6話

「アルセルト殿下、準備はよろしいでしょうか」


「ああ、聞くが藤宮総理大臣殿はこの国の国王という認識で問題ないか」


「詳しいことはあとで説明しますが国王ではないです。政治上のトップではありますが」


 私たちは緊急会議を行うということで机やいすを用意したりあわただしかった。

 今から来るのは藤宮総理大臣という政治を動かしている人らしい。どんな人が来るのか楽しみなところではあるが悠長にもしてられない。スタンピードが間近に迫っている中、対策を考えないといけないのだ。


「藤宮総理大臣が到着されました。また、ただいまからビデオ通話にてアメリカのガンズ大統領が参加されます」


 薄い板…テレビというそうだ。子供が見たら泣き出すレベルの強面の男性が映っている。そしてドアからは藤宮総理大臣だろう人物が歩いてきた。どこかユウキに似てなくもない。


「初めまして、私は日本国第120代総理大臣の藤宮聡です。アルセルト王子殿下におかれましては」


「あぁ、そう堅苦しくならないでください。あとアルセルトか殿下かどっちかで読んでください。改めて、テンペスト王国第二王子、アルセルト・スカイ・テンペストです。藤宮大臣、よろしくお願いします」


「私はアメリカ合衆国のガンズだ、大統領ってのをやってる。よろしくな王子殿下」


 あぁガンズ大統領はちょっと探索者よりの人だな。話しやすそうだが…大統領とは何だろうか。


「本題に入る前に一つだけ質問を、大統領というのは一つの国のトップという認識でいいですか」


「まぁそういう認識でいいぞ。ってなわけで早速始めようか」


「ガンズ大統領、勝手に進めないでくださいね。まぁ…始めましょうか。世界中から注目されている訳ですし。殿下、スタンピードの説明を詳しく話してもらっていいでしょうか?」


 藤宮大臣は結構真面目なようだ、いやあっちの人達が私利私欲にまみれているからか。

 私はそう思いながらスタンピードについて口を開いた。


「分かりました。詳しく説明する前に分からない人たちもいるでしょうから最初に一言で表します。すなわち、ダンジョンの暴走によってモンスターが地上に出てくることです。ここからは詳しく話していきます。この世界の人々は魔力をまだ感じきれないようなので難しいこともあるでしょうが。先程ダンジョンの暴走によってと言いましたが、この暴走現象は実は頻繁に起こってます」


・もしかして浅い階層に時々場違いなモンスターが出てきたりしていたのは暴走してたってこと?


 配信も当然つけてあるのでコメントも流れている。初めてのスタンピード、それも国を滅ぼせるレベルのものなので配信を見ている人は気軽にコメントも打てるのだ。そのコメントは当然藤宮大臣やガンズ大統領にも見られてるのだが。


「そういう事になる。その暴走が大規模になったものがスタンピードと考えて貰って結構です。そしてスタンピードには2種類存在しています。ひとつは自然現象によるスタンピード。これはどれだけ規模が大きくとも街が半壊する程度の被害で済みます。そしてもうひとつが意図的に引き起こされるスタンピードです。これは…どれだけ小さい規模でも街が1つ滅ぶようなものです。規模が大きかった場合は…国が滅ぶ規模までになります」


 そこで一区切りして用意された水を飲む。ここからはその例を話さなければならないだろう。


「それは…国が滅んだ前例が…あるということですか。殿下の世界では」


「面倒なので異世界と言いますがあります。我がテンペスト家とも深い関わりを持っています。確認できる過去3000年で1番大きい災害と言われてます。少しその話をしましょう。我がテンペスト王国が建国される前、そこにはスピース帝国があったと伝わってます。スピース帝国は2000年近い歴史を持つ帝国で国家予算の7割を軍事に当てた軍事国家でした。そんなスピース帝国の民は重税に苦しめられており他国に逃げる人も多かったと言われてます。そんなスピース帝国を滅亡させたのは1人の男性が起こしたスタンピードです。モンスターの数は文献によって違いますが少なくても1000万はいたと推測されてます。スタンピードが起きたダンジョンは帝都から少し離れた無名なダンジョンです。ここからは文献の言葉をそのまま言いますね。

 帝国暦2101年夏、どこからともなくモンスターが現れ帝都の民は無惨にも殺された。帝国は兵をかき集め対処にあたるが効果なく敗走。貴族は領地へ戻り防備を固め、冒険者は帝国外へ逃げる者が多かった。モンスターが現れてから3日後帝都は破壊され誰1人残らず。皇女ただ1人逃げ延びて冒険者、アルセウム・テンペストに保護されり。アルセウムなる者は帝国一の冒険者と呼ばれる者なり。帝都破壊せしモンスターは二手に別れ街を滅ぼして周り一月後帝国滅亡せり。しかしモンスターの大群そのままに原因も分からずアルセウム、息子と皇女を連れ他国へ避難せり。周辺の国々、帝国の滅亡知りて連合をくみ攻めかかる。スタンピードのダンジョン分かりて犯人を捕らえたり。スタンピードの犯人、ネイシス・テンペストなる者にてその者、アルセウムの祖父なり。ネイシス、その後ダンジョン法違反により処刑されたり。アルセウム、身内の行いに苛立ち隠せず1人帝国領へ戻れり。アルセウム、ダンジョン内にて力尽き果て亡くなる。しかしながらアルセウムなる者半数以上モンスターを減らし残りをその息子、スカイ・テンペストなる者が鎮圧せり

 これが、文献に書かれている内容ですね。この文献は初代国王が当時の記録係に作らせたもので、テンペスト王国の国宝になります」


 そこまで言って一息つきコメントを見るとひとつのコメントが目に入った。


・あの骸骨様もといアルセウム様がスゴすぎる…


 それを見た人達の心の中は全くもってその通りだと一致するのであった。

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