Travel 07 お月様の戯れ。


 ――誘われるのは夜の闇の中? 或いは、お月様が窓から一部始終を覗くのか?



 治まるには、まだ遠い道程を要しそうな、このドギマギした空間。どう行動したら良いのか、戸惑いながらも求めてゆく。脳内で繰り広げられる想像に委ねるも、そこはまだ空白に等しい。真っ白で。そんな最中に葉月はづきは……


「何かさっきと違うね、時間が経つ速さ。楽しいけど、とっても長いの」


 と言った。その戸惑いながら動く唇は、あの広がるキスの感触を蘇らせていた。


「僕も、思ってた」


「だから多分、きっと怜央君のこと、まだ知らないことばかりだと思うから、その……訊いてもいいかなってこと。つまり僕から君への質問ってこと」


 葉月は潤んだ目で、それでもしっかりと僕を見詰めていた。本当ならば、ゲームの一つでもしながら、ゆったりとリラックスの時間を過ごす筈だったけど、どうしてこうなったのだろう? 学園の修学旅行だって、小学生の時に遊んだ人生ゲームだって、こんな感覚にならなかったのに? クラブの時だって、こんなに緊張というか、こんなことは……


「あ、そういえば、ここの浴室だけどバスタブじゃないんだ。見た目は洋風だけど。何だか家族風呂みたいな作りらしいんだ。お湯……も常時準備されてるか。まるでスーパー銭湯みたいだね。良かったら先に……」と言いかけたところで、


「あ、それ、君から先に入りなよ。もうすぐ僕の見たい番組があるから」と言って、リモコンを操作する葉月。「あ、これこれ」と、声も出しながら。……まるで、僕から目を逸らすように、様子は明らかにおかしいのだけど、今となってはその区別もつかずで。


 第一さっきの口調、葉月は僕のこと『君』とは言わずに『怜央れお君』と、いつもならそう言っている。そう思いながらも、僕は歩みゆく。少しばかり葉月から離れる。浴室は奥まで広がってゆく。そう……露天風呂も完備されているのだ。小さいけど贅沢な作り。


 令子れいこ先生の力。西原にしはら財閥の力を見ることになる。そして、夜空に浮かぶのは満月。クッキリと見える月。その下で一時の入浴タイムを満喫する。風も心地よく流れてゆく。



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