Travel 12 葉月の視点は。


 ――狼どころか、やっぱり怜央れお君は獅子。暴れん坊でも、優しくて温かかった。



 本当に優しい人って、勇気のある人だと僕は思った。


 ヌードモデルも、普通なら引いちゃうかもしれない。……二年前のことだった。お互いがお互いをモデルにして描き合おうという内容。君は応えてくれた。それどころかサポートまでしてくれていた。美術部では、僕の方が少し先輩だったけど、いつの間にか、僕の方が君を頼りにしていた。そして今、僕が君を受け入れる番……


 裸で触れ合う感触も、そして温度。男と女の自然の摂理は、まるで磁石のように引き寄せ合っている。幾度となく発する艶っぽい声も、お腹の中で感じる、君の熱い想い。


 瞬間、僕の目に映ったお月様は丸く、包み込むような眼差しで裸の僕らを見守る。まるで魚になったように露天風呂から、お部屋の真ん中、ベッドの上に至るまでも……


 寄せては返す波のように、繰り返される愛の讃歌。


 愛する喜びも愛される喜びも、僕らは歌い続けた。


 溢れる涙は、喜びの涙。


 絵を描き続けたこと。絵を描きたいという想いが、病気に打ち勝ったこと。そして生きていたこと。生きていなかったら君と出会えなかったこと。溢れてくるのは、生きていることへの感謝。余韻に残るには、充分すぎる程の朝。


 電車の中で、君の隣に僕は座る。白いワンピースに、白いシルクハットで飾った。


 君はラフな格好。誠の文字でシンプルに決めた白いシャツに、膝まであるカーキー色の短パン。靴は……お互いスニーカー。しかもタイガースカラーのお揃いだった……


 寄り掛かる、君の肩へ。


「おいおい葉月はづき、皆見てるよ」


「いいのいいの、お月様だって一部始終見てたんだから」


 その余韻に浸ったのは……


 福井駅から動橋駅に到着するまで四十分。僕らを乗せた普通電車でのことだった。



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