新しい力とPvP

愛と証明

 見渡す限りの銀世界。【凍った深淵フローズン・アビス】は【溶けた深淵メルテッド・アビス】と違って、プライマリが機能しているみたいだ。


「ん、キュス。どうしたの?」

「ううん、何でもない。二人と一緒に歩きたいから」

 そう言いながら、僕の手を掴むキュス。

「妬いちゃうなぁ、まったくぅ~。じゃあ私も繋いじゃおっと」

 …リアまで。

「…二人ともどうしたのさ」

「ん?別に何でもないよ?ちょっと不公平だなぁって思っただけ」

「…スレアは私の物、だから」

「むぅ、仕方ないなぁ~。じゃあそういう事にしておいてあげる」

 …僕はキュスの物じゃ…。…あ~…そういうことか…。

「じゃあとりあえず…温泉でも入る?」

「うん」

「そ~しよ~」



 立ち込める湯気を通して見る、銀世界。ただ温泉に入っているだけだと言うのに、それはなぜか、先ほどよりも綺麗に感じてしまう。


 因みに温泉だが、パーティメンバーだけの混浴らしく、今この場には僕含め3人しかいない。

「そういえばスレアちゃん、【深淵の神殺しダインスレイフ】ってどうやって脱いだの?」

「変形機能の応用。小さく変形させて目立たなくしてるだけ」

「今の所、【深淵の神殺しダインスレイフ】の変形機能を使えるのはキュスしか居ないからね」

「…スレアが私をDNAに組み込めばいい話。細胞レベルで同一化すれば【深淵の神殺しダインスレイフ】を使いこなすなんて簡単」

(…遺伝子にキュスを組み込むって…そんな事できるものなの?)

『…スレアは私、私はスレアなの。だから…ううん、もしそうじゃなかったとしても。私は、私は貴女になる。なってみせる』

(…おぉ、怖)

『怖い…かな。大丈夫…私とスレアは、これからも…死んでも、ずっと、ずっと、ずーっと。一緒だから』

 キュスのその声に、『愛』以外の感情はなかった。

 無かったからだろうか、僕はそれに、狂気にも似た何かを感じる。『愛』は人を狂わせる…そう言うが、キュスが愛で狂うと言うのなら、それはキュスの人間だったころの名残なんだろうか。

 それとも…キュスは僕になって、人間に戻るつもりなんだろうか。

 キュスにそんな気は無いんだと思うけど、キュスの中の本能か何かが、人間に戻ることを望んでるのかも。


 …まあ、考えたって、仕方ないか。

(…そうだね、僕とキュスはずっと一緒だ)

 僕とキュスが、これまでも、これからも、一緒であることは間違いないだろう。

 その一緒が、比喩か、事実かは別として、だ。



「いや~、気持ちよかったね~」

「そうだね。キュスは?」

『うん。いいお湯だった』

 皆満足してるみたいだ。


『…それで、スレア』

(ん?何?)

『私と…一緒になってくれる…?』

(…快諾は、出来ないかな)

『…そう』

(止めはしないけど)

『…、…いいの?』

(だから言ったでしょ?快諾はできない。って)

 我ながら、回りくどい言い方をする。

 ただ、それは事実でもある。どんなメリット・デメリットがあるかも分からないのに、快諾なんてできるわけもない。

 …そう、止めはしない。これはゲームだから。リアルに支障が出る仕様は実装されないはずだ。


 …そう信じてる。まぁ、リアルで僕が死んだとして、困る人なんていないのだけど。

 僕はもうずっと、孤独だから。


『じゃあ…始める、ね』

 そういったあと、【深淵の神殺しダインスレイフ】が仄かに光る。光って…。

(…終わり?)

『うん』

 …全然実感湧かないんだけど。

『多分、【深淵の神殺しダインスレイフ】の変形機能は自由に使えるよ』

 …おぉ、本当だ。


「…あ、スレアちゃん。使えるようになったんだ。どうやったの?」

「え?えっと…キュスと一体化した?」

「なんで疑問形なのさ?」

「いや…僕もあんまりピンときてないから…」



 えへ…えへへ。

 スレアと一緒…ずっと、一緒…。


 あの時の私は…多分ずっと微睡みの中にいた。

 いつか見た…神殺し奇蹟を再現する事に、私の体は力を込めて、私の意識は微睡みの中に落とし込まれて行った。


 曖昧な意識の中でずっと、苦痛だった。

 それが何のための苦痛かは分からない。もしかしたら、退屈だっただけなのかもしれない。


 だけど、突然目が醒めて。貴女がいた。

 私の共犯者になってくれた、貴女が。


 短い期間だと思う。だってまだ、2日も経っていないだろうし。

 だけど、私はスレアに恋心を抱いた。


『愛』は人を狂わせる。


 なら、私が愛で狂えば、それはきっと私が人間である事の証明だ。

 過去に自分自身が人間であった事の証明、なのかもしれないけれど。



「それじゃあさ、二人で一つになったスレアちゃんの腕試しに…あっ、アレとか良いんじゃないかな?」

 そう言って、リアの指差す先を見る。

(ねえキュス、あれなんだか分かる?)

『【補食者プレデター】…かな?でもちょっと…違う?』

補食者プレデター】に似ているけど、随所に少しずつ違和感を感じる。


「あれ…【補食者プレデター】じゃないみたいだけど…まあ、スレアちゃん居るし勝てるでしょ」

 その僕への信頼はなんなの?嬉しいけどさ。


『スレア、頑張ろ』

(あぁ…うん)

深淵の神殺しダインスレイフ】を変形させて剣を形作る。

 ついでに触手みたいに変形させてナイフをホルダーから取り出して手元に寄せる。

「とーつーげーきー!」

 そんなリアの掛け声とともに、僕は【補食者プレデター】モドキに突撃していく。


――――――――

作者's つぶやき:う〜ん…こんなに重い愛にするつもりは無かっんだけどなぁ…。

愛はキュスを狂わせてしまう…。スレアくんは人たらしか何かなのでしょうか。

長編(当社比)を書かせていただきました。興味のある方は是非↓

《放課後、図書室、夕焼け時》

https://kakuyomu.jp/works/16818093083346245688

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