Travel 15 現れた案内人。


 ――涙の再会のところに突如として現れた、動橋駅で会ったボブで褐色の女の子。



 通る声。それから白と紺の制服。セーラー服。学校の帰り? 今は夏休みの筈。クラブか何か? でもまだ午前中で……と、いつしかジッと、その女の子を見ていたから、


「ちょいちょい君、あんまり見てたら」


 と、その女の子は視線を僕から逸らし、葉月はづきの方を見て……すると『ムムム』と字幕が出そうな程、葉月は僕を睨んでいるではないか。葉月は僕の視線に気付いたようで、


怜央れお君、昨日のこと忘れちゃった?」


 とまで言いかけたものだから、僕は慌てて「ワワッ!」と口を塞いだ。すると、その女の子は「クスッ」と、笑い交じりに「やっぱりソウユー関係だったね。彼女の顔にそう書いてあったから。浮気はダメよ、彼氏君」と言ったのだ。そして母さんはというと、


和美かずみ、あんまり揶揄っちゃ駄目よ。怜央は遥々遠くから、私を訪ねて来たんだし、それに、これから話すけど、あなたのお兄さんなんだし。ええっと、それから怜央……」


 という具合に、この状況を整理している最中のようだ。


 母さんが訊きたかったのは、これから先の宿の予定があるか否か、宿泊予定のホテルがあるかどうかだけど……それはなかった。令子れいこ先生が手配していたのは福井駅付近のホテルだけだったから、その後は自己責任で、成り行きで考えようというものだったから、


「じゃあ、泊っていきなよ。募るお話もあることだし……」


 と、母さんは言った。今日だけは、母さんの息子に戻れると。そう思った時だった。


「ニイニイ、今日だけでなくて、ずっといようよ。折角お兄ちゃんができたんだから」


 ギュッと、その女の子、和美が背後から抱きついてきた。


「こらこら和美、玲央にだって都合があるんだから、あんまり我儘言っちゃ駄目だよ」


「えー、じゃあ案内してあげる。金沢、行ったことないでしょ? 和美の学校もそこにあるんだから」と、母さんが制するも、和美は凄く懐いて離れないくらいで、


「怜央君、お言葉に甘えて二、三日お世話になろうよ」と、葉月が言った。



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