Travel 08 誘惑なる入口。


 ――パンドラの箱を開けるような感覚? 或いは、禁断の果実を食すような感覚?



 どうしてそのようなイメージが膨らむのか? 僕らは同じ美術部員で、ちょっと深い仲なだけ。偶々性別が違うだけで……合宿と言う形ではなく、もはや顧問公認の合宿。


 偶々部員が二人だったからで……


 と、脳内で繰り返される自問自答。自身を整えるための行為は、まずは深呼吸から。そして堪能すること。露天風呂の開放感により、ただ風と戯れる。自然と一体感……


 そんな時だ。ガラッと、物音が響いた。


 そんな気がした。朧気に見えたシルエットも、自然を演出するためのもので……


 露天風呂の風景は自然を演出するために、緑に拘っているようだ。岩や草など狭いながらも、まるで森林のような演出。スポットライトに紛れる湯煙が、それら風景を、ソフトフォーカスの効果を得ることで、幻想的に見せていた。


「流しに来たよ、お背中」


 と、ソフトでソプラノな声が聞こえた。それも耳元で? 息の当たる距離? ザバッと音を立て振り向けば、頭にタオルを巻いているけど、丸い眼鏡も外しているけれど、


「ノワッ」と、僕は悲鳴を上げた。


「何驚いてんの? 君のお背中を流しに来ただけだよ、滅多にやらないサービスだから」


 とか言っているし、いやいやいや、それ以前の問題、


「何で水着とか着てないんだ? 裸で、どこも隠さずに入って来るなんて……」


 葉月はづきはスポンジを持って入ってきた。タオルは頭に巻いているだけで裸体は曝け出している。しかも腰に手を当て堂々たる態度。僕が湯から出て椅子に座るまで待つ様子。


怜央れお君、僕の裸なんて見慣れてるじゃない。僕だって君の裸、何回も見てるから。お互いがお互いのモデルをした仲じゃない。恥ずかしがることって……あるの?」と、葉月の顔は紅潮していた。彼女のその表情に、僕の整いつつあった鼓動は、また騒めいた。


 しかも見られていた。お月様が、そんな僕らを隅々まで……妖しく照らしていた。



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