第4話 魔導公爵
ルナさんに連れられてやってきたのは、この街で一番の豪邸だった。
「うわぁ……でっか……」
意味が分からないくらい大きなお屋敷の前で、俺は感嘆の息を漏らす。
――さすがミスティライト家、規模が違う。
その豪邸を眺めながら、将来に思いを馳せる。
さすがにこの規模の豪邸は無理だが、せっかく買うなら大きい家がいいな。
大きな庭でペットと戯れたりなんかできたら最高だ。
「こちらです。どうぞ、お入りくださいませ」
「は、はい。失礼いたします」
ナナルさんに促され、3メートルはあろうかという門をくぐる。
ここにくる馬車の中で聞いたところによると、ナナルさんはルナさんの専属メイドらしい。
かなり有能なんだろう。実際、身体の動かし方や気配の消し方から彼女がかなりの実力者だということが窺える。
足音を立てない足捌き。
常に気配を消し、ルナさんの側に控えているその姿は、まるでよく訓練された番犬のようだ。
「ふふ、そんなに緊張なさらずとも大丈夫ですよ?」
ルナさんはそう言って笑うが、緊張するなというほうが難しい。
なにせ、ここはあのミスティライト家の屋敷だ。
政治には詳しくないが、この国には四大公爵家と呼ばれる家が存在する。
それらの家は、国を動かすほどの権力を持つといわれている。
ミスティライト家はその中の一つ。魔導に精通した家系だ。
当主でもあるサニィ・ミスティライトは、
そしてそのご息女であるルナ様も、魔導においては右に出るもののいないスペシャリストなのだ。
……すごいところにやってきてしまった。
庶民の出の一介の騎士に過ぎない俺は、本当なら場違いもいいところ。
緊張しながら、ルナさんとナナルさんの後をついていく。
校庭ほどの広さの庭を抜け建物の中に入ると、そこは異世界だった。
驚くほど広いロビー。埃ひとつない美しいカーペット。荘厳な絵画。アンティークな調度品の数々。それらが完璧に調和し、見事なインテリアとなっている。
両脇には大勢のメイドさんたちが立っていて、綺麗なお辞儀で俺を出迎えてくれた。
その美しさに目を奪われながら、今回の依頼について考える。
――そもそも、どうしてこうなったのか。
それは俺が契約書をしっかり確認しなかったことが原因だ。
『*なお、依頼期間中は常に依頼人のそばにいること』
依頼期間の項目に小さくこう書かれていたのを、俺は見逃したのだ。
そして、依頼期間は今日から。
だからこうやってミスティライト家のお屋敷にやってきたというわけだ。
このことはミュゼの話の中にはなかった。彼女がこんな大切な文言を見逃すはずがない。恐らく後から書き足されたのだろう。
しかし、多少は驚きはしたものの、俺としては願ったり叶ったりだった。
宿に泊まるのもタダではないし、さらには食事もつけてくれるとのことだったので、俺はすんなり了承した。
にしても、この屋敷は本当に大きい。
一人では迷子になってしまいそうだ。
「そういえばクロノさま。あの噂は本当なのでしょうか?」
「あの噂、といいますと?」
通った道を頭に叩き込みながら歩いていると、ルナさんが振り返る。
まだなにか俺についての噂があるのか。
「……災害級モンスター、
「ああ……そのことですか」
どんな噂が出てくるかと身構えていた俺は、ほっと一息をつく。
あの恥ずかしい呼び名の噂に比べれば、大したことのない噂だった。
「いえその、クロノさまを疑っているのではありませんよ? ですが、興味があるといいますか……」
「気にしないでください。確かに疑われても仕方のないことですから」
災害級モンスター。
ひとたび姿を現したなら、甚大な被害をもたらす強大な魔物だ。
本来なら、S級の冒険者がパーティを組んでやっと討伐できるという強さのモンスターを
「……本当、なのですね?」
俺は頷く。
あまり喧伝するようなことではないし、目立つのも不本意だから、ギルドには口止めするように言っていたのだが……人の口には戸が立てられないとはよく言ったものだ。
「す、すごいです……! 聞きましたかナナル、あの噂は本当だったようですよ!」
「ええ。まぁ私は疑ってませんでしたが」
「ちょっ、ちょっとナナル? 裏切らないでくださいまし!」
「そして、実際にお会いして確信に変わりました。……この方は強い、と」
ジッと俺を見つめるナナルさん。その瞳に見つめられると、全てを見透かされているような気分になる。
「はは……まぁ昔のことですから」
あれは……今から5年前くらいだろうか?
この世界に来て、ひたすら修行に明け暮れていた頃だ。
あの頃は若かった。
修行をすればするだけ、強くなれる。そのことが俺を突き動かしていた。
そして、あと少しで念願の騎士になれるというタイミングで、
あの時は無我夢中だったが、今思えばなかなか無謀なことをしたものである。
今はあの時よりも実力がついているからそこまで苦戦はしないかもしれないが……かといってわざわざ戦いたい相手でもない。疲れるしな。
……そういえば、
まぁ、あの師匠に限っては心配しなくても大丈夫か。
彼女が魔物に負ける姿を想像できない。
「さすが、伝説に謳われる純潔の男騎士さまです……!」
「はい。いつか私にも稽古をつけていただきたいものです」
その称号は本当にやめてほしい。
ルナさんとナナルさんは、憧れの表情で俺を見つめているが、俺は複雑な気持ちだった。
そして、そのあとはミスティライト家の歓待を受けることに。
豪華な食事に、広すぎるお風呂。
あてがわれた寝室は、それはもう凄かった。
ベッドなんかは10人くらいが寝れそうなくらい広い。
「ふぅ……最高だ」
夜になり、ふかふかのベッドに寝転びながら一息つく。
ルナさんもナナルさんもいい人そうだし、今回の依頼は大当たりだな。
ルナさんとのコネクションも築けたし言うことなしだ。家を買うなら、そういう繋がりも大事になってくる。
舞踏会には出れないだろうが構わない。
それに、貿易都市アーカニアがどんな街なのかも気になる。聞くところによるとかなり栄えていて、この国の中心の街らしい。今から楽しみだ。
出発は明日。
朝も早いし、明日に備えてそろそろ寝よう――。
そう思って目を閉じた時だった。
ギィィ、と。
俺の寝室の扉が開かれたのは――。
──
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