リベンジマッチ:前編

《6時間経過、デスペナルティ失効》


《リスポーンします》


 リアとサザレさんにPvPで負けてから約6時間後、デスペナルティの失効と共にリスポーンを選択する。


『…スレア…ごめんなさい』

 リスポーンするや否や、真っ先に聞こえたのはキュスの謝罪の声。

(えっ、何が?)

『…私のせいで…スレアが…』

(そんなに気にしなくていいよ)

『…本当?許して、くれる?』

(うん)

『そっか…ありがと、スレア』

 …お礼言われるような事かな。まあ、いいや。



「あ、おかえりスレアちゃん」

「やぁ、6時間って案外長いものだね」

「あはは…まあリアルで6時間ですからね…」

「っていうかさ、スレアちゃん。あのとき、なんで反撃しなかったの?」

「え?」

「スレアちゃんなら、あの瞬間からでも勝てたと思うんだけど…」

 ……………。

「…買い被り、すぎだって。…まあ、それこそリアやサザレさんなら、出来るんだろうけどさ」

「いやぁ…無理でしょ」

「無理だね…流石に僕でも。…じゃあ折角だし、もう一戦やってみる?」

『…リベンジ、したい』

「分かりました」



「それじゃあ、いくよ」

「油断してるとまた勝っちゃうからね!」

「…はいはい」

『スレア、嫌なら断ってくれてよかったのに』

(嫌、ではないかな。僕も、ちょっとだけ悔しいから)

『そうなんだ…』


 何てことをキュスと話してるうちに、接近してきた二人の攻撃を避ける。

 リアの剣とサザレさんの二刀流、それぞれリーチも扱い方も違うから捌きにくいけど…。

「…今だシャリア!」

「了解!エウロス、ヘーパイストス!」

 風魔法と炎魔法の同時発動。

 炎魔法に風魔法が空気を供給して、大爆発を起こす。同時に砂塵を巻き上げて、【深淵の鎖グレイプニル】を使用不可能にさせる。

 …でも、今回はアビリティを使うつもりはない。

 砂塵を巻き上げると同時に姿を消した二人を、その場に留まってじっと待つ。



「…あれって、罠かな」

「どうだろう、でもこのままだといずれ砂塵は晴れてしまう。そうなる前に決着を付けないと」

「だね」

権天使の剣プリンシパティ・ソード】の柄を両手でしっかりと握って、砂塵の中で突っ立っているスレアちゃんに狙いを定める。

 サザレさんと息を合わせて―――地面を蹴って砂塵の中に飛び込む。


 金属音と共に、振り下ろした剣の腹を蹴られて、刀身が折れてしまう。

 …これ、絶対に蹴りで折れるような強度じゃないと思うんだけど…。

 まあともかく、気はこっちに引くことはできた。数秒でも時間稼ぎをすれば、あとはサザレさんが―――。

「―――ぇ」

 蹴りの勢いで一瞬晴れた砂塵の隙間から、首にナイフが突き立てられたサザレさんが目に入る。

 …その瞬間から、スレアちゃんに言い得ぬ恐怖を感じ始める。

 全身に鳥肌が立つような感覚、スレアちゃんに殺気は感じられない…けれど、怖い。


 悪魔か、死神か…あるいはもっと恐ろしい何かか。

 恐怖で足が竦んでしまう。前に進んでも、後ろに行っても、ここのままここで止まったとしても。

 勝てる気がしない。さっきまでのスレアちゃんとはまるで違う人物かの様に…でも、スレアちゃんの雰囲気のままで…。

「―――っ!」

 間一髪、スレアちゃんのナイフを躱す。次の瞬間には、目の前にパイルバンカーを構えたスレアちゃん。どうにか体を右に傾けて避けて、そのまま受け身を取る。


 怖い、怖いよ…スレアちゃん。

 これはゲーム。ここで死んでも、リアルで死ぬことは無い。

 そのはずなのに。

 今、ここでスレアちゃんの攻撃を受けたら、リアルでも死んでしまいそうだ。



 …あぁ、また外した。やっぱりリアは素早いな。

 少し怖そうだけど…、何に怯えてるんだろ。

「なんか…動き変わったね、スレアちゃん」

「そう?」

「うん…なんか、こう…死神みたいだよ」

「…そう…かな」

 死神…死神ね。

 地面をトンっと蹴って、リアの目の前へと移動する。ナイフを振るがまたしても間一髪で回避される。

「―――ヘーパイストス!」

 極至近距離で発動されたリアの炎魔法。

 キュスが盾を形成しきる前に、それを避ける。

『盾、要らなかった?』

(いや、万が一もあるから助かったよ。ありがとう)

『そう?それなら良かった』


 一進一退、中々リアに攻撃を当てられない。

「…ちょっとさ、本気出すね?」

「…うん」

「【称号機能ディグリー・ファンクション】、【殺戮の達人キラーオブキラー】…ステータス解放!」

 リアからエフェクトが弾けて、その場にそれを残して姿を消す。

 …後ろか。

「―――っ!…これ防げるの…?」

 僕の回し蹴りを察知したのか、攻撃ではなく防御を選んだリアが、蹴りを喰らって大きくノックバックする。

「…【称号機能ディグリー・ファンクション】ってそんな機能もあるんだ」

「称号によって色々変わるからね」

『…私達も、使ってみる?』

(そうだね)

「…【称号機能ディグリー・ファンクション】、【終末の先駆者ラグナロク・プロトポロス】」

 エフェクトが弾ける。【深淵の祝福アイギス】の一部が変形して、【深淵の祝福アイギス】から切り離され、僕の周りを円形に回転していく。

「うわぁ…なにそれ…」

「…さあ?僕も良く分からないけど…行くよ」

『切り離した【深淵の祝福アイギス】の操作は任せて』

(…分かった。それじゃあ行くよ)

『うん』


――――――――

作者's つぶやき:少し補足しますね。【称号機能ディグリー・ファンクション】には、常時発動と任意発動があります。

例えば【神殺しゴッドキラー】は常時発動で、【深淵の神殺しダインスレイフ】や【深淵の祝福アイギス】の性能が上昇します。

一方で、【殺戮の達人キラーオブキラー】や【終末の先駆者ラグナロク・プロトポロス】は任意発動です。効果時間やクールタイムがありますが、その分強力です。

終末の先駆者ラグナロク・プロトポロス】の場合は、【深淵の神殺しダインスレイフ】と【深淵の祝福アイギス】を一部をドローンみたく操作できるようにするって言う…、まあチートな性能です。あとステータスが極めて上昇します。

リベンジマッチの決着が付いたら…そうですね、モンスターが大量に押し寄せてくるイベントでもしましょうか。

どうせ【深淵の祝福アイギス】のチート性能で無双するんだろうなぁ…レベル上限の解放もしなきゃ…。

ちなみにレベル上限の解放は【上限解放キャップ・アウト】って称号を獲得したらできます。

――――――――

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