Travel 02 密かなる目的。
――車窓から見える景色にキラキラと、緑と青のコラボ。海も見え始めた。
暗く、長いトンネルは抜けた。
アーバン・スタイルの情景が、カントリーな情景へ一変していた。そこからはローカルな感覚を楽しみたいと……そう、彼女は言っていた。それは敦賀から武生へ移った頃。電車も北陸線へと変化した頃だ。きっと彼女には初めてのこと。北陸には行ったことがあると、彼女は言っていたけれど、これ程の……電車での長旅は初めてのことだろう。
「まだ電車に乗るけど大丈夫? 一回降りようか?」
と、僕は訊いた。微妙かもしれないけど、彼女の、
「そうだね。福井駅で一回降りようか」
「うん。散策も楽しみだし」と、ハンケチで汗を拭っていた。
実は……
葉月は普通の子よりも、体が弱かった。今は良くなっているとは言ってもだ……
彼女は十歳の頃に病気を患って、外の世界から隔離された長きに渡る入院と、車椅子の生活を余儀なくされていた。……命に係わるものだったそうだ。彼女がその時に望んだこと、それは絵を描くこと。まだ草創期の芸術部……今の美術部に期間限定の部員として入部し、最期の命の炎を燃やすも悔いのない覚悟で挑んだと、笑顔で語っていたそうだ。
……でも、土壇場になると泣いちゃって、もっと生きたいって心が叫んだから。――今があるのだって。ある日ある時、雨の中だったかな、僕に話してくれたことがあった。
僕は、そんな彼女を守っていきたい。
だからこそ僕は訪ねに行く。北陸の地に、あなたはいるのだから。……まだ北陸の何処かだけれど、僕は本気だから。葉月を会わせてあげたい。何しろ、結婚前提で付き合うことを決心したのだから。まだ十六歳だけれど、揺らぐことのない僕が決めた女性……
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