Travel 10 密なる脱皮に。


 ――着飾らないこと。身も心も。



 お風呂だから、葉月はづきも僕も裸なのだけど、問題はそこではなかった。


 葉月の言う通り、僕はまだ……猫を被っているのかもしれなかった。


 葉月は、僕には特別な存在……


 絵を描く時、彼女は裸になる。見たものを五感で感じたいから……と、彼女は言っていた。僕を絵のモデルにした時も、彼女は一緒に裸になった。描くものが、お互いのヌードということもあるけど、身も心までも着飾らずに自然体まま、僕に接してくれた。


 僕はどうだったのだろう?


 身は着飾らずとも、心はまだ着飾っていた。葉月は本当に僕を信じていたから。


 すると葉月は、綻ばせた表情で、


怜央れお君、狼になっていいよ。僕が受け入れるから。一緒にヌード描き合った時、君は僕に合わせてくれた。優しく優しく僕が絵を描きやすいように、我儘も聞いてくれたから」


 ――今度は僕の番だよ。


 と、葉月から唇を重ねてきた。そんな彼女を愛おしく思えてきた。


 ……唇が離れた時、僕はグッと抱き寄せた。彼女の身体……胸もお腹も、正面から感じた。丸みを帯びた感触は、僕の脈打つものまで包み込んだ。彼女から漏れる声は、


「とっても熱い……」と、艶っぽい声だった。


「大丈夫? 初めてのことだったから」


「ちょっと暴れん坊。でも思ったより平気だから、ドンドンきて」


 と、笑みを浮かべるも、涙も浮かべて精一杯の笑みだと思えた。葉月にとっても初めてのこと。……そう、これまでになかったこと。クラブ活動一途だった僕ら。二人で踏み出した冒険の旅は、ここから始まる。身も心も裸になれた今なら、この先も進んで行ける。


 お月様は、そんな僕らを照らして見ている。その距離は遠くても、葉月との距離はグッと縮まった。そしてその行く先に、想像をも超える出来事があったとしても……



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