第25話

「よお真似ィ、テメェこんなとこで何してんだぁ?」


真似は驚いた顔のまま固まる。


(嘘でしょ、嘘でしょ嘘でしょ嘘でしょ!?なんでこんなところに第一位がいるのよ!?)


ガタガタと震えているのが自分でもわかる。

呼吸の仕方が分からない。


「は、はぁっ、はっあっ。」


変な汗が吹き出てくる。


「なあ、真似、お前はソイツに何やってたんだ?」


神楽が指を指す方には意識を失っている千奈がいる。


「な、何もしてないです!」


「あぁ?何もしてなかったらぶっ倒れるわけねぇだろうがよ?」


「こっ、これには訳があって!」


聞かせろ、と神楽は足を止める。



「私は、アイツの姉です。」


アイツって誰だよ?と神楽は聞き返す。


「相千奈が盾の巨人で倒した子がわたしの弟、現溶解うつつとげでした。そのせいで弟は異能審判に捕まりました!」


逆恨みか、と神楽は冷静に話を聞く。


「で?だからってソイツを殺そうとしてんのか?悪いのはお前の弟なのに?」


真似は何も言わない。

何も言えないのだ。


「まあいいや、俺ソイツ回収してくから。」


待ちなさい!と真似は大きな声を出す。


「私と…私と戦いなさい!私が勝ったら、ソイツを返してもらう!」


神楽は少し考えて


「いいぜ。」


神楽の返事と同時に真似は影法師を大量に作り出す。


(ああ、良い異能だ、俺の持ってるやつと組み合わせれば絶対に強い。)


「崩壊爆発」


バチバチと物騒な音を立てる攻撃は本体も影法師もまとめて破壊する。

真似の叫び声に神楽は嫌な顔をする。


「はい、おしまい。」


神楽はつまらなさそうにそう言った。


(ウソでしょ…第一位はこんなに強いの?殺される…?嫌だ…死にたくない…)


だが真似の体は動かない。


「なあ、お前に提案があるんだが。お前の能力を俺にも使わせろ。そうしたら助けてやる。」


真似の答えはただ1つ


「わかり…ました…」


よし、と神楽は嬉しそうに笑う。

真似のそばに近寄り、手をかざす、異能をコピーするためだ。

手をかざしたまま神楽は


「これでよし…と。そうだ、ついでに治しといてやるよ。」


一瞬で真似の怪我が治った。


「え…なんで…?」


真似の疑問に神楽は


「お前、俺がいる組織に入れ。まあ、組織っつっても政府が公にできない汚れ仕事をやるだけだがな。」


真似は汚れ仕事だったとしても自分が誰かの役に立てるのが嬉しいようだ。


「…ついて行きます!」


「よし、じゃあそこのソイツだけ送り届けるから、ここの住所ンとこ行っといて。」


と、メモを真似に渡す。

分かりました、と真似は走っていく。


「おい、起きろ。起きろって!」


千奈は目が覚める。


「え…えぇ!?神楽さん!?どうしてここに!?そして私は戦っていたはずじゃ!?」


神楽は事情を話した。


「そんなことが…助けて下さりありがとうございます。」


全然いいよと神楽は千奈に背を向ける。


「んじゃ俺帰るわ。」


そう言うと神楽は虚空に消えていった。

噂ほど悪い人じゃないのかな、と千奈は思った。


「さあ、私も帰らなくちゃ。」


千奈の一日は無事終わったようだ。

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