狼な幼馴染は貴方のもの【短編】

焼鳥

狼な幼馴染は貴方のもの【短編】

「起きろ、おい起きろ、黒斗起きろ!!」

大きな声が部屋に響く。

窓の外を見れば既に朝で、なんなら登校日だ。

起こされる理由なんて『遅刻する』からだろう。

「おきる...起きるから白野、頼むから耳を嚙まないでくれ。」

体を起こし、起こしてくれた彼女に目を向ける。

この空間に似合わない透き通った金色の長髪、そしてピコンと立った動物の耳、それが特徴の俺の幼馴染、東上白野とうがみはくのだ。

「ほら黒斗、早く着替えて。どうせ朝方までゲームしてたんでしょ。お母さんがおにぎり作ってるから、行きながら食べよ。」

「真白はもう食ったのか。」

「黒斗が早起きしてくれたら、もっとゆっくり食べられるのにな~」

「置いて行っていいのに。」

その一言が引き金になり、また噛まれる。今度は首だ、最悪だ。

「毎回痕になるんだからやめてくれ、それでクラスから変な噂立ってるんだ。」

「ふん、噂になればいいんだ。」

「それは無いぜ」とため息をつく。その後は彼女を部屋から出し、着替える。

俺こと吾妻黒斗あずまくろとは彼女と同じ高校に通っている。

色んな種族が存在する世の中、中には神様と呼ばれる種族までいるほどだ。

そんな多種多様な種族が入り混じっているのだ。

生活リズム崩壊の駄目な人間と、世話焼きな希少種族の金狼の女の子が、

「黒斗、テーブルに朝食と弁当あるから~。私はもう行くからね。」

「母さん行ってらっしゃい。」

「お母さんお気をつけて。」

「白野ちゃんもこの馬鹿の世話もほどほどにしなさいよ。」

慌ただしく玄関の扉の開く音と共に、スーツ姿の母親が見えなくなる。

自分もそろそろ行こう。白野は待ってくれるが、このままのんびりしてたら、白野まで遅刻扱いされてしまう。

おにぎりと弁当を鞄にしまい、靴を履く。首に付いた噛み痕はシップで誤魔化す。

準備完了だ。

「じゃあ行くか白野。」

「うん!行こ黒斗。」


学校までの道のり自体は、徒歩・電車・徒歩の流れだ。

もう慣れてしまったが、多種族な世界とは言えど、全人口の9割ほどが人間だ。

珍しいが故に、道行く人は皆白野に目を奪われる。

しかも白野は顔も体も整っている。

スレンダーと言えば怒られるが、全体的に細くながらも魅力にもなるぐらいに肉が付いてる。

(本人は胸が小さいことを気にしてるので、俺はその手の話はしないが。)

正直テレビに出ている芸人やアイドルより、よっぽど可愛いと思う。

(これも本人には言わないが。)

それあってか痴漢被害に遭遇した。高校生活が始まったばかりの頃の話だ。

一か月ほどは俺すらも拒絶してた。一か月で隣に立てるまで回復したと言えるが。

それ以降、登下校は一緒にいる。

だ。それぐらい喜んでする。

「黒斗、その・・・私の前に立っててほしい。」

「大丈夫、何かあったら服を掴んだりして教えろ。」

電車の中ですら視線が集まる、その中には、俺でも分かる吐き気のする視線もある。

静かに白野にフードを被せる。

二人が通う高校は、全国でも数少ない多くの種族が通っている高校だ。

日々様々な問題が起こっているが故に、服装に関する校則はとても緩い。

それも生徒達を守る為なら猶更だ。

それもあり、フード付きパーカーといった身を隠す・守るものは許可されている。

「今日は人が多いし、辛かったら降りよう。先生の方には俺が連絡するよ。」

「そこまでじゃない。でも、降りるまでね...胸貸して。」

「勝手にしてくれ。」

ギュッと頭を押し付けられる。ほんの少しだけ体が震えている。背中を摩る。

周りには『見世物じゃない』とガンを飛ばす。

周りの視線は、簡単に散らばる。そんなに興味があるならテレビでも見ればいい。

時々こんな事になるので、人間以外の種族は生きずらいと思えてしまう。

「そろそろ着くぞ。」

「わかった。」

少しずつ同じ高校の制服の人が車内に増え、最寄り駅が近いことを教えてくれる。

駅に着き、ロータリーに出れば、白野以外の種族の生徒がちらほら見え始める。

皆一同に同じ道を進んでいくので、分かりやすい。

ここまで来れば白野もフードを脱ぎ、いつも通りに雰囲気に戻る。

「なぁ白野、言いにくいのだが。」

「なにかあった?」

「いや・・・お前のしっぽが俺の足に絡まってて...」

彼女が下を向くと、自分が無意識で何をしていたのか理解し、硬直する。

「不安だったのは分かるから、そろそろ離してくれると助かります。」

「ごめん、歩きにくかったよね。」

スルスルと解け、足が身軽になる。

けれど歩幅が変わることは無く、白野と一緒に歩いていく。

「やってしまった。」

白野は黒斗には聞こえないように

狼系統の種族が異性にをするのは一つしかない。

『その人は私の物』と他の種族に見せつける為だ。

現に周りでちらほら見えていた他種族の生徒からは、「まじか~」みたいな目で見られていた。

普段ならだけで抑えているのに、これでは黒斗本人にバレるのも時間の問題だ。

ただでさえ登下校は常に一緒にいるのだ、これ以上変な噂が流れるのも不味い。

「じゃあまた後で。」

「うん、また放課後ね。」

人間と他の種族はクラスが分けられており、高校に着くと下駄箱で一旦お別れだ。


教室にはなんとか遅刻せずに間に合う。

自分の席は窓際の後ろ、寝るには最高のベストポジションだ。

「黒斗またお前徹夜したのか。」

「積みゲー増やしてるからな。いい加減減らさないと、と思ってな。」

こいつは立花広たちばなひろ、サッカー部のセカンドストライカーだ。

メインストライカーは獣人の血が濃い人らしく、そもそもの身体能力で勝てないと聞く。

それでもセカンドストライカーなのだから、広の実力が伺える。

「全くそんな顔しながら、可愛い彼女と一緒に登校とか羨ましいぜ。」

「白野とはそんな関係じゃないよ。世話焼かれているのは事実だけど。」

広はどこを取ってもイケメンで、女性人気も高い。

そんな広に彼女がいると思ってたが、彼曰く「近寄ってくる人皆SNSで盛り上げる話題」にしか使われてなく、ちゃんとした付き合いをしてくれる人は、今のところ0らしい。

「それにしてもお前会うたびに怪我してるな、家に引きこもってるだけじゃないのか?」

「このシップか?これは朝首捻って痛いから貼ってるだけ。怪我という意味では合ってるが。」

その実、噛まれたなど言える筈もなく。

先生が入ってくると、騒がしい教室も静かになり、朝のHRの時間が来る。

「お前ら~席につけ~。」

あの人が担任の風間沙耶かざまさや先生、いつもやる気がなさそうに見えるけど、とても頼りになる先生だ。

「お前ら一年に言うのは初めてだが、後一二ヶ月すると獣人を筆頭に発情期が来る。

それに合わせて男女ともに性格が荒れたり、モテやすい人間が襲われたりする。

学校側も警備員や病院と提携を強化して、事に当たるつもりだ。

他種族と関わりが多い人は気を付けるように。

以上、HR終わり。ばいばい~。」

言い終えると教室を出ていく。

先生が居なくなると、一限目が別の教室なので、皆移動の準備を始める。

「広も気を付けろよ。モテモテなんだからな~。」

「そういう黒斗もだぞ。君の友達も獣人とのハーフなんだろ。」

まぁ気に掛けるだけかけておこう。


白野の教室でも同じ話がされ、皆気を引き締めている。

確かに発情期は大変だ。

小さい頃は、少し気分が優れなかったり、なんなら一人が寂しいと思う気持ちが強くなった程度だったが、現在は黒斗を一人占めしたい気持ちでいっぱいになる。

「他の人たちも同じなんだろうな。」

人間にはそういう時期は無く、ヤる人は一年中していると聞く。

黒斗は私の事をどう見てるのだろうか。

そんな話をされた事もあり、教室では恋バナで盛り上がっている。

私には縁の無い話なので、授業の準備をしていると、声をかけられた。

「白野さんはいつも男の子と来てるでしょ。どんな関係なの?」

「彼氏に決まってるじゃん。金狼族なんて引く手数多だし。」

「いや...彼氏ではないかな。仲が良いのは認めるよ。」

声をかけてきた二人組は顔を見合わせ、

「じゃあ!空いてるのね!!!」

口を合わせてそう言った。

「え?」

二人組は既に私の元を離れ、自分の席に着き、何かを話している。

『空いてるのね』、そう彼女達は言った。

つまり黒斗を狙っている、それを私に宣言したようなものだ。

前の席の天使族の子と目が合った。

「白野ちゃん、殺気駄々洩れだよ。しまってしまって。」

「ごめん、ちょっと苛立ってたかも。」

いかんいかん、これでは黒斗と会った時に心配されてしまう。

彼女は一途颯いちずはやて、私のクラスメイトで、一応恋に関する天使。

恋のキューピットのような者らしいが、当の本人からすると、力を使い見ると、人が赤い紐でグルグル巻きになってるように見える。

しかも「結ばれるかどうか」の相談をされても、紐はあらゆる方向に延びているので、その求めている人と繋がっているかどうかなど、判別のつきようがないときた。

「颯ちゃんの方がこれから大変の筈だよ。頑張って人払おうね。」

「その時は手伝って。」

お互い、この一二ヶ月先の未来にため息をつきながらも、笑いあうのだった。


「黒斗、パス。」

「はいよ!」

昼休みはいつものように広に誘われてサッカーをしている。

運動不足な体にはキツイが、誘われて断るのも気分が悪い。

広が当然のようにゴールを決め、ハイタッチする。

「黒斗はボールを動かすの上手いんだから、サッカー部入れよ。」

「なんど誘われようが、俺はYESとは言えない。」

「白野ちゃんのことか~。分かっていても言いたくなるんよ。」

まだ夏に入っていないが、もう暑い季節だ。

Yシャツが汗でずぶ濡れだ。替えを持ってきてたか覚えていない。

毎日サッカーするのなら、ロッカーに替えの服一式入れとくのも考えものだ。

日陰に移動し、汗を腕で拭う。それでも汗は噴き出すばかりだ。

「いくらなんでも暑すぎる。」

「動いてるから暑いに決まってるでしょ。はいタオル。」

頭の上にタオルが被さる、こんなことしてくる人は一人しかいない。

「ありがとう白野。使っていいのか?お前のだろ。」

「別にいいよ。私は今日体育無いし。」

そう言い、横に座る。

「汗臭いから近づかないほうがいいぞ。」

「別に気にしないよ。黒斗臭くないよ、毎日風呂入ってるのも知ってるし。」

それならありがたくお借りする事にしよう。

タオルで汗を拭い、水筒の水を飲み干す。あと一試合ぐらいな遊べそうだ。

「そろそろ戻るわ、タオルありがとう。明日洗って返すわ。」

「じゃあお言葉に甘えるね。」

手を振り、サッカーコートに足早に向かう。それ見て白野も振り返す。

「黒斗がイチャイチャしてる...」

「あんな美人が彼女なら、普段の態度でも理解できるわ。」

「広、頼む俺たちにも女性を紹介してくれ。」

「いや俺そんなに女性と縁があるわけじゃ・・・」

着いた時には何やら暗い雰囲気が漂っており、少し経つと広がこちらに気づく。

「すまん待たせたな。」

「白野さんが見えたからね。どうせ黒斗の事だし、イチャイチャしてたんだろ?」

「そんなことはしてないが、お前らの基準が分からないからな。」

言ってから気づく、墓穴を掘った事に。

参加メンバーの表情が怖いものになってる、俺でも分かる、これは逃げた方がいいやつだ。

「俺はもう教室に戻ろうかな〜。」

「広、捕まえろ。」

「OK」

「え、ちょっと待って、いや顔こわ!タンマ、ストップ!!」

「「「待つかホロけ野郎!!!!」」」

人が減り始めた校庭に、か細い叫び声が響いた。


「酷い目に会った。」

「お疲れ様黒斗。」

帰り道、二人で歩く。

イジリ尽くされたせいで脇腹が凄く痛い、あいつら覚えとけよ。

それにしても暑い。時間を見るともう16時を過ぎている、それでもこの暑さだ。

夏が近いこともあり、まだ太陽は高い位置にある。少しだけ風もある。

白野の髪が揺れる、秋が近づけばきっと夕暮れの色と彼女の髪色が重なって綺麗に見える。そう思った。

「お前本当に絵になるよな。」

「どうしたの急に。」

「いやなんでも。」

駅に着くと帰宅ラッシュの時間も合間って、急行は満員電車。

とはいえ、急行の方が少しだけ早く家に着く程度の差だ。

「各駅で帰るか、白野もそれでいいか。」

「大丈夫、座って帰ろ。」

各駅に乗り、車内の端に向かう。白野に一番端を譲り、自分はその横に座る。

電車が動き出すと、ゆったりとした揺れと座れている楽さから、自然に睡魔が襲う。

「ちゃんと起こすから、黒斗は寝てていいよ。」

その言葉で安心したのか、寝息を立て始める。頬をツンツンと突く、起きる気配は無さそうだ。

この機を逃す白野ではない。

腕を交わし、黒斗の体をこちら側に持ってくる。すると簡単に頭が私にぶつかる。

そしてそのまま指も絡める、いわゆる恋人繋ぎだ。

もう一歩踏み込んだ関係になれたら、キスとか出来るかもしれないが、

ウフフと声が聞こえた。周りを見ると、少し離れた場所に老夫婦がこちら見ながら、ニコニコしていた。

慌てて手を離す。すると老夫婦も気付いたのか、顔を見合わせると、別の車両に移動してしまった。気を使われたようだ。

もう誰も見ていないのを確認し、もう一度指を絡める。

少しだけ握り締めて分かった。黒斗の手は、もう男の手をしていた。この手で、この腕で掴まれたら逃げられない、そんな事を考える。

我ながら少しズルい女の子だと思う。彼に告白すれば、きっと了承してくれる。

でもしない、私はのだ。私も女の子だ、そんぐらい乙女だ。

だから隠すし、抱える。

「だからね、いつまでも待てるよ。でも、他の子に目なんて向かせないよ。」

心から声が漏れる、それと同時に車内アナウンスで最寄り駅に着いた事が知らされる。

「あ!黒斗起きて、起きて・・・起きろ!!!」

「ウガッ着いた!?」

「着いたよ。」

彼の手を引っ張り、電車を降りる。恋人繋ぎはしたまま、改札を抜ける。

一度も離さず、同じ歩幅で歩く。彼も既に気づいてる筈なのに、何も言わない。

そういうところが好きだし、でも聞かないところは少し嫌い。

「やべ、コンビニ寄っていいか。明日ノート提出なんだよ。プリント貼る用のノート買わないと。」

「プリントはあるの?無かったら意味ないけど。」

「それはある〜」と言い、手を離しコンビニ駆け込んでいく。

「手、離れちゃった。」

少しだけ寂しい、今日はもう手は繋げないだろう。

数分の後、ビニール袋を持って彼が出てくる。

「すまん、行こっか。」

空いた手を差し出してくる。

「え?」

「繋がないのか。さっきしてただろう。」

あっズルい、そんな事してくるとか本当に。

「うん!」

手を握る、指を隙間に交わす。すると握り返してくれる、もうこの男はもう。

家の前に着いた。

互いにいつものように手を振る。あっ忘れていた。

「黒斗黒斗、ちょっとこっち来て。」

「なんか忘れものでしたか。」

「忘れものではあるけど、少し屈んで。」

「うん?まぁいいけど。」

二人の目が合う、そしてそのまま白野は抱きつく。

「あっ。」

黒斗は理解する、この後何が起きるか。事であり、毎度頭からすっぽりと抜けるもの。

「あむ。」

首元を噛まれた、割と強めに噛まれた。

「これでよし。じゃあまた明日、バイバイ黒斗。」

目的を果たした彼女は、そそくさと家に入っていく。

噛まれた箇所に触れる。少しだけ熱が帯びていて、噛み跡も触れられる。

「あいつまた...なんで毎日噛んでくるんだ?」

気にしても仕方ない事だ。家に帰ろう。


家の扉を開ける、玄関には靴が二足。もう両親は帰ってきてるみたいだ。

「ただいま〜。」

両親の「おかえり」がダイニングから返ってくる。

そのまま顔を出し、冷蔵庫の炭酸水を一本取り飲む。

何故か両親共に俺を事を凝視していた。

「俺の顔に何かついてる?」

「「いや〜ついてないよ〜。」」

なにそのニヤニヤした顔、絶対に良からぬ事考えてる時の顔じゃん。

手早く飲みきり、荷物を持って自室に向かう。

「いや〜白野ちゃんは独占欲つよつよね貴方。」

「黒斗も将来は嫁探しには苦労し無さそうで安心だ。」

両親はそう良い、笑い合う。


金狼種の愛情表現は『噛む』こと。

しかしそれは甘噛みであり、などは基本残さない。

つまり痕を残すということは、愛情表現より上の表現。

『それは自分のもの』と知らしめるものであり、そして痕を残した相手に、

『私の全てをあげます』と証明する為のもの。


「黒斗は私のもので、私は黒斗だけのものだよ。」

狼な幼馴染は今日も明日も明後日も、大切で大好きな貴方に『』を付ける。

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