第29話 決意


: で。話戻すけど、とりま今は40階層なのは確定なんだよね?


「あぁ、そうだ……。唯が消える前に、ンな事を言っていた」


: なら話は簡単。スウェおじ……川越ダンジョンを"完全攻略"しちゃいなよ!


「は……?」


 唐突に飛び込んで来たその言葉に俺は、言葉を失った。



: 何言ってんのwww

: バカじゃんwww

: ダンジョンなめすぎ

: いくら川越が50階層までだからってそれはさすがに無理があるだろ

: でもスウェおじだぜ?

: まぁ……

: 俺達のスウェおじならいける!!

: がんばえー! スウェおじー!


 最初は否定的な意見も多かった。だが、時が進むにつれて気が付けば、何故か俺を応援する流れになっていた。



「ちょ、ちょっと待て……!! はぁ……。テメェらが俺に何を期待してんのか知らねぇけどよ、50階層にはボス部屋ってのがあんだろ!? 俺なんかが倒せるレベルなのかよ!?」


 ――渋谷ダンジョンの50階層にもボス部屋があった。

 あの時は何とかなったけど、今回もそうとは限らねぇ。

 しかも川越の50階層っつうことはつまり、ラスボスって事だろ?

 ぜってぇバケモンみてぇに強い奴が出てくんだろ……。

 ンなもん、人並みレベルの俺に倒せるのかよ……?


 

 俺は川越ダンジョンの最深部である50階層のボス部屋でイレギュラークラスのモンスターが現れる事を危惧していた。

 もし本当にそんな化け物が現れたとしたら俺に勝ち目は無い。

 

 その上、前の経験を踏まえて言えば、ボス部屋へ入ると倒すまで出られない仕組みになっているはずだ。だから歴戦の探索者達はボス部屋の前でしっかりと準備を整えるのだそうだ。

 しかし俺の気持ちとは裏腹に、視聴者達は訳の分からない事を言い始める。



: は?

: いや、スウェおじが倒せないなら誰も倒せないだろw

: お前がナンバーワンだ……。


「テメェら、新人探索者だからって俺をバカにしてんだろ? いくら俺がこないだまで無職だったとはいえ、そのくれぇはわかるぞ!?」


 俺は視聴者達にまたしても馬鹿にされていると感じ反論した。しかし視聴者達の期待は止まらなかった。


 

: 頼む! スウェおじ……!!

: 川越ダンジョンを完全攻略して、あいきゃん達を助けて!

: あんたしかいないんだ……!!


 この、視聴者達のしつこいとも思えるほどの応援が、俺の心を少しだけ動かした。


 ――コイツらの言う通り、誰かが愛華と唯を助けなきゃならねぇのは事実だ。

 で、その誰かっつうのが他でもねぇ……俺ってわけだな。

 しゃあねぇ。やるしか……ねぇか……!


 

 そう腹をくくったその時――――視聴者のコメントから、予想だにしなかった言葉が俺の耳に飛び込んで来た。


 

: 日本初のS級探索者はアンタだ! スウェおじ!

: そうだ! かつて世界最強と呼ばれた探索者"一ノ瀬渉、志希夫婦"でも成し得なかったダンジョン完全攻略を俺達に見せてくれ!


「何……だと……?」


 俺はその場に硬直してしまった。

 コメントからは絶えず応援の声が届けられていた。中にはDマネーを贈ってくれる者までいた。

 しかし、そんな事にすら全く気が付けない程に俺は動揺していた。



 ――何でコイツらが俺の親父とおふくろの名前を知ってんだ……?

 しかも二人が元世界最強の探索者・・・・・・・・だと……?

 何かの間違いだろ……?

 そうだ……そうに決まってらァ……。


 

「何でテメェらがその名を知ってんだ……?」


: え、何。スウェおじ一ノ瀬夫婦知らんの?

: 昔からの探索者ヲタ、ネト厨なら知ってて当然なんだがな

: スウェおじは元パチプロやから……

: あっ……


「ンな事はどうでもいいんだよ! 何でテメェらが俺の両親の名前を知ってんだって聞いてんだよ!!」


 俺は激高した。すると一瞬ではあるが、俺へのコメントが止んだ。そしてその後、一気に加熱した。



: うぉおおおおおおお

: えええええええええ

: スウェおじってあの・・一ノ瀬夫婦の息子だったのかよ!?

: 衝撃的な事実……!!

: えぐすぎる……

: 配信観ててマジでよかった……

: スウェおじ。マジレスすると、アンタの父ちゃんと母ちゃんは生前、とんでもなく強い探索者だったんよ。


「俺の親父とおふくろが……?」


 俺は突然聞かされた両親についての話に戸惑っていた。しかし視聴者達のコメントは続いた。



: 今のギルマス、三井なんて比にならない程にめちゃくちゃ強かったって話だよな

: 三井は最後まで二人に一度も討伐数で勝てなかったらしいぞ


「親父達……そんなに強かったのか……」


: 覚えてないのか?

: 年齢から逆算したら当時スウェおじは10歳とかだろ? そらしゃあねぇよ

: 相当ショックだったろうな……

: 詳しい情報は今も明かされてないけど、辛かったよな……


 気が付くと、コメント欄はお通夜ムード。どんよりとした空気が流れていた。


 

「テメェら、やっぱ良い奴らだな。まぁ俺はもう大丈夫だからよ。さっきまでみてぇに草食っててくれや」


: かっけぇ……

: さすおじだぁ……

: でもほんと、よく立ち直ったよな

: 俺なら無理かも……

: やっぱスウェおじは昔から規格外だったんだな


「ンな事ねーよ。正直、親父達が死ぬ前のことはほとんど思い出せねーけど、二人が死んだって聞かされた時はすげぇ辛かった事は覚えてるぜ」



: だよなぁ……

: 心中お察しします……

: ところでスウェおじ。あいきゃん達を助けに行くことにしたん?


「あっ……!」


 いつの間にか俺までもがお通夜ムードに呑まれ、どんよりとした気持ちになっていた。そこへ一つのコメントが流れ我に返った。



「そうじゃねぇか! 俺は愛華達を助けに行かなきゃなんねーんだった!」


: 忘れてたのかよwww

: はよ行けwww

: 伝説までもうすぐだ!

: 俺達はその伝説をリアタイ出来てるんだぜ

: 最高……



 コメント欄の盛り上がりを他所に、俺は慌てて霧の中を走り始めた。



「で? ダンジョンを完全攻略するにはどうしたらいい!?」


 俺は視聴者に問い掛けた。


: 知らんw

: 日本では誰も完全攻略してないからねぇ


「はぁ!? ざけんな……!!」


: To completely conquer a dungeon, reach the deepest part and defeat the boss.

: 日本語でよろ

: ダンジョンを完全攻略するには最深部へ到達しボスを倒す。だと思う

: 天才か


「サンキュー! で? 最深部ってどっちだ?」


: 適当に階段探しなよw

: スウェおじならその辺のモンスターにもやられやしないからさw


「あ、あぁ……わーった」


 俺は視聴者達の言う通り、最深部へ向けて闇雲にダンジョン内を駆け回った。

 階層を下へ降りて行く度にモンスターに襲われたが、難なく蹴散らし、ひたすらに階段を目指した。

 そして――――



 ◇



「遂に来たぞ……。これがボス部屋だ……」


 俺は遂に川越ダンジョンの50階層にあるボス部屋の前に到達した。そこには渋谷ダンジョンと同様に大きな扉が存在していた。



: うぉぉ……。これがラスボスの部屋の扉か

: 初めて見たわ。渋谷の50階層のよりデカイな

: いよいよ……伝説が……

: 何かこっちまで緊張して来た……

: わかる……


 扉の前でじっと時を待つ俺に対し、何故か緊張感が漂うコメント欄。そして遂に、ラスボス部屋の扉が開かれた。



「お? 俺に反応して開いたのか? 自動ドアかよ」


: 言ってる場合か!www

: ちゃんとしろ!www


「まぁいいわ。それよりテメェら……。俺は今から命賭けんだ。テメェらもわかってんだろうな!?」


: ん?

: 何が?

: 急にどした?


 俺の言葉を受け視聴者は困惑し始める。だが俺は止まらない。


「俺がもしダンジョンを完全攻略したら、そん時は!! …………Dマネーを300万分用意しとけ!」


 俺はそう叫び、大きな扉をくぐり部屋へと入って行った。


: そんな捨て台詞あるかァッ!www

: フラグ過ぎるだろうが!www

: でもスウェおじならそんなフラグさえもへし折るんだろうなwww

: お前ら……早く有り金をアカウントにチャージしとけよ?

: スウェおじに忠実な奴がいたwww

: みんなで出し合えば300万とかすぐだべ?

: とりま俺は1000円投げとく【Dマネー¥1000】

: うーん、今月バイト代少なかったけど……【Dマネー¥50000】

: 5万!?

: あっ……

: 絶対間違えただろwww



 そしていよいよ謎に包まれた川越ダンジョンにて、ラスボスとの戦闘が始まる。

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