溶けゆく深淵の中で:4

人だったものアンノウン】の群れとの戦闘。

 大きく裂けた口を開けて、僕の方に飛び掛かってくる。

(キュス)

『うん』

 前に構えた【深淵の神殺しダインスレイフ】の左腕部が勢い良く伸びて、【人だったものアンノウン】の頭部を串刺しにする。

「おぉ~、相性ピッタリだ」

 と言いつつ、僕が【人だったものアンノウン】一体を倒した間にすでに【人だったものアンノウン】の数が半分くらいまで減っている。

「…リアにはまだまだ勝てなさそうだね」

『うん…』

「え~、そんな事ないと思うけどね~?」

 そんな事をリアと話しながらも、複数体で同時に飛び掛かってきた【人だったものアンノウン】を【深淵の神殺しダインスレイフ】の剣で薙ぎ払うようにして討伐する。


「『神に裁きを。救いの手を差すものに断罪を。悉くを滅ぼせ、【消滅の希望ディスペアーオブリバース】』」

 二重詠唱で威力も2倍。振りかざした剣は、【深淵の神殺しダインスレイフ】の剣のリーチでは届かない位置にいる【人だったものアンノウン】を真っ二つに切り裂き、その余波で全方位の【人だったものアンノウン】さえ真っ二つに切り裂いた。

「あはは…強すぎない…?」

 どうやら、パーティメンバーには当たらない仕様らしい。

 まあ、当たったら困るからこの仕様は助かるかな。


 ある程度辺り一帯の【人だったものアンノウン】を殲滅すると、【奇蹟の模倣者プラエスティギアトレス】より一回りほど小さい【人だったものアンノウン】が現れる。

「…【捕食者プレデター】?」

 体力バーと共に表示された名前にはそう表記されていた。


『――っ!スレア!』

「く…っ!」

 間一髪『視えた』から―――『視えた』?…僕は今、何が視えてたんだ?

『…視えた?』

(え?…あ、うん…)

『…それが…私の感覚。簡単に言うなら、第六感』

(第六感…)

『うん。…でも、詳しい事は後』

(…あ、うん。そうだね)

 すぐさま剣を【捕食者プレデター】に向かって投げる。

(【縮地シュリンク・グラウンド】)

捕食者プレデター】が投擲した剣に気を取られている隙に【縮地シュリンク・グラウンド】で距離を詰めてナイフを突き立てる。

 ―――が、【捕食者プレデター】の凄まじい反応速度で僕のナイフを避ける。

 でも。

「リア!」

「おぉ…りゃぁあっ!」

捕食者プレデター】が避けた剣をキャッチしたリアが、首を断ち切る。

『いい…連携プレーだと思う』

 自分で言うのもなんだけど、何も話し合いやすり合わせをせずにここまで連携ができるのって凄いと思う。

「ふふっ、いぇーい」

 リアが手を上に上げる。

「…?」

「ほら、ハイタッチだよハイタッチ」

「え?…あぁ、うん」

 リアの掲げた手に、僕の手をぶつけてハイタッチをする。

 …まあ、悪くはない…かも。

『スレア』

(ん?)

『そろそろ、行こう』

(あぁ、うん。分かった)



「おぉ~、これ早くていいね!」

 今現在、僕はリアを抱き抱えながら【縮地シュリンク・グラウンド】で移動している。理由は単純で、【縮地シュリンク・グラウンド】は今のリアの素早さよりも若干速いからだ。

「…リアはこれより少し遅いくらいでしょ?」

「そうだけどさ、やっぱり違うの。感じる風だとか…景色の流れる速さとか…」

 …そういうもの、なのかな。

『…スレア、交代してくれる?』

(…え?…うん)

「リア、一旦キュスに変わるね」

「うん、分かった」


 キュスがリアをその場に降ろすと、3歩前に進んで、手を伸ばす。すると、掌が何かに触れたような感覚がした後、火花と共に弾かれてしまう。

「…キュスコートちゃんが弾かれた…て言う事は、ここが【溶けた深淵メルテッド・アビス】の中心、って言う事だね」

「うん」

「へぇ~」

 そう言いながら、リアはさっきキュスが弾かれた所と同じ場所に立って、そこから一歩前に進む。

「…ほんとに、キュスコートちゃんにだけ効果あるんだね」

 火花が散ったり、弾かれたりすることもなく、その場に何もないかのようにするりと中に入っていく。

 キュスも僕と交代して、結界の中へと足を踏み入れる。



『人間はこの場にいて良い存在ではありません』

 その言葉と共に、いくつもの剣が上空から降り注ぐ。

「…だったら、人間よりも上位存在たる貴方はもっとここにいてはいけないのでは?」

『神ペルミトの名の元、私は許可されています』

「…へぇ、随分都合のいい神様だ」

『…ペルミト…っ!』

『聖域に異物の侵入は許されていません。排除します』

 その言葉が発せられると同時に、上空から降り注ぐ大量の槍と、体力バー、【最高神ペルミト】という名前が表示される。

「…キュス。交代だよ』

『うん…神は…私が殺す」


 僕…もといキュスがペルミトの方に駆け出していく。降り注ぐ槍は、【深淵の神殺しダインスレイフ】に触れた瞬間に消失して、ダメージは入らない。

 ちなみにリアは…ただ全速力で回避してるだけだ。


 ペルミトが繰り出した拳は【深淵の神殺しダインスレイフ】に触れた瞬間、キュスが結界に触れた時の様に弾かれる。そして、【深淵の神殺しダインスレイフ】の一部が変形したパイルバンカーで拳を貫くと、それを足枷に飛び上がり、ペルミトの顔に一撃を食らわせる。

 ―――だが、その瞬間に鋭い痛みが走る。

 一本の刃が、僕を【深淵の神殺しダインスレイフ】もろとも貫いていた。

『やはり、神には勝てぬのです』

(…どうだろう、それは)

『何?』

「…り、あ…っ!」

「パイルバンカー、おかわり行くよ~!」

 地面に落下したパイルバンカーをリアが拾って、上空に投げる。【深淵の神殺しダインスレイフ】を変形させて僕の体を貫いている剣を折った後、パイルバンカーを掴む。


――――――――

作者's つぶやき:なぜパイルバンカー?と思った方。パイルバンカーって杭打機…つまり杭っていうのは、物を固定したりするためにあるわけですよ。

神が作り、神殺しを試みた人を堕とす世界に神を括り付けて固定して、その状態で神を殺してしまえば【溶けた深淵メルテッド・アビス】は閉じて、復活できない神殺し達成…と、なるわけです。

ちなみになんですが、神を殺したところで世界のバランス云々は変化しません。都合のいい世界ですよね。

ちなみになんですが、キュスコートさんは銃弾以外なら基本的に何でも作れます。

――――――――

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