Travel 13 動橋駅の情景。


 ――回収箱に、入れた片道切符。そこから広がる世界は、何処か懐かしき風景。



 横を歩く葉月はづきは、古本屋さんを目指していた。


 僕は、スマホの片隅にメモしていた住所を調べ……ナビ設定にして歩く。なのに、どうして? 悉く、葉月が歩く道程と相違なかった。ずっと横並び。息も合っている。


 本当なら、もっと動橋駅の情景に触れたかったのだけど、今は逸る心が先を急がせていた。葉月もワクワク感満載に、いつもより足取りが軽い様子だ。息も合っている。


「あの頃と変わってない。この道も」


 と、ワンオクターブ高い葉月の声。その声に僕も嬉しくなる。


「葉月の目的の古本屋さんは、大体どの辺?」「道なりに進むと大通り。その大通りを横切った所」と、いう具合に順調に、目的地へと歩み寄っている。


怜央れお君はどお? 訪ねたいお家、近づいてる?」……そう、それなんだけど……「どうもこの近くらしい。葉月が向かおうとしてる場所の近くらしい」


 ナビが示した場所は、まさに葉月が向かおうとしている場所。


 そう思っているうちに、辿り着いたようなのだ。葉月の言う古本屋さん。白い建物で赤い屋根が特徴。グレーの看板に『ブック50』と描かれていた。


 そして葉月は入ってゆく。


 僕もその後についてゆく。


 もうすでに開店していた。今はもう午前の十時を過ぎていた。


 風は流れる。風鈴の音を奏でるために。すると、店主が姿を見せた。僕ら二人の存在に気付くのに、そんなに時間はかからなかった。殆どが秒だった。


「おばちゃん、お久しぶり」と、葉月は声を掛けた。


「葉月ちゃんかい? 大きくなったね」と、すぐに店主は、幼き日の葉月の面影と照らし合わせた。因みに店主は女性。ポッチャリ体型で眼鏡の、髪を後ろで束ねた……

まさかとは思った。そんなことが本当に? 店主は僕の顔をジッと見た。――そして!



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