第23話

「さあ!服屋よ!あんたいつも同じ服きてるでしょ!だから私が選んであげるわ!」


楽しそうに天海は桐谷の腕を引っ張って行く。


(まあ、たまにはこういうのもアリかな。)


心の中でそうつぶやく桐谷も楽しそうだ。


「この服とかどうかしら!アンタに似合うんじゃない?」


「流石にちょっと派手すぎないか?もうちょっと大人しめでいいんだよ、ほらアレとか。」


桐谷が指す方を天海は見る。


「あー、そういうのが好きなのね、分かったわ。」


そう言うと天海は素早く服を見つけてきた。


「おお!良いじゃねえか!買うぜ!」


「いいわよ、私が買ってあげる。」


「いいや、俺が買う。女の子にお金払わせるなんて恥ずかしいこと俺はできない。」


「なっ、」


(そんな彼氏みたいなこと言われると付き合ってないのに意識しちゃうじゃない!)


「そ、そういう事なら分かったわ。」


よし、と桐谷は頷く。


「じゃあ次は天海の服だな。」


「え、私はいいわよ!全然大丈夫だから!」


明らかに焦っている。

桐谷はボソッと呟く。


「天海が可愛い服着てるとこ見たかったんだけどなぁ。」


(ああもう!そんなこと言われたら着るしかないじゃない!)


桐谷は無意識のうちに天海の心を激しく揺さぶっているようだ。


「これとかどうだ?」


「いいわよ!着てやるわ!」


とは言ったものの天海は


(…ちょっと可愛すぎない?似合うかしらこれ?)


更衣室の中で天海は迷う。


(こ、これを見せるの!?アイツに!?は、恥ずかしい〜!)


「おーい、天海?まだかー?」


「い、今出るわよ!」


(うう〜出るしかない、大丈夫よ、天海恵!あなたは異能都市第7位よ!こんなことどうって事ないわ!)


シャーっとカーテンの開く音がする。


「ど、どうかしら?」


おお!と桐谷は少し見とれる。

それもそうだ。

綺麗な黒髪を肩あたりまで伸ばして(ボブカットと言うのか?)可愛い顔をしているスタイルのいい女の子だ。


「いいじゃねえか!すげえ可愛いよ!」


(か、可愛いって言われた〜!)


「しってるわよ!そんなこと!」


と言い残しカーテンを閉め、着替えて出てきた。


「会計済ましちゃうわね。」


天海が振り向くと桐谷が居ない。手に持っていたはずの服もない。

レジの方を見ると既に桐谷が会計を済ませていた。


「いや〜いい買い物したな!」


「全部奢ってもらっちゃってありがとうね。」


いいってことよ、と桐谷は笑う。


「今日は楽しませてくれてありがとう。」


天海が少し寂しそうに微笑む。


「あ、そうだ、最後にプレゼントがあるんだ。」


桐谷の言葉に天海は驚く。


「プ、プレゼント?何よ。」


天海はソワソワとしている。


「俺さ、女の子にプレゼントとか初めてだからよくわかんないんだけど、天海が喜んでくれるかなって、ほら、ヘアゴム。」


白いリボン付きの可愛らしいヘアゴムだった。


「わ、嘘でしょ、嬉しい…」


いつもは強気の天海も完全に乙女の顔だ。


「喜んでくれて良かったよ。」


「ありがとう、大事にするね。」


2人は笑い合う。


「それじゃあ今日は帰るか。」


そうね、と天海も賛成する。



天海の部屋にて


(可愛いな、これ。凄く嬉しいや。)


微笑みながらリボン付きのヘアゴムを見つめる。


(ポニーテール…我ながら可愛いわね。ハーフアップもいいかしら。)


天海はヘアアレンジに夢中のようだ。

今日は何事もなく平和に終わった。

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