溶けゆく深淵の中で

溶けゆく深淵の中で:1

 掲示板クエストボードから場所を移して、僕達は今プライマリの中にある図書館に来ている。

「…ん~、やっぱりこの図書館って変だよね」

「変?」

「うん。だってほら、剣も抜けるし、魔法も使える…プライマリの中って基本的に戦闘できないように作られてるのに、図書館だけは戦闘できるように設定されてるんだよね」

「…確かに」


 図書館の中にある【伝承・神話】の本棚。

 この世界の神話や、現実リアルの神話などの本がこの辺の本棚に収まっている。

 その周辺の本を調べて数分。

「【溶けた深淵メルテッド・アビス】と【逆行世界レトログレード・ワールド】…これじゃない?」

「…結構あっさり見つかったね」

「うん…そうだね」


 本の内容を簡単にまとめると、【逆行世界レトログレード・ワールド】は時間軸が逆転した世界の事。【溶けた深淵メルテッド・アビス】は【逆行世界レトログレード・ワールド】と【順行世界プログレード・ワールド】を繋ぐ、存在してはいけない場所らしい。

「存在してはいけないのなら…誰かが人為的に作った、ってことだよね?」

「そうだね…多分」


溶けた深淵メルテッド・アビス】に行くためには、【順行世界プログレード・ワールド】のどこかに出現する【次元転移点ディメンション・シフトポイント】にアクセスすれば行くことができるらしい。


「【次元転移点ディメンション・シフトポイント】…これって確か…アイテムであった気がするんだよね」

「アイテム?」

「うん、前に何かのボスを倒して手に入ってた気がする…」

 そう言いながらリアはインベントリのウィンドウをしたにスクロールしていく。

「あったよ、ほらこれ」

 そう言ってリアがインベントリを僕に見せる。

「【次元転移機ディメンション・シフター】…確かにこれならいけるかも?」


転移所ポータル・ポイント】から【狼の平原】へと移動して、【次元転移機ディメンション・シフター】を起動する。

 周囲の景色が一瞬大きく歪み、景色が地面から黒く染まっていく。


 水の中にインクを垂らしたように、段々と周辺の景色が鮮明になっていく。

 周囲の光景は僕達が知っている景色と大きく違う物だった。

 景色の一部は歪み、世界が溶けているかのように、空と地面が混ざりあっているところもある。

「…ここが…【溶けた深淵メルテッド・アビス】…?」

「…多分…」


 それから【狼の平原】を探索する。

【狼の平原】で【転移所ポータル・ポイント】があった場所に向かう。

転移所ポータル・ポイント】は展開された状態で停止しており、上に載ってみてもプライマリに転送されることは無かった。

【狼の平原】を探索していると、僕らにめがけて四足歩行の獣が突っ込んでくる。全身黒い体、目はなく、口は3つに分かれていて、頭の後ろの部分まで口が裂けている。まさに、異形と言うべき存在だろう。

「【刀身剛性化ソード・ステフニング】、【刀身属性付与ソード・アトリビュートグランテッド】、ライジング・フレイム。―――はぁっ!」

 属性付与、刀身を強化したナイフを飛び掛かってきた異形の避けた口に突き立てる。

 ぐったりと地面に倒れ込んだ後、異形がゆっくりと消失していく。インベントリを開いて手に入った素材を確認する。

「【不明の皮膚アンノウン・スキン】…?」

 表示にはそう書かれていた。

 って言う事は、あの異形の敵の名前は【不明アンノウン】って事でいいのかな?


 その後、僕達は【狼の平原】からプライマリに移動して、今はプライマリの図書館の中を探索している。

「やっぱり、建物の構造とかは元の世界と一緒だね」

「でも【転移所ポータル・ポイント】とかのギミックが使えなくなってるんだよね」

 図書館の中に所蔵されている本も、見た目は本だけど取り出そうとしても取り出すことができないようになっている。

 この世界、そういえば【風狼ウィンド・ウルフ】だとか【殺戮スローター】シリーズを一回も見ていない。

 今の所、この世界で見た事があるのは【不明アンノウン】のみだ。


 本棚を調べていると、本と本の隙間から紫色の球体が覗く。

 濃い紫色と薄い紫色の模様が絶え間なく変化しながら混ざり合っていて、ずっと見ていると吸い込まれてしまいそうになる。

 その紫色の球体に近付いて、触れる。

 すると、紫色の模様が黒に変化して、触手が球体から生えてくる。

 やがてイソギンチャクのような体を形成し始めて、球体を包み込んでいく。

 球体が完全にイソギンチャクのようなものの中に埋まると、体力バーと【奇蹟の模倣者プラエスティギアトレス】と言う名前が表示される。


奇蹟の模倣者プラエスティギアトレス】との戦闘。

 飛んでくる触手を斬りつけると、本体のコアである球体の守りが薄くなる。

 ある程度防御が薄くなったところにナイフを突き立てて攻撃していく。

「っ!───くっ…!」

 触手が掠るだけでもかなり体力が削れる…。

 向こうはコアを攻撃しようが全然体力削れないのに…。


「ヘル・フレア!おりゃぁぁあっ!」

 リアがヘル・フレアを唱えて、【殺戮の権天使スローター・プリンシパティ】からドロップする【権天使の剣プリンシパティ・ソード】を片手に【奇蹟の模倣者プラエスティギアトレス】に突撃していく。


「固ったい…!」

 金属音と共に、【権天使の剣プリンスパティ・ソード】が弾かれる。

 普通逆じゃないのだろうか。ナイフが弾かれて【権天使の剣プリンスパティ・ソード】が通ると思うんだけどなあ…。


「【刀身剛ソード・ステフ───」

「スレアちゃん!」

 僕が【刀身剛性化ソード・ステフニング】を発動する前に、 【奇蹟の模倣者プラエスティギアトレス】の内部に取り込まれてしまう。

奇蹟の模倣者プラエスティギアトレス】のコアのみがほんの微かな明かりになり、【奇蹟の模倣者プラエスティギアトレス】の体内を映し出す。

 だが、胃の中のような感じではなく、ただ黒いだけの空間がそこに広がっている。

 ここから出るには、コアを破壊するしかない。そう思った僕がコアにナイフを突き立てようとすると、コアにヒビが入る―――。


――――――――

作者's つぶやき:なんでか知りませんがデータが消えて再編集する羽目になりました。いや、消してないんですよ!本当に!

…なんでなんでしょうか。

それはそうと、最近本当に一日24時間じゃ足らないなあと感じるようになってきました。いや本当に、時間少ないんですよね。

あと、新作出します。URLはこちらです↓

https://kakuyomu.jp/works/16818093082660864148

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