猫吾郎

俺っちは猫である。名前は猫吾郎らしい。

どうやら、俺っちは死んだらしい。

「ふっ」

もし、生まれ変わるなら、また猫がいいな…だって…

人間が恵んでくれるから!!!

にゃ゙ははははーはーん!

俺っちがいい猫とでも思ったか!!ばぅぁぁぁぁかめ!!!!俺っちはなぁ!利用できるものは利用するんだよ!自分が優位に立てるなら、他は知ったこっちゃにゃいにゃ〜ん。

だって猫だもの。

可愛くて愛玩されている猫が性格いいとにゃんて思うんじゃにゃーよ〜。

人間なんざ、利用するだけして捨てるのが良いにゃん♡

にゃはっはっはっはーー!

まぁ、死んでるから、こんな独り言、寂しくにゃるだけにゃん。

(でもにゃーこうしていると、何か、大事な事を忘れている気がするにゃん。大事な事…そう。何かを頼まれてたにゃん)

そういえば、人間だと、三途の川を歩くんだっけか?嫌だにゃ〜。猫は水が嫌いにゃのに。

雨も川も湖もお風呂も大っ嫌いだにゃん。

何も無い空間を歩いていると、突然、豪華な金ピカな場所に出た。

(にゃんだここ。まぁ、水に入らないならいいにゃん)

美人猫達が二本足でたってよく分からない羽を持っていた。

(なんで猫が二本足??前足って、手なの?)

突然スポットライトが真ん中の椅子にあたる。だが、よく分からない羽で隠されている。

一匹、タキシードを着たイケメン猫が超ドヤ顔でスポットライトに当たらない、前に出てきて、突然タップダンスを始めた。

(え?にゃに?マジにゃに?)

タップダンスの音だけが響き、一本しかないスポットライトに当たったミラーボールが光を放っている。

「オッレーーーーッ!」

ミラーボールが消えて、タキシードを着たドヤ顔のイケメン猫がきいを切らして、声をはりあげた。

スポットライトは当たってないけど。

当ててやれよ。めっちゃ頑張ってたじゃにゃいか。

スポットライトは、まだよく分からにゃい羽に隠された人物を移している。

周りがちょっと動揺し始めて、もう一回、タキシードを着たイケメン猫が声を張る。

「オッレーーーーッ!」

「…」

「…」

「…」

ブチッ

「出て来いやーー!スポットライト当たってんだろ!!」

「うるせぇなぁぁ。にゃんにゃんにゃんにゃん騒がしぃんだよコノヤロウ。あのな、吾輩にだってタイミングちゅーもんぁんにゃろうが」

輩のような野太い声が聞こえたと思ったら、なんかよくわかんない羽をかけ分けて出てきた猫?の風貌に俺っちは絶句した。

カオスだった。

美麗なメス猫の首からしたが、人間のマッチョな上半身だった。下半身は猫。身体中に装飾していてジャラジャラしている。

美麗な顔から四本のタバコ。

人間手で四本のタバコを取ると、大きく煙を吐いた。

「お、お前は何者だ!なんなんだよ!猫じゃねぇことは確かだな!」

思わず毛が逆だって唸ってしまう。

「シャーーーーっ!」

猫かよく分からないそいつはソファ?椅子?にまた腰かけ直すと、短くなったタバコを灰皿に入れ、足を組む。

「あぁ?何者?そりゃあ、ここに居るんだから神に決まってんだろうが」

「か、神?」

「あぁ。神。人間は吾輩の事を招き猫って呼んでんにゃぁ〜」

どこからか煙管を出すと、そのまま吸う。

「招き猫?」

「そうそう。店にあんだろ?吾輩の見姿。」

俺っちは片手を挙げている猫の置物を想像した。

(少なくとも、こいつの千倍は可愛い。あっちの姿の方がいいんじゃにゃいのか?)

「うるせぇなゴラァ。それじゃあ吾輩が舐められんだろうがゴラァ。」

「カオスよりかはマシだ!ニャンで輩?チンピラみたいな性格の神の方が嫌だ!偉そうなのはまだしも…」

「あぁ?ンなの元の性格だからに決まってるだろ。運を与え、金をまきあげ、猫に人間を奉仕させる。これぞ!人間屈服制度!そしていつか、にゃがはははははは!」

(俺っちより思想がやばーーー一い!)

「マジかよォ…猫の神がこれかよォ……もっとマシかと…」

「おいおい、ひでぇこと言うじゃねぇか。あんまし、俺を怒らせるんじゃねぇぜ?」

(ひぃ!指取られる!)

「煮干し三つ寄越してもらうぜ」

「やっす!」

「冗談はさておき。猫吾郎。お前はこれからどうしたい?生まれ変わるなら、猫がいいか?それも……」

「そんにゃの決まって……いや、記憶を思い出してから決めたい」

(そうだ、俺っちは思い出さなくちゃ!……ってアレ?なんでこんな必死ににゃってんだ?)

ふーーっと、招き猫は煙を吐いて、胡座をかく。

「ほう?確か、頭を潰されて死んでるから、多少記憶がねぇんだっけか?まぁ、よかろう。吾輩優しいから。おい、にゃんはり、持ってこい!」

(にゃんはり??)

美人猫達が重そうに持ってきたのは、二本足で立っても全部映るぐらいの大きさの鏡だった。

「にゃんだこれ?」

「猫専用じょうはりの鏡。まぁ、これで生前の行いが分かるって優れもんよ。ほれ、見たきゃ見ろや」

招き猫はゴロンと、長椅子に横になる。

俺っちは鏡に前足を当てると昔の記憶が出てきた。

『可愛いねぇ〜』

『可愛いねぇこれ食べるかい?』

『みにゃー』

(ぐへへ〜、猫最高だにゃぁー!人間は飯を献上してくれるし最高〜にゃはっは~!)

「止めろぉぉぉぉぉぉぉお!!!」

鏡いっぱいに写った自分のゲスい顔にありとあらゆることが冷静になって物凄く羞恥と痛々しさが、しんどい。

「にゃゲッゲッゲ。己の言動を客観的に見て悶える姿はやっぱり最高に良いにゃぁー。タバコが美味い美味い」

「ゲスがァァァァ!俺っちあんなにクズ猫じゃにゃい!」

「おめぇ、数分前の自分の言動思い出せよ」

「シャラップ!」

「どうすんだぁ?辞めるか?」

「いや、見るにゃ。こんにゃんで、目を逸らしてられにゃいにゃん」

「ほぉ。なかなか度胸あるじゃねぇか」

俺っちはそのまま前足を鏡につける。

鏡には、無邪気な子供に追いかけ回されて、投げ飛ばされた姿が見えた。

思い出した。飼い猫だった俺っちは突然ダンボールに詰められて捨てられたんだ。

それで思ったんだ。人間は信用しちゃダメだって。

利用しなくちゃ、利用されて終わる。愛玩は愛してるんじゃなくて、家族じゃなくて、おもちゃなんだって。

鏡に映る俺っちは、その辺のガキに自分が蹴り飛ばされ、ボロボロで満身創痍だった。

川に投げ落とされた俺っちは泥だらけで、見苦しい三毛猫は橋の下になんとか歩いて来た。

(たっく……猫は水が嫌いって、学校で教わらにゃいのか?キュートな毛並みが泥だらけに……)

ただ、橋の下には先約が居た。小さな子供だった。人間の。

「君も一人のです?」

こんな濡れて泥だらけの抱き上げて、その小さな人間は俺っちを撫でた。

(撫でるなら、餌よこせや)

「私も、一緒の一人のです」

撫でる手が震えて、ポロポロと落ちる大粒の涙を舐めればしょっぱくて、笑っているのに、苦しそうに泣いていた。

「ふふっ!くすぐったいのです!」

「にゃーっ!」

突然寝っ転がった子供に少し焦ったが、涙は止まらなかった。

「にゃ〜」

(にゃんだよこいつ…一人で泣いてるのか?ここに人間はあんまりこにゃいだろ…)

あぁ、思い出した。

莉久だ。この人間の子供は。莉久だ。世話焼きなのか、俺っちの面倒を見ようとして、よく俺っちにご飯を持ってきた。

でも、たまにだから普通にゴミとか漁ってた。

餌場を探してさまよっていたら、嫌な匂いのする建物に近づいた。

(にゃんだここ?)

赤い十字架の書かれた建物は、だいぶでかくて、周りにベンチがあった。

「アレ?三毛猫だ。可愛い〜」

頭をうりうり撫でてくるのは、黄色いカーディガンを着た少女だった。

確か、名前は明莉だったはず……

「にゃ゙〜」

俺っちを抱き上げると、黄色いカーディガンのセミロングの儚い雰囲気の少女は笑顔を向けていた。

「可愛い〜」

ボロボロで、いつ消えるかも分からないような少女。

「猫吾郎!」

莉久の声に俺っちを抱き上げている人間は、声の方を見た。

「猫吾郎?この子の名前?」

「は、はいのです…」

「そうなんだ。可愛いね」

「はい!おめめにゅるきゅるですきのです!」

「そっか〜。首輪とか付けてないの?」

「飼い猫じゃないのです…あ!でも、リボンはあるのです!」

そう言ってランドセルから青緑のリボンを出した。

(うげぇ…結ばれる…まぁいっか)

仕方なく結ばれてやった。

「可愛い〜」

「可愛いのです〜」

と、また撫でくりまわされる。結局、俺っちは愛玩動物らしい。

けれど、他の奴らと違って、二人は俺っちに定期的に逢いに来ていた。探したり、名前を呼んでくるので、仕方なく、俺っちが会いに行ってやったのだ。

「あ、いたいた」

「猫吾郎〜ご飯持ってきたのです〜!」

「にゃ〜」

でも、それがどこか嬉しくて…数ヶ月程度なのかもしれにゃいけど…楽しかった。

あの頃は、明莉と莉久はいつも二人で来ていたのに、突然、明莉一人で逢いに来た。

明莉の顔は暗く澱んでいて、死んだような目で俺っちを見ると、抱き上げて、強く抱き締めた。

「にゃー?(明莉?)」

痛そうに、苦しそうに歪んだ顔で、死んだ目がから涙を零していた。

「猫吾郎……ごめん…私、一緒にいれないや……もう…無理だ」

明莉は、昔、俺っちを捨てた飼い主と同じ事を言った。

(あぁ、やっぱり、人間は利用するだけでいい。情なんて、湧くだけ無駄だ)

「猫吾郎」

明莉は俺っちの名前を呼ぶと、しっかり目を見て言う。

「莉久ちゃんを………頼んだよ…」

そう言って、明莉はどこかへ消えてしまった。

明莉と会ったのはあれが最後だった。

(人間も、人間を捨てるんだにゃ……)

アレっきり、明莉は莉久と俺っちの前に現れることは無かった。

「今日はお姉ちゃんは来ないのですね……」

莉久の言葉が、悲しくて泣きそうになった。

(にゃあ、明莉。にゃんで俺っち達を置いてどこかへ行っちまったんだ?にゃあ、明莉……お前も、俺っちを捨てるのか?にゃあ………明莉………三人でいる時間が、とてつもなく楽しかったと思ってるのは、俺っちだけにゃのか?にゃあ、答えてくれよ……)

莉久の膝に乗って、悲しそうな莉久の顔を舐める。

「ふふっ、くすぐったいのです。今日は、たまたま来ないだけなのです…きっと、また来ますのです」

(来ないよ。だってそう言ってたから。そんな事すら、言えにゃいなんて…嫌ににゃるにゃん)

明莉は本当に二度と俺っち達の前には姿を現さなかった。

否、一度だけ、姿を見たことがあるにゃん。

『行方不明届けがたされていた『太宰明莉』さん。捜索隊の目の前で自分の首を切りつけ……』

(にゃあ?写真を見たにゃ。明莉だったにゃ)

ラーメン屋の裏から見えたテレビだったけど、遠目だったけど、間違いにゃいにゃん。猫は目がいいにゃん。

にゃんだよ。にゃんでだよ。

やっぱり、捨ててるじゃにゃいか。人間は自分勝手で、わがままにゃん。勝手に決めて、お騒がせにゃん。最低にゃん。


突然見ていた画面が消えて、今の俺っちの姿が映し出された。

「にゃ!にゃにすんだよ!」

招き猫に文句を言う。

「その辺でいいだろう。決まっただか?」

「最後まで見せろや!!」

「おいおい、一日何匹の猫が死んでると思ってんだ。こんな事に時間使ってられにゃいんだよ。こんにゃろぉう。後ろ見ろ後ろ」

そう言われて、後ろを振り向くと、ぞろぞろと猫が集まっていた。

「そ、それでも最後までみたいにゃ!」

(せめて、莉久があの後どうなったか…)

「フン。まぁ、見たきゃ、見れば良いさ。だが……何を見ても怯むなよ?」

「望むところだにゃ」

「フッ……良いだろう」

顎で鏡を指す。

俺っちはそのまま鏡に前足をつけた。

「いいか?五分前だ。五分前。それ以上はダメだ」

「わかったにゃ……」

雨が酷い。

ちょっと気を抜けば、排水溝に落ちてしまいそうな程の酷い雨だった。

(にゃっく……にゃんで雨にゃんであるのかにゃ。猫は心底雨が嫌いにゃのに。遺伝子レベルで水が嫌いにゃのに)

病院の屋根で雨宿りをしていた俺っちは、たまたま病院から出ていく莉久を見つけた。

病院から出た莉久は泣いていて、目が虚ろだった。

『あの日の明莉と同じ目をしていた』

全部に疲れて、泣くことも出来ない、澱んだ目。

ダメだよ。明莉はその目で一人になったから死んだ。

莉久、お前まで俺っちを捨てるのかよ。

(ふっ、そうだよにゃ。人間なんて、自分勝手で身勝手で、俺っち達の気持ちなんて、何一つ分からない。それが人間って動物だもんにゃ。そうだよにゃ。どうって事にゃいにゃん。餌をくれるやつなんて……他に沢山、居るし…)

『莉久ちゃんを……頼んよ…』

「っ……」

(アホにゃん。明莉は。アホにゃん。言葉が分かんない猫に頼むにゃんて。猫は水が嫌いにゃんだぞ?)

恩なんて一つもない。利益なんてひとつも無い。

『猫吾郎!』

『莉久ちゃんを……頼んだよ…』

にゃのに……なんでこんにゃに…アイツらが過ぎるんだ。

アイツらが、離れて行くのが嫌だと思うんだ。

明莉に怒りたい気持ちと、頼られて嬉しい気持ちがこんなに湧き上がってくるんだ。

『頼んだよ…』

分かったよ…。

しょうがねぇ。お前に頼まれちまったんだ。

任せられちまったんだ。人間とは違って、俺っちは義理堅い猫でな。優しい俺っちに感謝しろよ。

明莉。

俺っちは雨の中に身を乗り出して、体を濡らしながら走った。

(にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!)

心の中で叫び声を上げた。

全身を打ち付ける雨が重くて気持ち悪くてじっとしていられない。

(気持ち悪い!気持ち悪い気持ち悪い!)

それでも、足を止めるな。体を前に倒せ。莉久を追いかけろ。

どうせ、いつもいるもう一つの建物だ。場所が分かっているなら急げ。

(くそぉー!さみいぃ!つめてぇ!水やだぁ!)

それでも足を動かす。

傘をさした莉久の姿が見えて、俺っちは必死に鳴いた。

「にゃーっ!にゃーっ!」

俺っちの鳴き声は、莉久に届くことは無く、建物の中に入って行った。

雨の分厚い雲のせいで、仄暗い外に人間は全然いなくて、車すら走っていなかった。

息が切れた俺っちは疲れきって、フラフラな足で必死に建物に近づいた。

(ちくしょう!雨すら降ってなかったらぁぁあ!もっと早く動けるのに!)

フラフラな体で重い足を前に出した時、俺の体は吹き飛んだ。

「に゙ゃぁ゙……」

(何が起きたんだ?前足が痛い。一本折れたか?)

いてぇよォ…

でも、まだ体は動く。もうちょっと…動け…体…

重い雨が体を傷つける。

痛みと熱が、折れた前足の感覚を奪う。

「嘘、ちょっと……」

青紫の傘を指した前髪がない女が居た。

何故か、そいつのバックの隙間から、明莉が持っていた鈴蘭クラゲのストラップがあった。


(こうして神視点になって気づいたが、こいつは明莉の親友だった木場晴日だ)


おそらく、俺っちの事を自転車で轢いた女は屋根がある所に自転車を止めてから戻って来ると、その手には大きな細長い丸めの石が握られていた。

(やべぇ……動かねぇと……)

折れた足を庇って動いた瞬間、肋に石が落ちる。

「がっ!!!」

痛みよりも、全身の力が抜けた感覚が先に来た。

その後に全身を駆け巡るのたうち回るような痛み。

痛い。痛い痛い痛い痛い痛い。

体が………動かない…

それでも、前足を必死に動かして、前に進む。

「まだ生きてるんだ。簡単に死なないな…」

そう呟いて、俺っちを簡単に蹴る。

「ぎゃぁ!」

軽い体は簡単に電話ボックスに打ち付けられる。

あぁ……死んじまう。死んじまうよ……

ごめん…ごめん……莉久…ごめん……お前の側から居なくなるのは…俺っちだった…

ちくしょう……なんでこうなっちまうんだよぉ…

莉久が……また泣いちまう…頼まれてるのに……頼まれたのに…

女はゆっくりと近づいて俺っちの前で腰を落とす。

(畜生……悔しい。悔しい…。名前が嬉しかった。呼んで撫でてくれる手が好きだった。やっと……やっと頼られたのににゃ……約束…嬉しかったのににゃ……ごめんな………俺っち………お前の事…傷つけちまう……一番……辛い方法で……)

そして、石を大きく振り上げて落とす。

「ヴァギァ!」

そこで鏡は今の俺っちを映した。

思い出した。確か、あの後自殺屋と会って…。明莉とも会ったんだ。

「おい」

美麗な猫の顔からは想像できないような野太い声が俺っちにかけられる。

「にゃんだよ」

「決まったか?」

煙管を吸い込んで、大きく息を吐く招き猫。

「あぁ。人間に……莉久の兄妹になる。姉妹でもなんでもいい。ともかく、莉久の傍に生まれたい。莉久と巡り会いたい」

招き猫は煙管の灰を撒くと「くっくっくっ」と、喉を鳴らす。

「人間に殺された猫が人間に生まれ変わりたいと願うか…面白い。良いぜ?やってやるよ。ただ、お目当ての人間と巡り会えるかは…お前の運次第だ」

「分かった」

招き猫は顎で扉を指した。俺っちはその扉の中に入る。

「んじゃ、良い旅路を。ただ、勝手に諦めて勝手に死ぬなんざ、おりゃ許さねぇからな?」

「分かってるにゃん。諦める気なんてにゃい」

扉の先は何も無くただ落ちるだけだった。

猫吾郎の居なくなった招き猫は煙管を吸ってゴロゴロと笑う。

「けっけっ、けけっけ。にゃがははは!は〜大した奴だ」

招き猫は笑う。猫吾郎の数奇な運命を招いて、笑う。

猫である名前の無い猫は、少しだけ猫吾郎を羨ましく思って高らかに笑うのだった。

「招き猫の加護にゃんて、商売ぐらいだがにゃーん」

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