Travel 03 密かなる都会。
――キラキラ輝く彼女の瞳。それもその筈、お店などが並んでいる。ちょっとした安心感を得たように。お店は主に古本屋やレコード店など、彼女と一緒に観て回った。
とくに古本屋。暑い盛りから一変、涼しさを満喫。丁度いい感じの風鈴の音が、程好い夏の暑さを感じさせた。店内は、何処となくブックオフを思わせる内装。お客様たちもそれなりに詰め寄って、そんな中、葉月は夢中になっていた。とある漫画本を手に取って、
「ウフフ……」と鼻歌交じりの、笑い声を弾ませて目を通していた。
あくまで立ち読みの部類だから、細部までには至らず、ササッと。彼女なりの配慮。忘れてはならないのは、ここが古本屋ということ。作品は過去のもの。凡そ五年前か、或いは十年前の作品が並ぶ。すると彼女はクスリと笑って「甘いよ、これはもう三十五年前のもの。バルセロナオリンピックで活躍した柔道少女のお話。これ、とっても推しなんだ」
「さ、三十五年前って、
「推しは世代を越えるものだよ。まあ、この作品はパパの影響だけどね。全巻揃ってるから早速のお土産だね。でも、やっぱり、僕は古本屋なら動橋を訪ねたいなあ……」
そこには……
初めて見る彼女の表情。
そして知らなかった、彼女のルーツらしきもの。多分だけど、彼女がそこを訪れたのは遠い過去? 少なくとも十歳より前? 或いはつい最近? 一、二年前辺りか?
ちょっとした推理劇が脳内で繰り広げられそうになった時、彼女の声が、それを食い止めた。何処かで現れたアイコンタクト? 僕の表情から読み取ったのだろうか、
「僕は生粋の関西人じゃないんだよ。八歳までは、動橋で暮らしてたんだ。その近所にその古本屋があったの。そもそも星野家は、親戚も含めて北陸の人だったんだよ。だから感謝してるよ、
と、言ったのだ。何たる偶然だろうか? 僕の進行方向とほぼ同じ? いやいや偶然だよね? 僕が訪ねようとしているのは、ある意味では『母を訪ねて三千里』だから……
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