Travel 05 忘れ得ぬ夕陽。
――夕陽。
薄っすらと街並みを染め始め、夕方の風景を仕上げるに至るまで、その過程を確認する間もなかった。茜色に染まった。とっても印象に残る夕映えだった。
そばを歩く
「どうした?」と訊いてみるも、
「ちょっぴり眩しくて」と彼女は答えるばかりで、これが初めてではなくて、これまでも時々あったこと。彼女は夕陽を見ながら、涙することがあったのだ。
どうしてかわからないけど、そこを問うことはしなかった。入り込んではいけない領域だと思ったから。彼女は命に係わる病気をしていたことがあって、その記憶が今でも蘇ってくるようだ。それだけに彼女に見える景色は、僕が感じ得ないことも感じているのかもしれない。それは彼女が描く絵にも反映されていることだろう。独特の色使い。彼女が描く絵の特徴はそこにあった。僕には理解も、その発想もできないような色使い。
……たった二人しかいない部員。二人して絵を描くことが活動。彼女は主に人物画。それも西洋絵画の趣。でも世界で一つと思われる独特な色使い。顧問の先生も自ら絵を描いていたけど、其々が異なる作品で、特徴も違ってくる。彼女に絵を教えたのは顧問の先生だけど、それでも違っていて独特。それから、それから……
到着した。
少し早めなディナー会場へ。つまりレストランに着いたのだ。
目の当たりにはショーケース。その中で特別メニューと称され、まさに看板メニューなポジションに立っている『レイコ・スペシャル』と記載された看板と、立体模型……
ステーキ定食のような感じの、そんな感じ。スープもパスタも充実。その中心にあるものは、やはりサイコロステーキ。繊細なフレンチなように見えるけど、その奥に潜んでいる、情熱たるイタリアン。でも和の心も忘れずに、法蓮草も飾られていた。葉月は、
「まるで
僕ら美術部の顧問の先生が、その令子先生なのだ。
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