第28話 続く配信。深まる謎と霧
: これ完全に配信切り忘れだよな?
: 厳密に言えば一回切ってからの操作ミスだから、切り忘れではないけどな
: コメントにも一切反応してないし、二人とも気付いてないな
: 不謹慎かもだけど、あいきゃんも消えちゃって謎も多い中、こんな状況を生配信で観れるのはラッキーだな
: 確かに。こんな機会滅多に無いぞ
: 神回確定
: でもほんとにどこ行ったんだ?
: もう言ってる間に30階層だしな……
愛華が消えてから数十分。俺と唯はダンジョン内を駆け回っていた。
「チッ……。どこにもいねぇじゃねーか……!」
「いないっスねぇ……。あの霧について、何かわかったらいいんスけど……」
どれだけ探しても愛華が見付からない事に焦り、苛立ちを覚える俺。そして辺りを捜索しつつも謎の霧について思案する唯。
気が付けば俺達は川越ダンジョンの30階層へと到達していた。
「30階層まで来たのはいいけどよ、川越は何階層まであんだ?」
「強いモンスターの出現率的に言えば、50階層ってことじゃないっスかね? てか、そろそろ翔さんも戦闘に参加してくれないっスか? ここまでアタシ一人でモンスターを倒してんスけど?」
「あ? あぁ、そうだな。もうそろそろだと思うんだが――――」
俺がそう口にすると、目の前に
「何スか、それ?」
「ん? これは俺のスキルだ。発現したサイコロの種類と出た目によって俺のステータスが倍加するっつうもんらしい」
「らしいって……自分のスキルっスよね?」
「いいんだよ、ンなことは。それより大事なのは変わるステータスと出目だ」
俺は呆れ顔の唯に対してそう言うと、地に落ちたサイコロを拾い上げ、その場に放った。
: お、これがスウェおじのスキルか!
: どんなスキルかオラ、ワクワクすっぞ!
: スウェおじの元のステータスを知らんから何とも言えんけど、出目によってはめちゃくちゃ強くなれるな、このスキル
: いや、でも、ただステータスが倍加するってだけでS級指定を圧倒出来るか? MAXでも6倍だろ?
: 誰が一桁だって言った?
「っしゃァァァ……! 今日は
俺は金のサイコロが示す出目に盛大なガッツポーズを見せる。唯はポカンとした表情を浮かべていた。
「今ので何か変わったんスか? 見た目は何も変化無しっスけど……」
「変わってんだよ。いいか? 見てろよ?」
怪訝な表情を浮かべる唯に対し俺はそう言うと、近くにいたリザードマンに近付き顔面を殴り付けた。するとリザードマンの首から上が綺麗に吹っ飛んで行った。
「な? これで少しは理解出来たろ?」
「は、はぁ……」
俺は自信満々に唯の方へ向き直った。すると唯は顔を引きつらせて笑っていた。
――四天王からすれば、この程度で自慢げになっているのがやっぱおかしいのか?
俺はそんな事を考えていた。
: ええええ!!!
: リザードマンの顔が吹っ飛んだんやがwww
: こんなモンスターの倒し方、見た事ないwww
: まぁ普通は急所を突いたり、痺れさせて動けなくしてから倒したりするわな?
: それを顔面ワンパンて……
: いや、しかも今の槍持ってたしノーブルじゃね?
: A級指定をワンパンですかぁ
: どこまでも規格外だな、我らの"推し"は……
そんなコメントが溢れている事などつゆ知らず、俺と唯は更に下層へと歩みを進めて行く。
◇
「もう40階層っスよー? どこにいるんスか、愛華っちは〜」
「まったくだぜ……。40階層まで来たっつうのに、愛華はどこにもいねぇな? つーか、モンスターの数も増えて来たし、いよいようぜぇな。まぁ雑魚ばっかで助かるけどよ」
「ざ、雑魚っスか……。それは……よかったっスねぇ……」
川越ダンジョンの最深部は50階層。そこへ近付くにつれて数多のモンスター達が俺達を襲って来たが、俺達はそれらを軽く退けていた。
: いやぁ……ここまでだけでも十分過ぎるくらい見応えあったな
: ノーブルリザードマンとグレートサハギンの群れを虫でも払うかのように倒していってたもんな
: まさに圧巻だったわ……
: 四天王の氷ちゃんも流石にこれには苦笑い
: そらそーだろ。こんなの四天王全員で潜ってもギリギリってレベルだぞ
: だよな。スウェおじの強さ、マジでおかしいって
: てか、川越ってどこまで攻略進んでんだっけ?
: 確か36? 雷人のパーティが三年前に到達したのが最高じゃなかったかな
: 今、40階層なんやがwww
: スウェおじ、奇跡の無傷で最高到達階へwww
「それより翔さん。霧……さっきより濃くなってないっスか……?」
「ん……確かに。またどっちかが消えたりすんじゃねぇだろうなぁ?」
唯は真っ白な霧の中、俺にそう話した。そして俺も確かにその声に反応し、返事をした。
「おい、唯。俺の手ェ握ってろ。テメェまで消えたらシャレになんねぇからよ――――」
俺は少し照れくささを抱きつつも、唯の方へと手を伸ばした。しかし、唯は一向に俺の手を掴まない。
「いや、小っ恥ずかしいのはわかるけどよ、男が勇気出して手ェ伸ばしてんだから軽くでいいから握り返してくれよ……!」
俺は行き場の無い自らの手に恥ずかしさと悲しみを感じていた。そんなアラサーで童貞な俺の心の叫びは、無情にもダンジョン内に木霊した。
そして気が付く――――
「お、おい……まさか……。唯、テメェまで……!?」
俺は濃霧を手で払いながら唯がいた場所を確認した。しかしそこには既に、唯の姿は無かった。
「ざけんなぁ……? どうすんだよ、こっから……?」
俺はその場に膝から崩れ落ち途方に暮れた。
◇
時間にしておよそ30分程経った頃だろうか。
俺はようやく我に返り、前を向いた。
「ウダウダ言ってても仕方ねぇ……。二人が消えちまった事実は変わらねぇ……。俺は、ぜってぇアイツらを見付け出す……!」
そんな決意表明じみた独り言を呟いた俺は立ち上がり、濃霧の中を進もうと足を踏み出した。
「……つっても、こっからどこ行きゃあいいんだ? ここまでは唯に言われるままに進んできたから方向とか考えなくて済んだけど、今は俺一人じゃねぇか」
俺は先の決意表明から数歩だけ進んだところでまたしても足を止めた。そしてしばらく思案を重ねるも、やはりダンジョン内でどこを目指せばいいのかわからず天を仰いだ。
幸いにも40階層へ到達して直ぐに、唯とモンスターを駆逐していたからか、襲ってくる気配は一切なかった。
そんな中、異様に静まり返ったダンジョン内に何やら人の話し声が聞こえ始めた。
『――――――ってこと――――やば……』
「あ……? 誰かいんのか?」
『――――まったく――――草なんだが。わらわらわら』
俺は慌てて辺りを見渡すも、何かを話していそうな人影は一切無い。そしてあろうことか、その声は俺のすぐ近くから聞こえて来ているような気さえし始めた。
「…………っ!! まさか……ンなことって……」
そんな独り言を呟いた俺は、とある事に気が付きポケットの中をまさぐった。そして中にあった物をおもむろに取り出すと全ての答えが出揃った。
: お? やっと気付いたか?
: いくらなんでも遅すぎw もう三時間だぞ?w
: 初配信で初切り忘れおめでとう!w
: いやぁ、伝説回だわwww
「配信…………止まってねぇじゃねーか……!!」
手に取ったスマホにはライブ配信中の文字、そしてコメントを拾うイヤホンからは機械による音声が若干だが漏れていた。
俺はすぐさまイヤホンを装着し、視聴者に話し掛ける。
「おい、テメェら! いつから観てたんだ!?」
: いつって、ずっとだよ?
: スウェおじ、停止ボタン二度押ししたんだよ
: よくある事だから気にすんな?
「あぁ……。やっちまった……」
俺はその時ようやく自らのポカミスに気付き、頭を抱えた。そんな俺に視聴者達は慰めの言葉を送ってくれた。
: それにしてもスウェおじ。これからどうすんの?
: 確かに。氷ちゃんまで消えちゃったのは流石にやばくね?
「わーってるよ、ンな事は……。でもよ、自分が何処にいるのかすらわからねぇのに、アイツらを探すのなんて出来んのかよ?」
視聴者は俺が今置かれている現状についてサラッと話を変えた。俺はそれに対し弱気な事を口走ってしまう。
: 弱気なんてらしくないぜ、スウェおじさんよぉ
: だな。俺らのスウェおじはもっと堂々としてくれなきゃ
「テメェら……。草ばっか食うくせに良い奴なんだな……」
: 食わねぇってwww
: 何でそうなるんだwww
: お前が草食ってろよwww
優しい言葉を掛けた上に俺の言葉に笑っている様子の視聴者達。だが、俺はそれに少しだけ救われたような気がしていた。
そんな中、一つのコメントが俺の耳に入った。
: で。話戻すけど、とりま今は40階層なのは確定なんだよね?
「あぁ、そうだ……。唯が消える前にンな事を言っていた」
: なら話は簡単。スウェおじ……川越ダンジョンを"完全攻略"しちゃいなよ!
「は……?」
唐突に飛び込んで来たその言葉に俺は、言葉を失った。
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