愛別莉久(下)

莉久は学校へ行く道。

同じ学校の子達が歩く通学路。

色とりどりの傘が、灰色の世界を彩っていた。

けれど、莉久は溺れて居た。雨に溺れて、空気に溺れて、人に溺れていた。

大切な物が消えても、日常は壊れてくれない。

『愛って、いつか消えちゃうの』

溺れる度に思い出す。良く、猫吾郎が懐いていた黄色いカーディガンのお姉さん。セミロングの髪を揺らして、綺麗で美人で、壊れてて、傷だらけのお姉ちゃん。

きっと、あの人なら、この苦しさの答えを知っている。

(聞こう……)

足がピタリと止まった。莉久の足は、学校から真逆に向かう。歩き始めたら、だんだん足が早くなって、息を上げて走る。

何か、おぞましいものから、逃げるように、走る。

分からない。

分からない。

分からない。

(お姉ちゃん、お姉ちゃんっ!こういう時、どうすれば良いのです!大切なものが消えた時、どうやって、嘘をついていたのです!どうやって、涙を堪えていたのです!泣き方が分からないのです!)

「お姉ちゃんっ!教えて欲しいのです!」

走る足が、重くなっていく、苦しく、なっていく。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

猫吾郎と会った高架下。

傘をさしていても、ずぶ濡れの体で思いここに居たって、お姉ちゃんがいる訳でもない。猫吾郎も居ない。現実だけが冷たく逃げ場をなくして、仄暗い水のタンクへ落とす。

分かっている。分かっている。

あの人は………あのお姉ちゃんは、もう二度と会えない事を。分かっている。知っている。

「はぁっ……っ!ああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああ!!!」

糸が…切れた。

いや、莉久はもっと頑丈だ。ゴムよりも激しく音を立て、ワイヤーの様に硬い弦が、音を立てて、ブチブチとちぎれた。ちぎれてしまった。

「うっ!ぐっ!ううっ!うわああああっ!ああああああああっ!」

嗚咽を吐きながら咽び泣く。誰も慰めてくれないコンクリートの高架下。冷たく、悲痛な叫び声が響く。けれど、電車が来れば、簡単に掻き消えてしまう。どんな叫び声も雑音と同じなのだ。

けれど、莉久にはこれがちょうどいい。今更、助けて欲しいなんて、言ったところで、何も変わらないのだから。

しばらく泣いて、「スンスン」と、泣き腫らした目を残すって居ると、話しかけられる。

「ね、ねぇ?」

と、そちらを見ると、黒髪の気弱そうな学ランの少年が立っていた。

「なんなのです?誰なのです?」

「あっ……えっと。僕、曙安吾…。君も学校サボり?」

ビニール傘を畳んで、高架下に雨宿りをしに来た安吾と名乗った少年は莉久の隣に座ろうとする。

「来ないで欲しいのです」

「ご、ごめん……えっとね…」

弱々しい汚れた学ランの少年は莉久から少し離れた所に腰を下ろした。

「喋りかけないで欲しいのです…」

「そ、そっかあ……じゃあ、僕の話、聞いててよ。一人言。ね?」

「……」

「まぁ、これも独り言だけど…」

「…」

「僕もね、今日、初めて学校サボったんだ……その、色々あって、あ、でもちゃんと勉強はしてるよ?図書館、開くまでの時間つぶしって言うか…その…あはは…僕、言葉、う、上手くないや……なんて話していいか分かんないね……自殺屋さんは凄いなぁ」

「自殺屋さん?」

「うん……僕がいじめられてるのを、助けてくれたんだ…まぁ、本人はそんな気、サラサラないけど…でも、ね、自殺屋さんが来てから、いじめは無くなっんだよ。変な意味で浮いたけど……」

「夢じゃないのです?」

「夢?自殺屋さんは実在するよ?僕と、僕の友達が証明するよ!まぁ、僕が電話しても、出てはくれないけど…」

「じゃあ、昨日のは夢と幻覚じゃなかったのですね…」

「自殺屋さんに会ったの?」

「あう、はいのです…昨日…」

「そっかぁ……何か変わった?」

「何も……変わらないのです。変わってはくれなかったのです。大切なもの…好きなモノが無くなったのに…」

「そっか…でも、君は変わったんじゃない……かな?」

「私?」

「う、うん…君……よく図書館にいる子でしょ?僕も、友達がバイトする日とか、よく図書館に居るから、知ってたんだ。いつ来ても居るからちょっと怖がってたぐらいかな?」

「そうなのですね………すみませんのです…」

「あ!!あと!お、叔母さんがね!司書として働いてて……き、気にかけてたんだよ!」

「…そうなのですね……」

「う、うん…」

「私は…何も変わって欲しくないのです。これ以上、失いたくないのです…」

「失うのが……変わるって事なのかな?」

「え?」

「いや、その……僕は、一度、家族も、友達も、全部消えて、いじめで打ちのめされたけど……でも、その後、かけがえのないものを見つける事が出来た。だから、失うだけが、変わるって事じゃないんじゃ無いんかな?」

「…綺麗事……なのです。そうじゃないなら、私は、なんでこんなに苦しいのですか?なんで、お姉ちゃんは、居なくなったのですか?お父さんはなんで浮気をしてるのですか?お母さんは………っ!」

安吾に掴みかかる莉久。

「それでもだよ。理不尽だけど……回っちゃうんだよ世界は」

「……」

「悪い事だけを見てたら、苦しい事だけを見てたら、いつか、本当に壊れちゃう。本当に、大切なものを、見逃しちゃう」

掴む莉久の手を安吾は優しく握る。苦しそうに泣いている、莉久の頭を撫でる。

「今、一人で辛いなら、僕も一緒に悩むから…」

莉久にとって、この言葉がどれだけ救いになるか、安吾は身をもって知っている。

そして、この言葉は、安吾にしか言えない。

「…っ……私は、どうすればいいのです?どうすればよかったのです?」

「それは……僕には、分からない。でも、君の味方できることは出来ると思うよ」

「…」

その後、二人は少しだけ喋って、安吾は莉久を家に送り届けた。

莉久の父親は居らず、その代わりに、父の恋人のレンが居た。

「莉久ちゃん!良かった!無事だったのね!」

レンは莉久を抱きしめると安心して化粧も気にせず泣き出した。

「あ、えっと……ごめんなさいなのです……学校サボって……その」

「そんな事より!無事でよかった……あ、ちょっと待って、今お父さんに連絡するから!あ、結構濡れてるじゃない!ほら、家に入って!貴方も!入って!」

「あ、いや僕は……ちょっ……」

と、安吾ごと莉久を家に入れた。

レンは莉久の体を拭いてから、お風呂に入れた。その間に少しでも温かいものを…と、ココアを温めていた。

「そういえば、ココアでよかった?」

「あ、はい!なんでも……あの、お、お邪魔してすみません…」

「いえいえ……って、私が言えたことじゃないのだけど。ここは、愛別さんのお家だもの。莉久ちゃんからしたら、私は今すぐにでも出ていって欲しい人間に違いないわ」

「良良恋さんは………その…」

「えぇ。浮気相手よ。莉久ちゃんのお父さんの」

「…そうですよね……」

「お父さんって言っても、莉久ちゃんとお父さん《あのひと》は、血の繋がりは無いんだけどね」

「え?」

さらりととんでもない事実を言われて、安吾は固まった。

「愚痴よ愚痴。コレ、莉久ちゃんに内緒よ?」

温めたココアを安吾の前に置く。

「は、はい…」

「莉久ちゃんのお母さんが先に浮気してたのよ。『托卵妻』って知ってる?『托卵たくらん』って言う鳥の習性から取られてるの。他の鳥の卵を落として、自分の卵を他の鳥として育てさせるの。

他所で作った男の子供を、旦那の子供として育てる。夫から見たら、『托卵』よね」

「…」

「ま、そこにつけ込んだ私も、相当な悪女だけど」

「ですよね…」

「あはは!そうよね。私は悪い女の。最低な女。嫌われ役なら私がやる。でも、それじゃ、嫌われるだけじゃ、莉久ちゃんは苦しいだけでしょう?向き合わなくちゃいけない」

「母親がやる事なのにね…」レンはそう呟く。

(悪人で居ようとしてんのに、何に言ってんだか…)

ニットの萌え袖で口を隠す。悲しそうな目つきで天井を見るレンに安吾は微笑みかけた。

「良かった。貴方みたいな人が莉久ちゃんの側にいて」

「は?………え?」

レンは理解出来ない顔で安吾を見る。

「だって、さっき莉久ちゃんを抱きしめた貴方は『母親』でしたよ?真剣に心配してたんでしょ?」

「…そんなの……私じゃだめよ…」

「でも、ちゃんと心配してるんでしょ?」

「…」

「なら大丈夫。きっと」

「莉久ちゃんに……見て貰えるかしら?認めてもらえるかしら?いっそ、罵倒された方が楽だったのにね」

「でも、そうされなかったじゃないですか」

二人の会話を、廊下で聞いていた莉久の淀んだ瞳に微かに光が宿った。莉久はドアノブに手をかけて、深呼吸をした。

「出たのです」

レンが少し驚いて、莉久の方を見てニコリと笑う。

「あら、すぐにココアを温めるわね」

とキッチンに引っ込んでしまった。

莉久が安吾の座ってある場所の隣に腰を下ろす。

「ちゃんとあったまった?」

安吾の問いかけに莉久は笑って答える。

「はいのです!そういえば、さっき、自殺屋さんの事を言ってたのです。何があったのです?」

「まぁ、知ってるなら話していいか…」

と、安吾は自分似合った出来事を話した。

「なるほど…その、大鎌で切られた人はどうなったのです?」

「特に何も?あ、でも、自殺屋さんがあの後に証拠隠滅するって言って、クラスの子達の事切りまくってたかな?皆、自殺屋どの記憶が無くなってたよ」

「そうなのですね…」

莉久は前々から思っていた事が出来るかもしれないと思った。

けれど、コレは母の為じゃない。自分の為で、エゴで、わがままだ。それでも、自殺屋さんの力なら出来るかもしれない。なんの確信もないけれど、賭けだけど。

「ありがとうなのです!」

莉久は立ち上がると、自分の部屋に行き、机の上に置いてあるアルバムと、父親の寝室にある家族写真を取ると、自分の部屋の押し入れの一番奥にあるダンボールに詰めた。

(もう、この神様はいらないのです……支えくれて、ありがう…)

「莉久ちゃん?」

後ろから、レンに話しかけられる。

振り向いて、はにかむように笑う。

「もう、大丈夫。誰にも、悪役になって欲しくないのです。レンさんにも……お母さんにも」

「莉久……ちゃん?なにをしようとしてるの?ちゃんと答えて。危ない事なら、私は絶対に行かせて上げられない」

レンは莉久の肩を掴んで、目を合わせて強い口調で言う。

こんな風に、誰かが莉久を怒ればよかった。

それだけで、莉久は背伸びをしなくて済んだんだ。

「大丈夫。本当に大丈夫です。お母さんのお見舞いに行くだけだから」

「っ……」レンは悲しそうに言葉を詰まらせた。こんなに、こんなに、子供を大人びさせてしまった。それを敷いてしまった。レンは自分に激しい怒りを覚えても、彼女に許しを乞うことさえ許されない。だって、追い詰めたのは、苦しめている状況を作り出したのは、自分自身だったから。

莉久の肩からレンの手が離れる。うなだれたレンは苦しそうに、けれどはっきりと言う。

「わかった。私はここで待ってる。だけど、危険だったら直ぐに逃げてきて。私の仕事用の携帯、持って言っていいから。何かあったら、すぐに連絡して。何があっても行くから」

「ありがとう。レンお姉ちゃん」

レンの隣を通り過ぎる。レンの顔はぐちゃぐちゃになっていた。泣いては行けない。まだ、莉久が行っていないんだから。泣いてはダメ。

(私………私は、やっぱり、最低だ…。なんて、なんて酷いことを……っ!)

口を押えて声を殺すしかできなかった。

莉久は、安吾の前に立って、頭を下げた。

「ありがとうございます」

「何か、あった?」

「うん。ちゃんと、する」

「莉久ちゃん……僕は、君一人が我慢すれば上手くいく…なんてことは無いからね?」

「うん…」

「耐えるのは……きっと解決策じゃないよ?僕じゃ、力不足だった?」

莉久は首を横に振った。

「違うのです。逆なのです。雨は止むのです。晴れて、また雨が降るのです。でも、また晴れるのです。そう……信じたいのです」

「そっか……強いね」

「安吾の言葉も嬉しかった。だから、ちゃんと送り出してください。背中を押して」

「そっか。行ってらっしゃい!よく分からないけど!」

「はい!」

莉久は急いで家を出て、病院へ走った。

その小さくなる背中を見守っていたのは他殺屋だった。

「はぁ……どうなるかと思ったけど…そうなるのね…」

他殺屋の顔は、一切感情を読み取れなかった。無表情で冷酷で……それなのに悲しそうな嬉しそうな。

そんな表情だった。


莉久が病院に着くと、母の病室の前には、自殺屋が居た。

病院の白い壁に寄りかかって莉久を待っていた。

「変わりませんか?」

自殺屋が一番に言ったのは、その一言だった。

「変わらないのです。変われないのです。」

莉久は自殺屋の泣きそうな顔を見て、心底、嬉しく思った。

何故か、自分の考えを理解している。だから、この問いかけをしているんだろう。

「君が、壊れませんか?」

「壊れないのです。今、壊れてるのはお母さんなのですよ。だから……私が助けたいのです」

「親が子供を助ける事も、子供が親を支えなくては行けない事も、全て義務ではありません。親が赤子を殺すように、子供も、親を見捨てる権利がある。それを、分かっていますか?」

莉久は思う。

自殺屋は、とてつもなく、自分よりもよっぽど世話焼きだ。そしてお人好しだ。

だからこんなことを聞く。だから、昨日、私のわがままに付き合ってくれた。

「分かっているのですよ。でも、傘を差し出してくれた人が居るのです。」

見知らぬ子供に。猫の亡骸を抱えた不気味な子供に、傘を差し出して、笑いかけた人がいるのです。

仄暗い世界で、雨に溺れていた奴を助ける愚か者が居たのです。

私には、居たのです。

お母さんには居ないのです。

「…強いですね……」

自殺屋さんは悲しそうな顔で病室の扉を開く。

「自殺屋さん。お母さんから、に《・》す《・》る《・》記憶を《・》し《・》て《・》し《・》い《・》の《・》で《・》す《・》」

自殺屋さんは大きく息を吸って、重そうに吐く。

「本当に、それでいいんですか?」

「はい。私が……私こそが…お母さんを苦しめている原因なのです。雨なのです」

私の傘じゃ、小さくてお母さんを守ることが出来ないから。こんなことしか出来ないのです。

いつか、私は今日の決断をきっと、ずっと苦しく後悔する。

分かっているのですよ。そんな事。それでも、今のお母さんを助けなくちゃいけないのですよ。

「そうですか…」

自殺屋さんは大きな鎌を出して、病室の中に入る。

「アンタ、誰よ!莉久!助けて!!怖い!」

怖がって脅えているお母さんに自殺屋さんは静に聞く。

「愛別さん。質問です。貴方は、自分の娘を他殺屋のメールに送りましたか?」

「は?お、送ったわよ!それの何が悪いの!私はアイツのせいで人生無茶苦茶になったのよ!たった一回……一回だけ寝た男とっ!!!私は!被害者よ!アイツのせいで!!アイツが悪いのよ!アイツが私から生まれて来なければよかったのよ!アイツが!あの男との子供じゃなければよかったのよ!それで!私の人生は幸せだったのよ!」

「お母さん……」

私の声が耳に届いたのか、お母さんは、私の目を見て、ハッキリと私に向かって言った。

「アンタなんか産まなきゃ良かった!!!!産まれてこないでよ!」

殺していいだろ。コイツ。

自殺屋は内心思った。長袖の裾を莉久が掴む。

「自殺屋さん…お願いなのです」

「………分かりました」

自殺屋さんは大鎌をお母さんに向ける。

「何よっ!私は事実を言っただけじゃん!なんで私が悪のもになるの!なんでよォ!殺すなら莉久でしょ!ねぇ!!!!!!!!!!!!!!」

半狂乱で母親がそう叫んだ時、莉久が初めて怒鳴った。

「お母さんっ!!!!………私……もう、限界なのです。私は、お母さんを、好きでた《い》いのです」

「っ………!」

自殺屋さんの大鎌はお母さんの胸から頭を通り抜けた。

お母さんはそのまま意識を失った。

後ろの壁に寄りかかるお母さんの手を、私は握る。

「お、お母さん………?」

お母さんの眉がゆれ、ゆっくりと瞼を上げる。お母さんは、私を見て、愛想笑いなのか、優しく微笑んで頭を撫でて言う。

「君は……誰……かな?えっと……お見舞いに来たの?病室間違ってるよ?」

あぁ、お母さんが私に笑いかけたのなんて……いつぶりだろう…

「い、いえ……合ってるのです。わ、私は、貴女の……あなたの……知り合いなのです!」

莉久の頬を、涙が伝う。

「そうなの?」

「はい!知り合いなのですよ!もし、私の、事をっ……忘れてたら…また、仲良くしましょう?」

「?そうね。いいわよ」

「じゃ、じゃあ…また……来ますのです!」

そう言って、莉久は病室を出た。


病院の屋上に、他殺屋と自殺屋は居た。

雨が止んで、雲の隙間から太陽の強い光が射していた。太陽の光が水溜まりに反射して、やけに世界が眩しかった。

「さいってー。やっぱり、殺した方が良かったんじゃない?クソザコ自殺屋」

「うるっさいなー。俺だって、まさかこんな判断するなんて思って無かったんだよ……」

青空の下、二人は手すりに寄りかかって話す。

「はぁ、アンタの勝ちじゃなくて、莉久ちゃんの勝ちね」

「別に、勝負のつもりは無かったぞ。決めるのは結局、莉久だ」

「ほーんと、甘いわよねぇ〜」

「それはお前だろ。俺は特に何もしてない。今回、甘々だったのはお前だろ?」

「それは……。土下座させちゃったし……今回はね…」

『あぁ!やっと!私は罰せられるっ!ありがとう!ありがとう!神様!神様!』

嬉々として、小さな頃の他殺屋の頭を岩で何度も砕く女性を思い出した。

「ふーん。そうか。じゃ、行ってやれよ。友達なんだろ?」

「言われなくともそうするわよ!べー!命令しないで!べー!」

他殺屋は炎が揺らめくように消えて、寂しそうに病室の中庭を歩く莉久に幼い姿の他殺屋が莉久に抱きついた。

「わぁ!な、なんでここにいるのです!」

「まぁいいじゃーん!」

二人が楽しそうに笑って居るのを、自殺屋は微笑ましそうに屋上で見ていた。

『楽しそうだね。自殺屋さん』

鈴を転がしたような、優しい声が聞こえた気がする。

「そうですね。だいぶ、楽しいですよ」

自殺屋の視界の端で三毛猫を抱いて居る、セミロングの黄色いカーディガンの少女がいた気がした。

『にゃー』



愛別莉久、自殺『失敗』

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自殺屋さんは背中を押す 華創使梨 @Kuro1230

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