Travel 21 夕立と夕映え。


 ――それは突然起こった。青白き閃光と鋭い轟音。ヒシッと和美かずみは僕にしがみついた。



「ニイニイ」と震える身体……


「大丈夫。大丈夫だから」と、僕は宥める。大粒な涙さえも零す和美を、まるでソフトなバスタオルのように包み込んだ。我が身をもって。そこに感じるものは、感触……


 和美自身の身体の感触。体温も。少し汗ばんだ感じも。息も、体温も。


 何もかもがあった。僕は得た、安心感を。脳内に広がっていたことは、その思考に囚われていたということ。確かに、確かに生身の和美がここにいる。僕は、涙した……


「ニイニイ、どうして泣いてるの?」


「和美は生きてる。こんなに嬉しいことはないから」と、僕は言った。


 何故そう思った? 葉月はづきも不思議そうな顔をしていた。


 今はそれよりも、


「和美、何処行きたい? ここはデパート。よく一緒に来ただろ? ここでほら、UFOキャッチャーしただろ。そこで、まだあるよ。青いトリさんのぬいぐるみ。今日こそゲットしてやる」と、僕はゲーム開始を試みた。和美は「ニイニイ、ありがと」と一言。


 すると、葉月の手が触れて、


「もう少し右……僕に預けて」


 と、レバーを持つ僕の手に、葉月の手が添えられていた。


 それに、それに……


「ちょっとハヅッチ、ニイニイに密着しすぎ」と、和美は顔を真っ赤にしたから、


「いいじゃない。さっきまで和美ちゃんが、その……怜央れお君を独占してたんだから。僕にだって権利はあるよね? 怜央君は僕の……」と、今度は葉月が、顔を赤くして、


「やっぱりそうだね、ハヅッチはニイニイの大切な人。それから、和美は応援してるからね。ハヅッチがニイニイの心を癒してあげられる唯一の人だから」と、その時だ。


 和美は告げた。そのために、僕に会いに来たのだと……



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