溶けゆく深淵の中で:5

「うぉおおおおぁっ!!!!」

 キュスの雄叫びと共に神様ペルミトにパイルバンカーが命中する。

『ぐっ…』

 パイルバンカーが弱点に当たったのか、神様ペルミトが少し苦しげな声を上げる。

「へぇ…そんな声、上げるんだ。神様だからかな、痛みを知らないから、痛みに、耐性が無いんでしょ?自分に都合が良いように禁忌を作って、神殺しをする人を自らの手を汚さずに裁いて…。お前なんかを信仰する奴の気が知れない…!」

『貴女がそうであったとして、民意は貴女を拒む』

「だから何だ!」

『感情論に突き動かされるから、人はいつまで経っても愚かなままだ』

「それで…愚かでいい!私は、お前ら上位存在なんかに…なりたくない!」

『貴女の母親の事は、とても残念だと思いましたよ』

「っ…!」

『死者は死者、生者は生者として、独立した世界で生きていかねばならない』

「だったら…だったらどうして!私も殺してくれなかったの!?私から…命の概念を奪ったのに!」

『禁忌を犯した者にはそれ相応の罰がある。貴女の受けた罰がそれだっただけの事』

「…お前ぇぇぇっ!!!!」

 武器を交えながら、キュスと神様ペルミトは舌戦を繰り広げている。


『神は皆を救う者だ』

「それはただの、紛い物!本当の神は、誰一人として、救ってくれない!」

『それは貴女の信仰するわたしだ』

「うるさいっ!私は信仰なんか…!」

『…神に裁きを。救いの手を差すものに断罪を。悉くを滅ぼせ』

 僕がそう詠唱すると、キュスが【深淵の神殺しダインスレイフ】を変形させて剣を形成する。

「…【消滅の希望ディスペアーオブリバース】!」

 キュスの振りかざした剣が神様ペルミトに当たると、大きく吹き飛んだ後に地面に落下する。

『ぐっ…!』

 すぐさま、キュスは剣をパイルバンカーに変形させる。

「…神に裁きを。救いの手を差すものに断罪を。悉くを滅ぼせ…【消滅の希望ディスペアーオブリバース】」


 打ち出された杭は神様ペルミトを貫通して、地面に突き刺さる。

 杭の形を変えて返しを作り、神様ペルミトをその場に固定する。

「…スレア、ナイフ、借りるね」

 そう言うと、大腿に付けていたナイフホルダーからナイフを取り出す。

 神様ペルミトの首にナイフの刃先を当てる。

「…さようなら」


 ―――【神殺しゴッドキル


 ナイフの刀身が、神様ペルミトの首を貫く。地面に突き刺さった杭を残して、神様ペルミトの死体は塵の様に崩れていく。


《称号:【神殺しゴッドキラー】を獲得しました》


《称号:【裏切り者イスカリオテ・ユダ】の特殊条件を満たしたため、称号:【終末の先駆者ラグナロク・プロトポロス】に進化しました》


《称号:【神殺しゴッドキラー】が特殊条件を満たしたため、同称号の【称号機能ディグリー・ファンクション】を開放します》


《称号:【終末の先駆者ラグナロク・プロトポロス】が特殊条件を満たしたため、同称号の【称号機能ディグリー・ファンクション】を開放します》


「キュスコートちゃん…、【溶けた深淵メルテッド・アビス】が…!」

 地面が轟音を立ててひび割れ始めて、崩れていく。崩れた地面の隙間から見えるのは、地面が奈落に溶けだしていく様子だった。

『リア、【次元転移機ディメンション・シフター】使って」

「え?あ、うん」

 リアがインベントリから【次元転移機ディメンション・シフター】を取り出して起動する。

 景色が歪んでいって、黒く染まっていく。

『…さようなら、【溶けた深淵メルテッド・アビス】』

 喜んでいるような声色なのに、少しだけ寂しさも孕んでいるキュスの声。

(…寂しいの?)

『…うん。…でも』

(ん?)

『これからは、スレアや、リアと一緒だから』

(…そっか)

 僕の隣に黒い影ができて、僕と同じシルエットの少女が現れる。

 ただ、銀髪の僕と違って髪は金髪。目の色は赤色だ。

「だから、よろしくね。スレア」

「…えっ、誰その子」

「誰…って、キュスじゃないの?」

 僕がそう言うと、彼女はコクリと頷く。

「キュスコートちゃん!?…シルエットはスレアちゃんと同じだけど…装備だけかと思ってたら…」

「ん…?これは【深淵の神殺しダインスレイフ】の変形機能の応用」

「…じゃあ私の姿でもよかったんじゃ…」

「…その、スレアが…良くって…」

 頬を赤く染めて、少し俯いてモジモジしながらキュスがそう言う。

「へぇ…そっかそっか。スレアちゃんの事、気に入ってるんだ」

「…ん…」

 そんなことを話していると、僕達は元の世界のプライマリに転送されていた。

 場所は【転移所ポータル・ポイント】。体感十何時間ぶりに見る元の世界に少し感動を覚える。


PLプレイヤーネーム:スレア、PLプレイヤーネーム:シャリアが、Exクエスト:『溶けゆく世界の果てに』をクリアしました》


《プライマリ【転移所ポータル・ポイント】にて、【凍った深淵フローズン・アビス】へと移動可能になりました》


「【凍った深淵フローズン・アビス】?【溶けた深淵メルテッド・アビス】じゃなくて?」

「さっき【溶けた深淵メルテッド・アビス】は壊れちゃったからね、いわばクエスト専用ステージってこと。だから、私達以外には代替の【凍った深淵フローズン・アビス】が用意されたってことだよ。あぁ、でも、称号は貰えないかもね」

「…そうなんだ」

「まぁ、手に入るかもしれないけど…ちょっと難易度高すぎるかな…。…あ、そうそう、クエスト報酬とかもらった?」

「報酬かは分からないけど…称号は貰ったよ」

「どんなの?」

「【神殺しゴッドキラー】と【終末の先駆者ラグナロク・プロトポロス】…と、あとその2つの【称号機能ディグリー・ファンクション】かな」

「おぉ、【称号機能ディグリー・ファンクション】。って言う事は、結構強くなったんじゃない?」

「そうなの?」

「うん」

 リア曰く、【称号機能ディグリー・ファンクション】は各称号にある特殊条件を満たさないと解放されない上に、その条件はゲーム内で知らされることは無いらしい。

 その分、ステータス強化や、強いアビリティ、魔法の獲得ができたりするらしい。

「じゃあ、腕試しも兼ねて【凍った深淵フローズン・アビス】に行ってみよ」

「分かった」

(キュスもそれでいい?)

『うん。…スレアとなら、どこでも』


――――――――

作者's つぶやき:…う~ん、キュスコートさんはスレアくんの事好きみたいですね。

あと、最後にペルミトを殺したのはナイフなので、なけなしの初期装備要素です。…っていうかキュスコートさんもとい【深淵の神殺しダインスレイフ】は強制的に装着された装備なので脱衣不可です。なので【深淵の神殺しダインスレイフ】+ナイフ(初期装備)です。

ちなみになんですが、ペルミトの名前の由来は permit で、確か許可とかそんな意味の英語だったはずです。

あと、アイテムとか称号とか、色んな神話から名前をとってきてます。例を挙げるなら、【裏切り者イスカリオテ・ユダ】とか【深淵の神殺しダインスレイフ】ですね。北欧神話とギリシア神話あたりから取ってきてます。

…クトゥルフ神話も混ぜようかな。

――――――――

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