第33話 完全攻略
ドラゴンが渦に飲まれ目を回している現状を受け、視聴者達に活気が戻った。そして次第に渦の回転は弱まり、ようやく俺は解放され水面に仰向けで浮上した。
「あぁ〜〜……。死ぬかと思ったぜ……」
『………………』
俺は水面でプカプカと浮かびながら天井を見つめ、ドラゴンは意識を失い、浮かんでいた。
: スウェおじ生きてた……!?
: え、これ……ダンジョン完全攻略したってこと?
: いや、まだだろ。ドラゴンは消滅してない
: 気絶してるっぽいけどな
: 早くトドメを……!
視聴者達は慌ててコメントし始めた。俺はそれを受け不服そうな表情を浮かべる。
「あぁ? ったく、人使いが荒い連中だなァ……。俺だってしんどいんだぞ……」
俺はそんな愚痴を吐きながら、意識が無い状態で浮かんでいるドラゴンの元へ泳いで行った。
「あー、えっと? ドラゴンってどうやったら死ぬんだ? …………まぁいいか。とりあえず殴りゃあ死ぬだろ」
: 雑かよwww
: まぁ死ぬだろうけどもwww
そして俺はひたすらにドラゴンの顔面をこれでもかという程に殴り続けた。スキルの効果でパワーが底上げされていたことも相まって、数発殴ってみると原型がわからなくなっていた。
「早く消えてくれ。俺は、ンなカッコ悪ぃドラゴンは見たくねぇんだ」
: 優しい……
: これって優しいの?w
: 絵面は酷いけどwww
コメント欄は変な盛り上がり方をしていた。だが、俺は構わずドラゴンが消滅するまで殴り続けた。そして――――
――シュゥーーーー……
大量の白い霧が身体から吹き出し始め、それに包まれたドラゴンは巨大な金色の魔石を残し消滅した。
「終わったか……?」
水の底へ沈んでいく魔石を眺めながら俺はそう呟いた。刹那――――突如として大きな
――――ゴォーーン……ゴォーーン……ゴォーーン……
「あ……? 何だ……?」
俺は突然鳴り響いた鐘の音に困惑していた。すると視聴者達によるコメントが過去最高潮の盛り上がりを見せる。
: うおおおおおおおおおお!!!!!
: すげえええええええええ!!!!!
: ダンジョン完全攻略だあああ!!!!
: まさか生きてるうちにこの鐘の音を聞ける日が来るとはな……
: 俺、名古屋住みだけどウチまで聞こえたぞ……!!
: ガチの伝説じゃん……やばすぎる……
: 俺達はこの伝説をリアタイしたんだぜ……
: 神回過ぎた……
: 手の震えが止まらん……
: おめでとう……スウェおじ……
「何だ何だ? ンなすげぇ事なのかよ? それよりテメェら、約束の――――」
俺は視聴者達のテンションについていけず、動揺を隠しきれないでいた。するとそこへ
「――――じさーん!」
「あ……?」
「――おじさーーん……!!」
「ん……?」
何度か俺を呼ぶ声がした。俺は声のする方へ目を向けた。それは俺の頭上だった。
「おじさーん!!」
「は、はぁ!? ――――ぐべぇっ……!」
俺が上を見た瞬間。愛華が天井から落ちて来た。
そしてお約束と言っても良いだろう。愛華はそのままの勢いで俺に抱き着いた。
「おじさん……! おじさん!」
「ちょ……おま……愛華っ!! 死ぬって……!」
――――ザブーーンッ
いつものように語彙力を失った愛華が俺に抱き着き叫んでいると、俺のすぐ側に唯も落下して来た。
「お熱いっスねぇー。でも、おかけで助かったっス! ありがとうございますっス!」
「私も……! 私もありがとうっ! また助けてくれたっ! 嬉しいっ!」
唯はいつもの調子でニコリと笑い俺に礼を言った。それに愛華も続いて喜びを全力で表現した。なお、まだ俺に抱き着いたままだ。
「わーった……! わーったから、ひとまず離せよ愛華!」
「やだ! 今日はもう離さないんだから!」
愛華はそう言うとこれまでで一番強い力で俺を抱きしめた。一切離す気はないようだ。
「あー。愛華……? その……言いにくいんだけどよ……」
「なーに?」
「俺、操作ミスしちまったみたいでよ……。まだ、配信続いてんだわ……」
「えっ…………」
俺の言葉を受け愛華の顔はみるみるうちに青ざめていった。そしてようやく俺から手を離してくれた。
「そ、それを早く言いなさいよね……。あっ、言ってよねぇー!」
「もう今更キャラ作っても遅せぇぞ……」
「…………」
愛華は何とか挽回しようと普段のキャラを演じたが、それも無に帰した。そして俺はコメント用のイヤホンを外しスピーカーモードに切り替えた。
: あいきゃん可愛すぎだろ……
: デレデレだなおい
: ずっと見てたよー
: ナイス放送事故(ぐっ)
: あいきゃんも氷ちゃんも無事でよかったね
: いや、あいきゃんのブランディングは完全に崩壊したなw
: まぁでも可愛いしファンは離れんだろ
: 離れてくのはガチ恋勢だけだなw
: ご愁傷さまwww
: 悔しかったらダンジョンを完全攻略するんだなw
「うっ……。私の三年が……」
愛華はスピーカーから流れるコメントにショックを受け、そう言い残すと水の中へ沈んで行った。俺はそれを慌てて引き上げたが、愛華は既に虫の息だった。
◇
「それよりテメェら、どこにいたんだ?」
「それがっスねぇ、ずっと翔さんの傍にいたんスよねぇ」
「はぁ!?」
俺は目の焦点が合わない愛華を抱きかかえながら唯にそう問うた。すると唯は不思議そうな表情で答えた。
「なんて言うんスかね……。いきなり濃い霧に包まれて空中に釣り上げられる感覚というか……」
唯が説明を始めると、愛華も意識を取り戻し口を開く。
「そ、そうね……。天井付近からおじさんを見下ろしている感覚だったわ。加えて、どれだけ叫ぼうが暴れようが声も届かないし、霧も晴れなかったわね」
「不思議な感覚だったっスねぇー。その後、長い映像を見せられたっスね。主に自分の過去っスけど」
「あー、それ私も見たわ。何だか凄く嫌な夢を見ている気分だったわね。悲しい記憶だけを見せられて、とても辛かったわ」
二人は淡々と説明を続けた。そしてどうやら二人も俺と同様に辛い過去の映像を見せられたようだ。
やはりあのドラゴンは趣味が悪い。そう思った。
「それより翔さん。そろそろ本気で配信切らないっスか?」
「あ、確かにそうだな。――――テメェら! 今回はマジで世話んなった! テメェらがいなけりゃあ、コイツらを助ける事は出来なかった! サンキューな!」
俺はドローンに顔を向けそう言うと、精一杯の感謝の意を示した。すると視聴者達もそれに答えるようにコメントを始めた。
: 全然! 逆に凄い配信を見れたし!
: 神回過ぎた! ありがとう!
: これからも応援してるぜ!
: ひとまず完全攻略おめでとう!
: お疲れ様でした!
コメント欄は俺への感謝や労いの言葉で溢れていた。だが俺は一つだけ不満な事があった。
「おいテメェら。約束は忘れてねぇよな?」
「約束?」
「おじさん、視聴者さんと何を約束したの?」
俺がそう言うと愛華と唯は怪訝な表情を浮かべた。そして俺はドローンに向かってこう叫んだ。
「Dマネーだ! 俺がダンジョンを完全攻略して、愛華達を救い出したらDマネーを300万円分投げろって言ったよなぁ!?」
「何よそれ……」
「アッハハハ! どこまでもブレないんスねぇ! 翔さんは!」
俺の言葉を受け愛華は呆れ、唯は何故か爆笑していた。そして視聴者達は――――
: いや、十分溜まってるからwww
: スウェおじ、右上の欄見てみ?
「右上?」
俺はそう言うと、言われた通りスマホの画面の右上を確認した。するとそこには"同時接続数10万人"、"獲得Dマネー500万"と表示されていた。
「えっぐ……」
俺はそれを見て思わず絶句。愛華と唯も俺に顔を寄せて覗き込んで来た。
「何よこれ!? とんでもないわね!? ふざけてるの!?」
「アッハハハ! 正に規格外! 有り得ねぇ〜!」
愛華はこの結果に驚きながら怒り、唯は涙を流して笑っていた。
: わかった? これがスウェおじの人気だよ
: いやぁ、数字で見ると凄さが際立つねw
: てか、鐘の音が鳴ってから更に人増えてね?
: 古参アピ乙
: 今も増え続けてるな
: 日本人初のS級探索者に――――【Dマネー¥10000】
: あ、俺も。少ないけど――――【Dマネー¥3000】
「おいおい、どんどん金が増えてくぞ……!?」
「は、早く終わらせなさいよ……!」
「さすがっスね! 翔さん!」
俺は更に凄みを増して増え続けるDマネーに驚愕。愛華は涙目になり、唯は何故か嬉しそうだった。
そして、ある程度のDマネーと同接数の増加が落ち着いたところで、俺は配信を終了した。
この日の俺の配信は"最高同時接続数7万2千人"、"獲得Dマネー695万"という記録を残した。
そして、この記録は俺の生涯で誰にも破られることはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます