Travel 04 優雅なる散歩。


 ――不思議と涼しい風。猛暑を記録する今時分だけど、まるでタイムリープしたかのような気温。何となくだけど、令和というよりかは、平成のそれも初期のような感じだ。



 もっとも僕は、その時代には生まれていない。……けど、葉月はづきと歩いていると、記憶の何処かでは懐かしく、そんな感覚さえもあった。僕らが住んでいる場所では、古本屋は減少して……一件だけとなっていて、レコード屋も、もう幼き日の思い出と化していた。


 でも、今いる場所にはそれがある。何よりも、何事にも興味を示す葉月の表情には、


「ねえねえ、路面電車が走ってるよ」


 と、屈託のない笑みに、笑みの種類も百面相を超える程、新たな驚きも兼ね、いつもと違う君が此処にいる。僕はもっと君に夢中になる。夢中だけに不意なるチューを放つ。


 確かなる唇の感触……


 広がる息遣い。しかも目撃者多発。ここは歩道の真ん中で、木漏れ日が降り注ぐ中、


「ちょ、いきなり何?」と、ポンと音を立てて、離れた唇から彼女は言った。


「怒った?」と僕は問うた。咄嗟に浮かぶ言葉、それしか思いつかずに……


「まだ早いの。夕方にはもう少しだし、お月様の出番もまだだから。ええっと、その、あれだよ、あれ、ホテルにチェックインしてから。ムードは大切だよ、女の子には……」


 と答える葉月は、いつもは白い顔だけど、この時ばかりは赤くなっていた。


 大丈夫かと思えるくらい、頭からは、白い湯気が出ているようにも見えて。


 グッと抱き寄せる、


「だからね、怜央れお君」


「可愛い奴。ここからは手を繋ごう。もう少し歩くけど……」


「うん、その方がドキドキも落ち着くから。本当に時間の経つのが速い。もう一日目も過ぎちゃうから」「まだまだこれから。ディナーを済ませてからチェックインだ。それに時間の経つのが速いのは、葉月が楽しんでる証拠だし、チューも否定しなかったし……」


 すると彼女は少し潤んだ目で、まだ冷めない顔の火照り。でも、僕を見つめている。



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