木場晴日

私、木場きば晴日はるひは恋に落ちた。

それは、高校生のときだった。

しかも、蒸し暑い夏で、晴天の入道雲をよく覚えている。

黄色いカーディガンをいつも着ていた少女だった。

茶色が入ったセミロング。光るような透明な白い肌。

儚くて可愛らしいお人形の様な少女。同じクラスで、マドンナでは無いけど、同性異性両方から隠れた人気のある少女だった。

最初こそ、『可愛い子』としか思ってなかったけど、だんだん彼女に私は引かれて行った。

彼女がみにつければ、どんなものでも綺麗に見えた。

包帯も、夏には似合わないカーディガンも、全部。傷だって、綺麗に見えた。

本当に、本当に彼女が好きだった。大好きだった。

だから、彼女と友達になったんだ。

私は、彼女のように儚くて、絵画やイーゼルが似合う様な美人じゃない。どちらかと言うと、真逆で元気にバレー部に勤しんで、軽く肌を焼いていた。

ボブより少し短めの髪は前髪も無くて、彼女とは本当に真逆だった。

私の気持ちの『好き』が、彼女とは違う事、分かってたから、せめて、彼女の『一番の親友』になりたかった。

頑張ったんだよ。

『私、君の一番になりたくて!!』

君の包帯だらけで、綺麗な手に縋る。


『気持ち悪い』


カツン!

黒板にチョークを叩きつける音に私はハッとする。

「『観念論』とは、まぁ、端的に言えば、『物事は私達が認識しなければ存在しない』って考え方の一つ。私達の主観、つまり、認識に基づく考え方の事」

木場晴日は大学の講義受けていた。

そうだった、今は、私は普通の大学生だった。

(『物事は私が認識しなければ存在しない』か……)

『晴日!』

笑顔で振り返るあの子を思い出す。

あの子との思い出が、夢だったら、どれだけ素敵だろうな…。

あの子は、夢のような少女だった。

筆箱に付いているストラップを見る。クラゲすずらんのストラップ。今でも大切に持ってるんだ。

(ねぇ、私、君の一番になれた……よね)

「ふふっ」

「またそのストラップー?」

隣から鬱陶しそうに話しかけてきたのは、飛鳥あすかだった。

彼女は、儚くて夢のような彼女と違って、変に存在感があって、嵐みたいな奴。素直じゃなくてムカつく。

「何よ……煩いなぁ…」

「そのストラップ、時々眺めてはニヤニヤしてるけど、なんかあんの〜?」

「何?気になるの?」

「ばっ!そんなんじゃないわよ!誰が、汚れたストラップなんて…め、珍しいストラップだから、私が聞いてあげてるの。………さっさと答えなさいよ」

飛鳥は、このストラップが相当気になっているらしい。

「あ〜、ハンドメイドのやつだからね。高校の学祭で買ったやつ」

「ふーん…それ、元カレとのお揃い?」

「…。いや、好きだった人とのお揃い」

「ふーん」

「自殺した。だから形見に近い」

(まぁ、あの子は無くしちゃったけど…)

「…ふーん。自殺と言えば、最近ネットで自殺屋さんって、ウワサがかるらしいわよ?」

「ふーん。それ、私に関係ある?」

「うちのサークルの後輩が、呼び出したことがあるんだって。そこで相談。次の民俗学の共同レポート、都市伝説って事にして、話聞きに行きましょうよ」

「えぇ…」

(まぁ、一緒にレポート書く相手にも書く事にも困ってたけど…まぁ、いっか)

「どう?私はついでに心理学のレポートも終わらせてやるわ」

(最低だな……コイツ…)

「まぁ、いいよ」

「しゃー!」

「そこの二人。私語を慎みなさい」

教授に怒られた。

「「はい……」」


飛鳥に案内されて、サークルの集まりに参加させてもらった。

「奥野細谷くーん!」

と、呼ばれた先に、ストリートファッションの相当チャラい青年が居た。

黒髪に、黄色と薄紫のレイヤーカラーと、黄色の毛先カラー真ん中分けのウルフカットの頭がカラフルでピアスや、イヤーカフスを沢山つけた、いかにもチャラい……不良?に見える様な青年だった。

顔立ちは、猫っぽくて、メイクと雰囲気で、分かりずらいがだいぶ童顔な部類だ。

『自殺屋』という単語からは真逆のように見える。

「うげ……アス先輩」

パンを食べながら、女性に囲まれて楽しそうに喋っていた青年……奥野細谷くん?だっけか?が、飛鳥を見た瞬間表情を曇らせて、食べていたパンを飲み込んで慌てて席を立つ。

その肩をがっちりと掴んで飛鳥は逃がさない。

「お〜〜〜〜〜っとっと?何逃げようとしてる?あ、髪色変えた?そっちも似合ってるねー」

「しつこいっス!絶対に話さないって言ってるじゃないッスか!いい加減心折れてくださいっス!」

「まぁまぁ、今日は友達を連れてきたんだ。話して上げてくれ!」

「嫌っす!」

奥野くんの反応が普通すぎて可哀想になってきた。

「飛鳥、一回離して。私が話しをするから」

「まぁ、私よりかはマシか…」

ぱっと、奥野くんの肩を離すと、相当強い力で掴んでいたのだろう。奥野くんは椅子から地面に転げ落ちた。

(か、可哀想…)

「えっと…奥野くん……だっけ?初めまして、木場晴日って言います。率直に言うね。私達、共同レポートで、都市伝説を書くことにしてて、巷で噂の自殺屋さんについて、調べてるの。それで、君が、呼び出したことがあるって、聞いて…話を聞かせて貰いたいの」

奥野君は椅子に座り直して、私の話を黙って無表情で聞いていた。それが何処か、人形の様に見えて一瞬ゾッとした。

いや、違う。見られている。私の奥を見ているような…そんな気がした。

自然と背筋が伸びて、背中に冷たい汗が伝う。

「別に、言う話なんてないっスよ。検索すれば、ネットに電話番号乗ってるんで、それに電話すればいい。まぁ、ア《・》ン《・》タ《・》は《・》無理・・だろうけど…」

「な、なんでかな?」

奥野君の声が低く、明らかに私を警戒している。いや、ここまで来たら嫌っている様にしか見えない。ほんの数言、話しただけなのに、彼に何が見えてるの?

「だって、アンタは『死にたい』じゃなくて、『殺したい』の方の人間だろ?」

「は?」

「んじゃ、二度と自分に話しかけてこないでください。………面倒事に関わりたくないんで。んじゃ」

満面の笑みでそういった後、部室を出ていった。

なんちゅー捨て台詞だ。

そんな事を言われたらムカついて燃えてきた。

「…」

「あれ?晴日?なんか、静かね」

「飛鳥」

「ん?」

「尾行しよう」

「なんで??」

「あのチャラ男!!!舐めんじゃねーぞ!先輩だぞ私!」

「はぁ…」

「レッツゴー!ほら行くよ!飛鳥!」

「全く……しょうがないなぁ」

そういう事で、私はチャラ男事、奥野細谷を尾行する。

人混みがすごい駅でも、ひときは目立つ髪に高い背のおかげで、尾行は本当にしやすい。

駅のホームに立つ、奥野くんを見ながら思う。

『だって、アンタは『死にたい』じゃなくて、『殺したい』の方の人間だろ?』

あの鋭い言葉。どうしてあんな事を言ったんだろう。

(あんの、チャラ男…私の何を知ってるんっていうんだ)

『あの子』に言われるならまだしも。私は『あの子』のことをよく知ってるけど。『あの子』は私の事、少しは知ってくれてたかな?

『知らないよ。私、晴日の事なんにも知らない。晴日だって、私の事、なんにも知らないでしょ?………ねぇ、晴日……貴方は、私の何を見てるの?』

儚くて、綺麗なな彼女。百合?いや、鈴蘭の方がきっと彼女に似合う。百合ほど主張する花じゃなくて、小さくて、か弱くて、守りたい花が『あの子』だ。

可哀想に。『男』は、あんな綺麗な者を汚さなくちゃ、手に入れた気がしないなんて…。哀れで可哀想。

それこそ、あのチャラ男はどうせなんにも食いもんにしてきたんだろうーなーぁー!あー腹立たしい。

私が男だったら『あの子』と恋人になれたのかな…。

「ねぇ、晴日。いじめられる人間ってどう思う?」

なんだ突然。病んでんの?飛鳥。

「え?何?」

「いや、思わん?学校とかっていじめられ人間ってどんな人なんだろうって。私はさ、いじめが起きてる事実すらよくわかってなかったからさ。当事者はどうなのさ~」

(勝手に人を当事者にするな)

たしかに、私はいじめをしていた側だ。

私は、親友の机にゴミを置いた。

それが、『あの子』がいじめられる合図だった。

私が、そ《・》れ《・》をしかけた。

「さぁね。知らない」

「私さ、思うんだよ。いじめられる人間にも問題あるって思うんよね」

「…」

飛鳥は私を説教するように、考えを、思考を、哲学を話す。

「いじめられる人は、優しい。頼めばやってくれるから。反応があるから、軽いふざけに歯止めが効かなくなる。

一方で、加害者と被害者が逆転した場合だ。

コレは、制裁って言う大義名分がある。その時点で、被害者と加害者は逆転する。

どう?そう思うと面白くない?」

「ふっ、アホらし。そんなのほとんどないよ。クラスのカーストは動かない。そんなの、二次創作すら出ないよ。それより、一番多くて、デカイ可能性あるでしょ」

「え〜?ある?」

「被害者が他の被害者を作る。過去虐められてた人間が、群れに入れば、別の被害者を作る」

「うわ、生々しい~」

「生だからね。いじめって言うのはもっと簡単で突発的で、ターゲットなんて誰でもいい。それが根っこだよ。クラスメイトに興味があった?全員の趣味を知ってる?好きな食べ物は?嫌いな食べ物は?みんな興味がある訳じゃない。いじめっ子はいじめられっ子に興味が無い。明確な悪意があれば、まだ救いがるのかもね。言っておくけど、いじめられる側に原因があるのは当たり前。運が悪い。性格が悪い。ちゃんと友達を作らないのが悪い。全部、全部全部、いじめられる側が悪い」

「ふーん。随分、厳しくて嫌な意見だね」

「でも、加害者はしょうもない」

「なるほどね…」

(最終的にそう持っていくか…やっぱ、『晴日はいじめた側だよな〜』)

チャラ男は、渋谷駅に着いてから真っ直ぐショッピングモールに向かう。何故か、レディースの服を見ている。

なんだアイツ…変態か?

「あれは恋人の服を選んでるな…」

飛鳥がつぶやく。

「何で?」

「知らん。彼女にせがまれたとか?或いは、彼女のセンスが絶望的すぎて、自分が渋々選ぶ……とか?あ、そういえば、前大学の前で待ってた女子高生が居たなぁ~いやー、あの子まじ美人だった」

「なるほど…」

「おま、人生彼氏無し?」

「そうですよ。好きなの女の子なんで」

「うわ、多様性~きもーぉーい」

「多様性がか?私がか?どっちだ言ってみろコラ」

「まぁ、両方だね。奥野があんな態度とったのはアンタが初めてだよ。多分」

「はぁ?」

「奥野ってさ、人を見る目はすごいんだよね。チャラ男っぽいけど……もしかしたら、それも本人的には作ってるのかもね。敵を作らない為の戦法なのかも」

「はぁ?敵って?」

「さぁ?現代社会、そんなもん色々居るじゃん?」

「ふーん」

「でも、まぁ、一つ言えるのは、奥野はいい子だよ。いい子すぎて、心配になるぐらいね」

チャラ男、もとい、奥野は諦めたように店を出る。

時計を確信して、またため息をついて、ショッピングモールの外へ出る。

(割と直ぐに出たな…)

追っているうちに、渋谷のハチ公前に来た。

「誰かと待ち合わせだ…」

飛鳥が呟いて、すぐにはっきりした声が聞こえた。

「辞めてください……!」

嫌がる声は鈴を転がしたような、綺麗な声だった。

数人の本当のチャラ男が、ボブヘアーの女の子に絡んでいるようだった。彼女の声は、か細くて、割と近い私達ですら、彼女が何を言っているか分からなかった。

「可愛い顔してんじゃん。何?このガーゼ。あ〜痛いタイプの子だ!」

「大人しそうなのに、中二病とか、マジでウケる〜」

と、楽しそうに笑いながら女の子の腕を掴む。女の子が首を振って抵抗しているうち、地面にガーゼが落ちた。私からは女の子の顔は見えないが、周りがザワついたのを見ると、相当彼女の怪我は酷いのだろう。

「うわぁ!気持ちわりぃ!」

と、声を上げて後ろに後退るチャラ男。

(おいおい、お前らが必要に絡んだからだろう…全く、これだから男は……)

私が助けに入る前に、少女を引き寄せる腕があった。その腕は、パーカーを少女にかけて、自分の方へ引き寄せていた。

「いい加減にしろよ。お前ら。女の子が傷気持ち悪がられて傷つかないわけないだろ」

奥野だ。

チャラ男は奥野の胸ぐらを掴むと、怒りのままにまくしたてた。

「あぁ!気持ち悪いバケモンにバケモンって言って何が悪い!だいたい、こいつが大人しく着くいてくれば、こんな事にならなかったんだ!お前こそ、こうやって女助けて、自分はかっこいいヒーローにでもなったつもりかよ!」

奥野は、少女を後ろに隠す。

「あ〜?知らねぇよ。アンタこそ、ナンパ失敗して八つ当たりすんのはダサいんじゃない?」

後ろで少女の手が奥野の手を握っている。

「ひゅー!かっこいい~」

一緒に隠れて見ていた飛鳥が、野次を飛ばした。

「ちょっ!飛鳥!」

(尾行してんのに!)

飛鳥は奥野と、チャラ男達に近づいてニコニコしている。

「こーんなところで、ナンパして、失敗した挙句、彼氏登場しちゃって、これ以上恥を晒したくないなら、さっさと去りなさいよ」

「ウゲ、先輩……」

「ウゲとはなんだ。せっかく助けに来たのに…」

奥野は私をちらっと見て、少女を隠す。

チャラ男達は周りの奇異な目を見渡して、「チッ!馬鹿らしい」と、言って、簡単に去ってしまった。

(なんだあの男)

「なんで、先輩達が居るんスか…」

「尾行!奥野を!」

「なんで!!!」

「いやぁ、晴日がお前を尾行しようって言ったから…まぁ、楽しそうだし着いてきた」

「あっそ………」

奥野君の顔が死んでいる。

「んで、君の後ろに居る可愛い可愛い乙女はどんな関係?」

奥野の後ろから顔を出したのは、儚い少女だった。

人形の様な美人で夢のように儚くて、綺麗な少女だった。私の母校の制服……セーラ服かブレザーが分からない制服を着た少女だった。奥野のパーカーをかけられて、恥ずかしそうに顔を隠す少女。

『晴日』

黄色いカーディガンの夢の様な少女。

清夏すらも苦しくなる様な熱い夏だった。

(なんで……生きて……あの子は…死んだはずじゃ)

なんで、なんで、なんで!

君は私のなのに!

『明莉ちゃん!』

「アンタ!」

叫ばれて、ハッとした。

目の前に強ばらせた少女が居た。

「あ、あの……」

「あっ…ご、ごめん…」

「い、いえ……」

私は大きく深呼吸してから、自分の頬を叩く。よし。

「私、木場晴日。はじめまして。ごめんね。私の昔の知り合いにてて……つい、感極まっちゃった…」

「そ、そうですか…」

「うん。ほんと、ごめんね。名前、聞いてもいいかな?」

「ひ、雛姫菊です…奥野さんの友達です」

「そう。菊ちゃんって呼んでいい?」

「は、はい…」

奥野のは不機嫌そうに私と菊ちゃんの間に入る。

「何?」

「……どうも。助けていただいてありがとうございました」

「い、いえ……」

私がたじろいでいると、飛鳥が私の代わりに会話を続けてくれた。

「あ〜、気にしないで。楽しそうなだけで、別に奥野の為じゃないから。って、事で!自殺屋さんのこと、聞かせてもらうぞー!」

「やっぱりそれが狙いか!!!」

なんと、そのまま飛鳥はハチ公前で取材を始めた。

(せめて、どこか移動しようよ…邪魔だよ…)

「自殺屋さんってどんな人なの?」

飛鳥の質問を着て、私は慌ててメモ帳と筆記用具を出した。

(え?自殺屋って人なの?)

「どんな人って?」

奥野は、どこか警戒している様子だった。

「会ったことあるんでしょ?」

飛鳥の質問に、奥野は目を逸らして、菊ちゃんは奥野を見た。

(もしかして、自殺屋さんって、自殺サークルとかの名前か?いや、だとしたらネットで電話できるのおかしいか…。じゃあ、自殺志願者を集めて殺す殺人鬼?まさかね。それも電話番号を出す意味がわからない。警察の調べが行くだろうし…いや、自殺で処理されたら、あまり調べられないと聞くし……完全に自殺だったら通信履歴は辿らないのか…?さすがに映画見すぎか……)

「割と普通の人ですよ。強いて言うなら、めちゃくちゃ顔がいい好青年って感じです。すんごい爽やかですね。顔は…」

『いぇーい!無責任、無責任!』『ご結婚おめでとうございますぅ〜(結婚とは言ってない)』『あんのクソガキ…』『どこに誤解があるんですか?』

雛姫と奥野が思い浮かぶ自殺屋は、割と冷静とは言えない。

(そこまでバカっぽくないですよぉー!僕!)

二人の心の中の自殺屋がたしなめた所でハッとした。

「………爽やかイケメンです。うるさいタイプの…」

「無責任です」

だいぶ考えて出た、二人の相対評価がそれでいいのか?自殺屋は…。っか、自殺屋ってなんだよ。

と、内心思う晴日であった。

「所で…」と、奥野は言葉を続けた。私を見て、いや、睨んで言う。

「アンタ、さっきは誰と間違えたんですか?菊を」

『晴日』

儚いカーディガンの少女が頭によぎる。

「っ……何でそれ聞きたいの?」

「いや、アンタを知るにはそれ聞いた方が手っ取り早いかなって」

知る?私を信用しないのはまだしも…。いや、信用に足る人間として見たいのか…。そうじゃないと、自殺屋について喋りたくないと…。なるほど。いいだろう。

私は少しだけ上がった口角を下げて、奥野を睨み返した。

「なるほど。分かった。端的に言うわ。私の初恋の人で、『一番』の親友!だった……」

「だった?」

「自殺したのよ。家庭に不和があったらしくてね。まぁ、何となく気づいてたけど…私じゃ何も出来なかったしね。ともかく、家が原因で自殺したらしいわよ。よく分からないけど」

「ふーん。なるほど…」

一瞬、鋭い視線になった後、「分かりました」と、笑顔になった。私は少しポカンとしてしまった。

「いやぁ、すいません…初対面には大分警戒するるんで。まぁ、いつもの事なんで、流してくれると助かるっス」

「あ、あぁ…まぁいいですけど」

(さっきの、話のどこに信頼する要素があったんだ?)

「それで、自殺屋さんの話ッスよね?呼び出したても、世間話しかしてないっス」

「世間話?」

「別に、呪いの方法とか、そんなん聞いてないですし、実際、どんな人なのかもよくわかんないですけど……」

「そうなんだ…」

「すみません、自分達、そろそろいいっスか?」奥野は、照れくさそうに、はにかみながら菊ちゃんの腰を抱く。

「自分達、これからデートなんで」

と、飛鳥に向かってウィンクをした。

(うわぁ~痛い。共感羞恥やば~)

「んなドン引きしないで下さいよ…」

ドン引きで言うな。私が変みたいだろうが。

「んじゃ」

と、奥野は菊ちゃんの腰を持ったまま渋谷駅に消えていった。

「あ~あ〜行っちゃった。ウチらも帰んべ〜レポート書かなくちゃ〜」

「取材の意味あった?」

飛鳥は二人に背を向けて、私も飛鳥の隣を歩いた。


──────


「あ、あの…」

雛姫が顔を赤らめながら、モジモジししている。奥野は二人が尾行してないことを確認してから雛姫から素早く距離を置き、両手を合わせて慌てて謝った。

「ほんとごめん!!!!」

「あ、いえ…」

「殴っていいよ…自分の事…男に触られるの怖かったよね。マジでごめん…」

「い、いえ…その……私の方こそ、お礼言わなくちゃいけないのに……」

「いやいや、見つけるのも遅れたし…ほんとごめん。これ、絆創膏だけど…大きいやつだから、隠れると思う。貼ろうか?」

「あ、お願いします…」

菊はグロテスクな焼き爛れた頬を差し出しす。人通りの多い駅中なので、周りの目は菊の傷にギョッとした視線を向けた。

「あの、奥野さん…聞いてもいいですか?」

「何?」

貼られた絆創膏をしっかりさすりながら、奥野の背中を追いかける。

「なぜ、詳しく言わなかったんですか?自殺屋さんのこと…」

「ん~…色々理由はあるけど、『木場晴日が信用出来ない人間だから』かな?」

「そうなんですか?」

突然、奥野のは止まって、菊の頬を優しく包んで、しっかり目を合わせた。

「うん。特に、菊ちゃんは気おつけなくちゃダメだよ?彼女は『過去に囚われてる』或いはもっとおぞましい『何か』だから気おつけて。『無意識の加害者』が一番の厄介だよ」

「あ……はい…」

「うん。何かあったら連絡して。飛んでいくから!」

菊の頭をうりうりと撫でる。また奥野は菊に気を使って、菊の前を歩く。それは、異性が苦手な奥野の配慮だった。

菊は少し足を早めて、奥野の腕に自分の腕を回す。

「き、期待してます…」

そういう菊の顔は、赤く、熱そうだった。

「が、頑張ります…」

それは顔を背けている、奥野も同じだった。


​───────


明莉ちゃん。

『晴日』

明莉ちゃん、明莉ちゃん、明莉ちゃん、明莉ちゃん。

『…』

明莉ちゃん!

私、君が好きなんだ。

可愛い君が好き。ちっちゃくて、美人で、綺麗な君が好き。

君の友達は私一人でいいの。私、以外の誰かは要らないの。君の一番は私なの。

私が君の居場所でいてあげるね。私が君の心の唯一の拠り所なの。明莉ちゃん、明莉ちゃんはひとりぼっちなの。

私の明莉ちゃん。

お家で殴られてる明莉ちゃん。

学校でいじめられている明莉ちゃん。

病院に通う明莉ちゃん。

傷だらけの体が綺麗だよ明莉ちゃん。

ボロボロの心が可愛いよ明莉ちゃん。

泣いていいんだよ明莉ちゃん。

死にたくて死にたくて堪らない明莉ちゃん。

苦しいよね。

辛いよね。

悲しいよね。

寂しいよね。

私が助けてあげる。私が救ってあげる。

愛してるよ。私の明莉ちゃん。

私に依存してよ。私を求めてよ。私には、明莉ちゃんしか居ないから、明莉ちゃんには、私以外、要らないでしょ?ね?ね?

アレ……?

ナンデ?ナンデ?

ナンデ………死ンジャッタ……ノ?

私、要らなかった……の?

明莉ちゃんにとって、私は見捨ててもいい存在だったの?ナンデ?ねぇ、ねぇねぇねぇ!


「明莉ちゃん…私、明莉ちゃんの事が好きだよ。友達じゃなくて、恋人になって欲しいの!私には、明莉ちゃんしか……居ないのっ……」


教室の中、ウザったいほどの晴天の下で、君はいつも笑う。熱い熱風が体を舐めて、レースのカーテンが、スカートの様にはためいた。

セミロングの黒い髪を靡かせて、傷だらけの顔で、ガーゼだらけの顔で、アザを隠している黄色いカーディガンがなびいて、綺麗な髪だ乱れて、私を見下して言うんだ。

『晴日』

「明莉ちゃん……?」

『……………』


「っ!」

体が跳ねて起きる。大学のベンチで一休みと思って、寝てしまった。

(寝不足かぁ…)

「あの……」

儚い声に顔を上げると、明莉ちゃんが居た。黄色いカーディガンを来たボブヘアーの明莉ちゃん。傷だらけで、儚い雰囲気の少女。

(やっぱり、君が死んだなんて、悪い夢だったんだ。そうだよね。明莉ちゃんと私は一緒に大学に来て、仲良く過ごしてるもんね)

「明莉ちゃ……」

「す、すみません……お、起こしましたか?」

続けた言葉にハッとして、私は掴みそうになった手を引っ込めた。

「あ、ううん。別に…何かな?菊ちゃん」

昨日と違って、制服では無く、黒いワンピースに黄色いカーディガンという服装だった。

「いえ…細谷さ……奥野さんはってどちらに?」

「さぁ?もしかしたらサークルの部室にいるかも……行ってみる?」

「あ、はい……」

私は立ち上がって、彼女の手を引いた。

このまま、彼女の手を取って何処かに連れ去ってしまえば、菊ちゃんは私のモノになってくれるかな?明莉ちゃんの代わりになってくれるかな?

「奥野とさ…菊ちゃんはどんな関係なの?」

「お、お友達…です……」

「へぇ、友達……」

恋人じゃないのか……いや、奥野事だ、どうせ、女友達と遊ぶ事もデートって言ってるんだろうなぁ~。

チャラ男め…

「あの、明莉さんって誰なんですか?」

「え?」

「その、昨日も、さっきも、私をそう呼んだから…」

「あ~…昨日、言った自殺した親友だよ。君と親友があまりにも似てるから、つい、ね……?」

「そうなんですね。でも、あまり間違えないであげてください。明莉さんが可哀想です」

「可哀想…?」

「はい。ちょっと前に、私に奥野さんが、言ってくれたんです

『代わりとか…無いから。君は君で、誰の代わりにも、君の代わりも居ないから。それが辛いってんなら……ごめんだけど…でも、自分が『母親の代わり』で自分が父親から襲われてもしょうがないって言うなら……自分、怒るよ』

って……ふふ。変ですよね。私が怒ってないのに…私の為に怒ってくれるなんて。

でも……、そう言われて、すごく嬉しかったんです。だから、あんまり間違えないであげてくださいね。明莉さんが可哀想です。ちゃんと見てあげてくださいね」

ぎる。彼女の言葉が

『ねぇ…晴日は私の何を見てるの?』

ぎる。

(ちゃんと見る…)

認識しなければ、存在しない…。私が彼女を誤ってみていたら…私は何を見ているのだろう?

自分にとって神聖なものだも思っていたら、それは神なんじゃないのか?

なんて、アホか。私は。

「そう……だね。でも、明莉ちゃんが儚くて大人しくて、『あんまり笑わない子』だったのは確実だよ。私はそう思ってる」

奥野と飛鳥が所属してるサークルの部室に入ると、飛鳥が居た。

「アレ?奥野の彼女と晴日じゃーん!どったん?」

「奥野くん探してるんだけど、どこにいるか知らない?」

「電話しに出てったよ。屋上じゃん?」

「なる。じゃ、送って来るわ」

「あいおー」

屋上の方へ、向かうと奥野は誰かと話していた。私には姿は見えないが、だいぶ親しげに、尊敬しているようだった。

「え〜?そうなんですか?」

「当たり前でしょ…本当に死にたい人間が、オカルトに頼るなんてそうそうないですからね。とりあいずのダメ元でサイトに置いているだけです。まぁ、最近、噂が拡がって電話の数は増えましたけど…それでも、みんなを……なんて夢物語ですよ」

「神様なのに?」

「人間の世界に降りて来てる時点で、だいぶ弱体化してるんですよ〜僕~」

「え、なんか自分の名前とか色々知ってたのに?」

「個人情報なら抜き取れますよ?こんな風に」

「あ゙~!!!自分の免許証!!!いつの間に!」

「今です」

「正面に居ましたよね??こんな、詐欺みたいな方法で俺達の名前知ってたんですか??怖……」

「出来るのがこれぐらいなんですよね〜後、鎌。これ以外出来ないんですよね」

「十分でしょ……鎌が一番よく分かんねぇけど……」

「なんです?」

「いえなんでも…」

よく分からない会話が聞こえて、菊ちゃんが会話に入っていく。

「自殺屋さん」

「うおおっ!き、菊ちゃん!なんでここに!」

「やっほ〜です。雛姫さん」

奥野と一緒に居たのはパーマをかけたマッシュヘアーに黒いブロンズメガネ。黒い縦線セーターにジーパン、というラフな姿で、爽やかイケメンのかっこいい青年が立っていた。

奥野が童顔ならば、その青年はイケメン寄りだ。

何故か地面に落ちている奥野は慌てて起き上がってイケメンを守るように前に立った。

やめてくれよ。私が悪者みたいじゃないか。

「おや?貴方でしたか…」と、目の前のイケメンがそうつぶやくと、一番前に来て満面の笑みを私に向けて言う。

「お久しぶりですね。木場晴日さん」

(え?私、こんなイケメンと会った事ない……)

「え?ど、どこかで会いました?」

「はい。貴方が高校生の時、いじめていた親友と一度ですけど、あったじゃないですか。忘れてるわけないでしょう?」

過ぎる。

「でも、貴方とは…」

「一瞬ですけどね。僕が明莉と一緒に居たの、見たでしょ?」

黄色いカーディガンの少女。明莉ちゃん。ボロボロで苦しんで、泣いている彼女の手を私はずっと掴んでた。

蝉時雨が煩い快晴の夏。

空の青さが教室を照らして、私を明莉ちゃんはいた。

夏休みが始まる、一学期最終日。

彼女は教室のベランダの手すりの上に居た。

『明莉ちゃん、私が、私しか、君を守るん人間はいないよ?頼って?依存して?君には!私しか居ないんだよ!そうでしょ!明莉ちゃん!』

『ずっと、思ってたんだけどさ……晴日』

彼女の儚い彼女は虚ろな……いや、嫌悪の瞳で私を見た。顔は笑顔のままで、汚いものを見る目で私を見ていた。

『貴方は私の何を見ているの?』

『……え?』

『晴日、私は友達だよ。友達なだけ』

『そうだけどっ!私は、明莉ちゃんの一番の親友になりたくて!!!!』

窓枠から体を乗り込んで彼女のカーディガンを掴む。

明莉ちゃんは冷静に、そして冷たく言い放った。


『………気持ち悪い』


と。

その言葉の瞬間、血の気が引いた。全身に重力がかかったように体が足が、重くなって冷たくなったのを感じた。

手を振り払わてれて、明莉ちゃんはそのまま手すりの外へ身を投げ出した。

「明莉ちゃっ!」

私は慌ててベランダに出て、下を見ると、男の人にお姫様抱っこされて、この頃には見れなかった無邪気な笑顔で抱きついていた。

あぁ、この男。あの時の……。

「っ!」

「「自殺屋さん!」」

私はほとんど無意識に目の前の男の首を掴んでいた。

「やっぱり。お前か。お前が、お前がお前がっ!私から明莉ちゃんを奪ったんだ!お前がっ!お前がっ!私の明莉ちゃんをっ!」

ギチギチと首を締める手を、男は簡単に取って私の体を押して簡単に離した。

「貴方にあったら聞こうと思ってたんです。鈴蘭クラゲのストラップ…覚えてます?」

「はぁ?覚えてるよ……明莉ちゃんと…オソロイ……の……」

「どこで買ったと覚えていますか?」

「自分の…高校の学祭で……」

「雛姫さん」

「は、はい!」

突然呼ばれ、菊ちゃんはびっくりして背筋を伸ばす。

「貴方の高校に学園祭はありますか?」

「え?学園祭?あ《・》り《・》ま《・》せ《・》ん《・》けど……?」

「だ、そうですよ。木場さん」

「ち、違……」

男は一歩私に近づくと、炎が揺らめくように黒い鎌が現れた。

「はぁ、すみません。今だけ感情的に動きます。許さなくていいですよ。俺の自己満なので」

そう言い切ると、私の胸から切り裂いた。

痛みはない。けれど、明莉ちゃんが消えていく気がした。

明莉ちゃん

あかりちゃん

あかり

アカリって誰だ?

そこで、私の意識は途切れた。


─────


倒れている木場を支えている奥野か状況が分からないまま聞く。

「え、自殺屋さん、どうするんです?」

「ベンチに転がしといていいんじゃないですか〜?」

「んな無責任な……」

「良いですも〜ん。僕、無責任ですから。神なんてみんな無責任ですし~」

と、口を尖らせて知らん振りをする自殺屋に奥野は大きくため息を着いた。

とりあえず、ベンチに寝かせておいた。

「三分で起きるので、そんな心配することないですよ」

そう言って、自殺屋は木場の鞄の中から鈴蘭クラゲのストラップを丁寧に取った。

「…マジで、何があったんです?」

奥野の質問に、自殺屋は大きくため息を着いてから、奥野と雛姫を見る。

(似てませんね……)

二人の頭を撫でて、小さく微笑む自殺屋。

「木場晴日は、高校時代、いじめっ子だったんですよ。ターゲットだった『明莉』と二人は元々親友だったらしいですよ。『明莉』の話だと。ただ、何きっかけかは知りませんけど…突然いじめっ子になった。らしい……ただ、びっくりしましたね。軽く記憶を読み取りましたけど…木場晴日の中で認識全く違う。いじめを仕掛けた、だけで、自分を傍観者だと思い込んでいる。『明莉』に関しても、相当勘違いをしていらっしゃる…」

「勘違い?明莉さんって、私みたいな人っていつまでいましたけど……」

雛姫が首を傾げる。

「確かに似てますね。雰囲気は。でも、顔も声も似てませんし、君ほど天然では無いですよ」

「て、天然じゃないです!」

「知的でもないです。底抜けに明るい、常識がない少女ですよ。決して、公園で油絵なんて書いているタイプじゃ無いです。力が無いパワー系ですよ。破天荒。見た目と雰囲気だけですよ。儚くて綺麗って思うのは」

「なるほど?」

「親友なら……いや、話せばわかると思うのですが…」

「…」

「見ていなかったのか、ねじ曲げていたのか…木場さんの視点では、何が事実で何が嘘なんでしょうね。ま、興味無いですけど」

「あの、自殺屋さん……さっき、木場さんの何を切ったんですか?」

「明莉の記憶ですよ。彼女の中では、会ってないようなものなので。消しても問題ないと判断しました。いや、僕としてはある方が不愉快なので。まぁ、過去に生きる人間の荒療治ってていにしました。」

「言い訳ですね…」

「良いじゃないですか。木場晴日の言い訳の方が、よろど見苦しい。嘘もホントも、起伏も、彼女にとっては些細な事。木場晴日の人生はあまりにつまらない。昔も、これからも」

自殺屋はそう言って眉間に皺を寄せたのを見て、その場を去った。

「随分、厳しい言い方ですね」

雛姫が自殺屋の後ろを追いかけて言う。

「ぇぇ。完全に私情と私怨で行動しました。木場のような人間が、生きてちゃいけないとは言いません。無意識の加害者も、意識的な加害者も居るでしょう。それでも、単純に。僕の恋人を追い詰めた一人という事実で殺したくなります。生きる気力も、気持ちも、全部奪いたくなる」

「でもっ!」と、奥野が自殺屋の顔を覗いてしまった。

いつもヘラヘラして、笑顔で話を聞こうとする自殺屋の顔はそこには無かった。

冷酷で、冷たい顔で、恨みと憎悪と嫌悪が押し寄せた様な顔をしていた。

間違っても雛姫に見せられない。

それだけで、察しのいい奥野には十分だった。

行き場の無い後悔と憎悪が蘇って、上手く感情が抑えられないんだと思う。

「自殺屋さん…」

奥野は思う。前に聞いた、「どうして自殺を止めるような事をしているのか」その答えに、自殺屋は冷たい顔をしてから「慈善とは真逆の悪魔の所業ですよ」と、言った。

なんで、悪魔の所業なんだ?

死にたい人間を止めることが、選ぶ事が悪魔の所業と言っているのか?そう思いながら自分達を助けて来たのか?

いや、きっと違う。

『助けたかった人』が居た。『生きて欲しかった人』が居た。きっとそれだけだ。それだけで、俺たちを助けた。

止めた。

そうじゃないのか?

じゃあ、じゃあ、自分が言う言葉は…一つだろう。

奥野は息を大きく吸って、拳を握る。そして自殺屋にちゃんと届くように大声で言う。

「じぶ…俺!自殺屋さんに電話してよかったて思ってます!例えあの時、たまたまでも!事故でも!ちゃんと今、生きれてるんで!まだ、死にたい気持ちはあるけど……生きて後悔して無いです!」

自殺屋は奥野の言葉に唖然として足を止めている。

「…」

奥野の背中を雛姫は押して唖然としてしたままの自殺屋に言う。

「そうです。私も、助けられて後悔してません。私の望んでいた『昔を笑えるいつか』は、きっと近いですし。だから、大丈夫です。ね?」

奥野の言いたかったとを汲み取って自殺屋に言う。自殺屋は大きくため息をついてから、フッと…安心した様に小さく笑う。

(全く、僕の何を察しているのやら…世話焼きだなぁ)

自殺屋はいつもの調子に、周りを指さした。

「男に告白されている気分ですね」

屋上にいた数少ない生徒の視線が三人に集まっていた。

奥野の顔はみるみる赤くなっていく。

「は、恥ずかしい……」

その場に座り込む奥野。雛姫はくすくす笑う。

「自殺屋さんもだいぶ照れていますね」

「え!まじで!照れ顔の自殺屋さんめっちゃ見たい!」

奥野の頭をギチっと掴んでいつもの変わらない明るい顔で言う。

「残念でした〜。僕は顔に感情はあまりでませーん。雛姫さんも、余計な事言わない。いい気分なのでなにか奢って差し上げようかと思ったんですが……また今度ですね!」

「「え〜!!」」

自殺屋はそのまま二人に背を向けて歩く。

二人は慌てて弁解し始める風景は、日常の一つであり、幸せそうだった。


『大丈夫だよ。私には無理だけどさ、絶対無駄じゃないって言ってくれるよ。自殺屋さんが思っ待てる以上に──』


明莉の言葉を思い出して、自殺屋の頬は緩んだのだった。

因みに、後、爽やかイケメンと美少女と仲良くしている所を見られた奥野のあだ名は青春ラノベ野郎となったのは別の話。



木場晴日、鄂ェ縺ョ豸亥悉縲主、ア謨

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