第6話

 昼間、いつもよりも長く遊んで帰って来たら、いつの間にか夜になっていた。

「演技、できる?りあん」

「できるよ」

 りあんはそう言って、くるりと回ってみせる。まあ、私の前では絶対にやりたがらないのは知っている。私だって、りあんの立場だったら絶対嫌だし。

「じゃあもっと可愛くなったら?りあんは、その、すごい可愛いとは思うから」

 私はなぜか照れてしまって、変な喋り方になってしまった。

「れいん照れてるうー?なんでなんで」

「照れてないよ」

 りあんがからかってくるのがまた恥ずかしくて、私はそっけなく返した。

「どうやって可愛くなればいい?」

 りあんが聞いてくる。私に聞かれても…というのが正直な感想。

「…わかんない」

 私は素直に言っておく。

「ま、それは自分で調べな。明日一次審査の写真撮ろう」

「はーい」

 りあんが元気に返事をして、背中にひっついてきた。

「重い…もうあんた六歳になるんだからねー」

 私はそう言って、サイトを眺める。

「あ、プロフィールやろうか」

 私はそう言って、『一次審査応募はこちらから』と書かれたページをクリックする。


「りあん、何歳ですか」

「五歳ー」

「誕生日はいつですか」

「八月二十七日です!」

「性格はどんな感じ…ですか」

「元気です」

「好きな事はなんですか」

「れいんと遊ぶ事です!」

「お洋服に気を遣っていますか」

「全然!!」

「髪の毛の長さはどんくらいですか」

「腰らへんまでです!」

「兄弟はいますか」

「姉がいます!」

「将来何になりたいですか」

「まだわかんないです!」


 応募の項目はこれで全部。客観的に見た感想も取り入れながらパソコンで入力していく。入力し終え、一度全体的に見てみると、すごく可愛くていい子そうな…感じがした。

「できたよ」

 私は一応りあんにも見せる。りあんは画面をじーっと見た後、

「すごくいい子そうな感じがする」

 私と同じ感想を口にした。

「私もそう思う」

 私は思わず笑ってしまった。りあんも笑っている。

「可愛くなる方法調べて〜」

 りあんが後ろでそう言ってくる。

「自分で調べなよー」

 私は言い返す。すると、私の背中にくっついたりあんが私の肩をぎゅーっとしてきた。

「調べて!さもなくばりあんと寝ることになる!」

「それは絶対に無理」

 私は「だってめちゃくちゃ蹴るし落とされるし寝れないもんー」と付け足しておく。

「だったら可愛くなる方法を調べて」

 りあんは謎の脅しにかかってくる。

「はーいはいはい」

 私はそこで折れて、Googleで『可愛くなる方法』と検索した。

『正しいリズムで生活を送る』『栄養を摂る』『眉毛を整える』『髪の毛をサラサラにする』『スキンケアをする』『笑顔でいる』、他多数。

「だって」私は隣でパソコンを見ているりあんに言った。

「正しいリズムで生活してるよね?」

 りあんは画面を見たまま聞いてきた。

「してるしてる」

「まゆげ…」

 りあんは自分の眉毛をなぞった。そして私の方を向いて、

「眉毛はどう?」

 と、言った。

「いい感じ」

 りあんの言うことが面白くて笑ってしまう。

 椅子からりあんが飛び降りた。そして、私の部屋のドアの前にある鏡の前に立って、自分の顔をめちゃくちゃ見つめている。ポーズを取ったりするようなことはせず、ただ、じーっと。

「…りあん、なんか悪いけど、もう寝る時間だよ」

「りょうかい」

 りあんはそう言ったものの、鏡の前から離れない。

「私歯磨きいくねー」

 待つのも面倒くさかったので、私は先に歯磨きを済ませることにする。

「待ってっ」

 そう言ってりあんが肩に飛びついてきた。

「あーぶーなーい、急に飛びつかないの」

 私はりあんを強制的に抱っこの位置に移動させて洗面所に行く。

「ごめんね!」

「いいよ!」


 シャカシャカシャカシャカシャカシャクシャクシャクシャク

 歯を念入りに磨くのは私の癖で、それがりあんにも移っている。私たちはただ真剣に歯を磨き続けた。私とりあんの顔を並べて見てみると、本当にそっくりだなあと私はいつも思う。姉妹ってこんなに似てるんだ。なんだか感心した。


     ーーーーー


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