第35話 ギルドマスター三井政宗
一方その頃。日本探索者ギルドのマスターであり、翔の両親と関わりがあった三井はというと――――
――――ドンっ……!!
「やりすぎじゃ……!!」
――――翔の配信を自宅の大画面で観ており、大理石で出来た高級なテーブルを強く叩き、怒りを露わにしていた。
本来であれば、日本人初のS級探索者が現れた事は手放しで喜んでもいいはずなのだが、三井は違った。
「ワシや一ノ瀬、二宮ですら果たせなかった完全攻略を、こんな若造が……!? ワシらとこやつの何が違うというのじゃ……」
三井は怒りに震えていた。自分達、古い世代の探索者達が全てを懸けて挑んだ完全攻略の夢を、探索者登録をして僅か数日の翔が容易く成し遂げてしまった事がどうしても許せなかったのだろう。
「じゃが……ダンジョンを完全攻略までしてしまった以上、奴をS級として認めんと、ワシのギルドマスターとしての立場が危うい……。しかも配信までしてしもうとる。前回のネット上での炎上騒ぎもあるしの……。これ以上は隠せまいか……」
だが三井にとって、内に秘めた怒りとは別に、自分のギルドマスターという立場も可愛くあった。
前回、自らの決定で翔の存在を隠そうとした三井だったが、何者かの手によって生配信されており、結果炎上騒ぎとなってしまったのだ。それを踏まえた三井は爪を噛んだ。
「チッ……忌々しいのう……。それに何じゃ、あのドラゴンは……!? あんなもの……S級指定がまるで子供のようではないか……! クソっ……。これまで四天王を人類の英雄に仕立てあげて、金も、新たな探索者志望者も集めて来たというのに……。奴のせいで全て水の泡じゃ……!!」
三井の怒りは収まらない。
それもそのはず。三井はこれまで探索者ギルドを通し、探索者、ひいてはダンジョンが発現したこの世界の為に曲がりなりにも尽力して来たからだ。
「ここ数年でようやく四天王共が育ち、人気が出て来たかと思えば、ぽっと出の新人に先を越されよって……。この国に強すぎる英雄はいらぬのじゃ……!」
三井は画面に映る翔を睨み付ける。
翔や、以前の翔の両親のように、他を圧倒する程の力を持つ者は三井の考えからすれば必要ないのだという。それは何故か――――
「――強すぎる英雄が一人おれば、人間はそやつに頼り切りになる。さすれば探索者の数がどんどん減るじゃろう……。この国には探索者がもっと必要なんじゃ……」
思い詰めたような表情で三井はそう呟いた。しかし、彼の意図は誰にもわからない。全てを知るのは三井本人のみだった。
◇◇
――――時は50年前まで遡る。
現在ではギルドマスターである三井も、当時は駆け出しの探索者だった。
「さぁて、今日も雑魚モンスターを狩りまくるとするかぁ!!」
意気揚々とそう叫び、ギルドを後にする三井。そこへ二人の男女の探索者が声を掛ける。
「おぉ、三井。今日も元気がいいなァ? 張り切り過ぎて死ぬんじゃねぇぞ?」
「ほんと。元気だけが取り柄だものね。気を付けなさいよ?」
男の方は三井に声を掛けるとヘラヘラと笑い、女の方は呆れた様子で口を開いた。対し三井は不機嫌さを露わにする。
「チッ……。やかましいぞ、一ノ瀬。いちいち先輩面すんじゃねぇ! いつからお前は俺の先輩になったんだ! 同期だろうが、タコ! ……あ、あと二宮。そ、その……気遣ってくれてありがとう。お、俺は大丈夫だ」
一ノ瀬に対しては威勢よく、二宮に対しては歯切れ悪く言葉を返した。
「まぁ別に大丈夫ならいいんだけどよ? いくらおめェの父ちゃんがすげぇ探索者だったからって、息子のおめェまですげぇとは限らねぇんだからな?」
「チッ……。そんなこと、言われなくてもわかっている。でも俺は、親父を超える探索者になる。そんで……ダンジョンを完全攻略して、日本人初のS級探索者になる……! それが俺の夢だ!」
一ノ瀬が言う三井の父親とは、かつて日本人最強と言われた探索者であり、モンスター討伐数では歴代トップの成績を誇る。
そんな父親ですら果たせなかったS級探索者という称号を手にする夢。それを息子である三井が叶えようというのだ。
三井は自信満々な表情で拳を握りしめていた。
「そ。まぁせいぜい頑張んなさい? あなたの実力は私も認めてるんだから、あっさり死ぬんじゃないわよ?」
「に、二宮……。あ、ありがとう……!」
腕を組みながら視線を送り三井を褒めた二宮。三井は頬を赤くして礼を言った。
その後、三井は単独でダンジョンへと潜り、低位のモンスターを狩り討伐数を稼いだ。その間、一ノ瀬と二宮のタッグも渋谷ダンジョンへと潜り、攻略を進めていた。
◇
それから数年後――――
一ノ瀬、二宮、三井の三人は着々と実力をつけ、日本人初のS級探索者はこの内の誰かになるのではと言われるまでになった。
そんな中。一ノ瀬と二宮が結婚を発表した。
「一ノ瀬と二宮が結婚だと……!? ふ、フンっ……! 探索者として自らリスクを背負うなど愚の骨頂! 馬鹿のすることだ! 俺はアイツらのようにはならんぞ……!」
負け惜しみであった。三井は二宮に対し、密かに恋心を抱いていた。しかし、その恋心は呆気なく一ノ瀬に打ち砕かれたのだ。
そして結婚を発表して勢いに乗る一ノ瀬は、遂に歴代討伐数ランキングでトップに躍り出ると、瞬く間に当時の最高到達点であった渋谷ダンジョン80階層まで攻略を果たした。三井は荒れていた。
「クソがァァァ……!! 一ノ瀬ェ……一ノ瀬ェェェェ……!! 俺から女を奪っただけでは飽き足らず、探索者としての地位まで持っていくつもりか……!? 許せない……」
三井が抱えていた一ノ瀬に対するライバル心は次第に大きくなり、いつの間にか嫉妬心へと変わり、遂には憎悪へと変わっていた。
自宅の家具を蹴り飛ばし、息を荒くする三井はグラスに注がれた水を飲み干すと一つ息を吐いた。
「ふぅーっ……。俺がここでいくら騒いでいてもアイツとの差が埋まる訳ではない。もう一度だ……!」
そして三井はそれからも一ノ瀬に追いつこうと必死で努力を続けた――――が、一ノ瀬の実力は本物だった。
三井がどれだけ必死になろうとも、一ノ瀬に追いつく事はなかった。どころか、開き続ける実績と世間からの評価に、三井は日に日に心を病んでいった。
そして、一ノ瀬夫妻の間に子が生まれて十年ほど経ったある日。善悪の判別すらつかなくなっていた三井は、とんでもない計画を企てる――――
◇◇◇
そして現在。またしても自身の邪魔をする一ノ瀬の遺伝子に腹を立てた三井は再び悪魔に心を売り渡す。
「やはり邪魔じゃのう……。一ノ瀬……」
三井は無表情で、そうボソッと呟いた。
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