ハヅキチックな夏休み。

大創 淳

Travel 01 颯爽たる出発。


 ――彼女の手を引いて、駆け込み寸前で乗り込んだ電車。その直後に迫る光と影。


 行く先は、まだビジョンが見えない道程だけど、まっすぐ彼女は、僕を見ていた。



 丸く大きな眼鏡から覗く少し潤んだ目。はにかむ感じは、初めて二人で歩いた日のことを思い出させた。桃色と白色のコラボが綺麗なワンピースも彼女ならではのセンス。


 息遣いは、とても近かった。


 ……吐息交じりの息遣い。白い顔に赤らむ頬も、それに何よりも距離がほぼ密着。


「遠くなの? 近くなの?」と、彼女は訊く。今日初めて聞いた彼女の声。何しろ僕は少しばかり意識しているから。この先について語るのは僕の役目で、彼女はヒロイン。


 だから、


「それは葉月はづき次第」と、答えるも、


怜央れお君、それ答えになってない」と、彼女は言う。それもその筈で、まだ答えなど見つかってないから。これから二人で探してゆくのだから。準備も、計画だってまだだ。


 彼女の名前は星野ほしの葉月。僕と同じ学園に通っていて、同じクラスでもあり、それから同じなのは、クラブまで同じだから。同じ学年だけど、クラブでは彼女が先輩。そして彼女は部長なのだ。二人だけの美術部。因みに僕の名前は都築つづき怜央。この度は訳ありで、


「そうだよな、元はといえば僕が……原因だった。葉月は付き合ってくれただけだ」


 と、少し俯いた。この瞬間ばかりは、彼女の顔を直視できなかった。


「それ、言いっこなしだよ。それでも僕は、怜央君と一緒だったら何処でも。昨日、LINEでお話した通り。それからそれから、これって向かってるの、京の都方面だね、少なくとも。しかも新快速で敦賀方面といえば……とてもワクワクだね、楽しみ楽しみ」


 と、驚く程に彼女は燥ぎだした。


 はにかんだ感じとは一変して、いつも見る彼女の様子に戻っていた。


 それに彼女は自分のことを『僕』という。所謂ボクッ娘。実は、そんなところも僕は好きで……あ、でも、僕の一人称も僕だから、少しばかり被るかも。少しばかり心配。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る