第34話 各方面の反応
――――探索者ギルド渋谷支部
齋藤は自室で翔のダンジョン配信の様子を見ていた。
序盤こそ、視聴者と他愛もない会話を繰り広げていただけに流し見といった様子だったが、愛華が霧の中に消えてからは血相を変えて画面にかぶりつくように見ていた。
「こ、これはどういう現象だ……!? 探索者が消えるだと……!? ――――いや、待てよ……?」
齋藤は驚愕していた。しかしすぐに記憶を辿り、埼玉支部で探索者が行方不明になっているという旨の報告をいくつか受けていた事を思い出した。
「――――埼玉の支部長が確かそんな事を言っていたな……。まさかこんな形で消えていたとは……」
そんな事を呟きながらも翔の配信を見続ける。そして、四天王である唯までもが霧の毒牙にかかり消されてしまう。
「…………っ! まさか四天王まで……? 一体、何が原因なんだ……」
齋藤は頭を悩ませる。しかし、配信を見ているだけでは一切の原因が掴めない。それからも翔の配信は続いていき、遂には50階層の扉を開きミストドラゴンと対峙していた。
「な、何なんだこのモンスターは……!? ドラゴンなんて、空想上のものじゃないのか……!? こんな化け物……どうやって倒せというんだ。四天王や他の探索者が束になっても…………」
しかし、齋藤の考えとは裏腹に、翔はなんとミストドラゴンをあっさりと倒し、ダンジョンの完全攻略を意味する"鐘の音"が響いた。にも関わらず、齋藤の表情は浮かないものだった。
「はぁ……。俺はそこまでやれとは言ってないぞ……。まさかダンジョンを完全攻略してしまうとは……」
齋藤は三井の言いつけ通り、四天王より目立たせない為、翔を渋谷から離し、地方のダンジョンで緩い配信をすることで探索者不足が少しでも改善することを期待していた。
しかし翔は、未だかつて日本人で誰も果たす事が出来なかったダンジョンの完全攻略を、たった一人で成し遂げてしまった。
結果的に四天王より数段目立ってしまっているのだから、翔と三井の間で板挟み的立場である齋藤としては頭が痛い話だ。
「ま、まぁ……? 結果だけ見れば、探索者不足の原因がわかり、それが解消されたのだから
齋藤は頭を抱えた。
この先、三井からどんな無理難題を押し付けられるのか。はたまた、翔が次に何をやらかすのか。
考えるだけでも、酷い頭痛と吐き気におそわれる程の悪夢のような未来。それがもう自分のすぐ側まで迫っている事に齋藤は恐怖した。
「先手を打っておくか……」
齋藤はおもむろにスマホを取り出し電話をかけ始めた。しかし、その相手が電話に出る事はなかった。
「まぁこんな時間だしな。流石に寝てるか、ギルマス。ジジィだしな……。――――あぁ、これからどうする……? もうこの際、彼に全乗っかりするか? いや、でも俺はギルドに恩もあるし……。あぁぁぁぁ!!!!」
唐突に三井の悪口を言った後、今後を考えた齋藤は突然発狂して机に突っ伏した。
そしてそのまま数時間、あーでもない、こーでもないと呟きながら夜を明かした。
◇
都内某所。漫画喫茶――――
「イッヒッヒッ……。僕はやると思ってたよ〜、一ノ瀬さぁ〜ん……」
不敵に笑い、独り言を呟く彼女はとある漫画喫茶の個室でパソコンの画面を見つめていた。
「もう配信はいいや……。一ノ瀬さんが他の女と話してるところなんて見たくない……。死ね! ブス!」
彼女はそんな暴言を吐き捨てると、翔の配信画面に映る愛華と唯の顔面を、モニター越しに殴り付けた。
「はぁ〜……イライラする……。そこは本来、僕の場所だろ……?」
先程、『もう配信はいいや』と言っておきながら、未だ画面に映る二人を睨み付け悪態をついていた。
そうしながらも右手でタブレット端末を動かし、掲示板サイトへとアクセスした。
「まぁいいさ……。僕は一ノ瀬翔の
彼女は左手でキーボード、右手でタブレット端末を器用に操りながら非常識な程に大声で翔への情熱を語った。すると、隣のブースから壁を叩かれる。
――ドンドンッ!
『うるせぇぞ……!!』
「はっ……! す、すいません……。くうっ……ここ満喫だったの忘れてた……」
隣の男性に怒鳴られ、たちまちシュンとする彼女はそーっとキーボードを叩く。するとまたしても隣の男性から壁越しに声を掛けられる。
「い、一ノ瀬ってのは今話題の探索者だろ? ほら、ついさっき日本人初の完全攻略を成し遂げたっていう――――」
どうやら先の彼女の叫び声を聞いて翔の話題が気になったようだった。すると彼女は気を良くしたのか、またしても間違えたボリュームで話し始める。
「――――おぉ、同志よ……!! 君も一ノ瀬さんのファンかね! いやぁ、先程の配信は素晴らしかった! 一ノ瀬さんの良さが全て出ていたと言っても過言では無い! なぁ、そう思わんかね!?」
ヲタク特有の早口である。好きな物、情熱をかけられるものの話をする時は、つい早口になってしまうのがヲタクの性なのである。しかし――――
「いや、思わねー。てか、今のもフェイクかなんかだろ? 日本人が完全攻略とか有り得ないって。夢見すぎ。今時フェイクなんか流行んないだろ。そこまでして金が欲しいかね。だっせぇおっさんだわ、まったく……」
隣のブースの男性は、別に翔のファンというわけではなく、むしろどちらかと言えばアンチに近い性質だった。
――――プチンッ……
そして、彼女の中で
すると彼女はブースの壁をドンドンと蹴り付け怒鳴り始めた。
「誰がだせぇおっさんだってぇ!? テメェみてーな満喫でうだうだ文句ばっか言ってるような奴の方がよっぽどだせぇだろうが……!! それになぁ! あの動画はフェイクじゃねぇよ! D-Tubeはそういうの出来ねぇ仕様になってんだよ! 知らねぇのか、くそにわかが!! しゃしゃってんじゃねぇよ! 死ねカス!!」
聞くに絶えない暴言の数々。これだけ言われれば隣の男性も黙ってはいない。
「あぁ!? 黙って聞いてりゃ言いたい放題言いやがって……!! 誰がカスだコラァ!? かかってこいや、クソガキィ!!」
「おー、いってやるよ! そこで待ってろ!!」
男性の反論を聞いた彼女は勢いよく立ち上がり、自分のブースを飛び出して隣のブースの戸を開けた。するとそこにはだらしなく太った男性が入口の方を睨みつけていた――――が。
「は……?」
男性は口をポカンと開けて彼女に見とれていた。だが構わず彼女は口を開く。
「僕の名前は
勢いよく戸を開けて現れたのは透き通るような白銀の髪を振り乱し、綺麗な碧眼を持った超絶美少女だった。
因みに彼女の身なりは非常に乱れており、髪はボサボサ、ヨレヨレの白Tには"翔 命 ♥"と書かれていた。
「か、可愛い……。てか、声変わり前のクソガキだと思ってた……。くっ……推せる……」
「あぁ!? 黙れカス!!」
その後もしばらく、店員が注意しに来るまでリノアによる執拗な口撃が続いた。
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