第9話 日本探索者ギルド首脳会議
俺が一躍、日本中の笑いものになった翌日。
俺はオーダースーツを受け取り、意を決して求人誌に当たりを付けた幾つかの会社に面接へ向かった――――が、結果は
何故なら開口一番に面接官が、『あなた、最近話題の動画の方でしょう? 流石にそれはちょっと……』と口を揃えて言いやがったからだ。
そして俺は更に翌日の夕方、山本さんの店"夜の蝶"へと来ていた。
「あぁ、もう最悪だ……。これからどうすりゃいいんだよ……?」
「まぁ流石にそれは同情するわ……。翔くん、あんた本当にツイてないわね」
山本さんは項垂れる俺に対し、そんな言葉を口にした。そう、俺はツイていない。
面接を受けた昨日と今日。俺はいつもの如く発現した
そのままどんよりとした気分で受けた会社は全て不採用だったのはまだ良いとして、その受けた全ての会社が、運悪く機密情報を流出してしまうという事件が起きた。
そして、あろうことか俺の履歴書に書かれていた名前や年齢、住所等が一瞬で世間に知れ渡ってしまったのだ。
「有り得ねーだろ……。俺が受けた会社全てが情報漏洩なんてよ? おかげで俺の家にマスコミやら野次馬が集まって来やがるし、落ち着いて
「大変だったねぇ。まさか翔くんが働こうとするだけで、こんな事になるなんて……」
俺の話を親身に聞いてくれる山本さんは、タバコに火をつけながら顔を伏せていた。
「まったくだぜ……。なぁ、山本さん。俺をここで雇ってくんねーか?」
「嫌よ、そんなの! だいたいこの店はスナック。女の子が働く場所さね……!」
「ンな事言うけどよ、この店に他の女の子がいた事なんて一度もねーぞ?」
「そりゃあこの店は私がいれば十分だからだよ……!!」
「ンだよそれ……」
俺の僅かな希望を込めた提案も、取り付く島もない程に呆気なく却下された。そして俺は山本さんに奢ってもらった酒をかっくらいながら時間を溶かした。
◇
◇
一方その頃。"日本探索者ギルド"本部では、五人の日本探索者ギルド最高責任者達が一同に会し、月一恒例の会議が行われていた。
「いやはや、最近の探索者達はレベルが低くてかなわないですねぇ」
柔らかい口調と和服姿が特徴的なこの男性は、新人探索者の指南役を務めている――――名を
古賀は、昨今増え続ける探索者の数に対し、質が低下している事に愚痴をこぼしていた。
「まったくじゃ。ここ数年の間に登録した新人探索者は軒並みC級止まり。話にならんわい」
古賀の言葉に同調するように話す白髪を後ろで結っている年老いた男性。彼は日本探索者ギルドのトップであるギルドマスターで――――名を
そしてギルドマスターである三井もまた、新人探索者の質の低さを嘆いていた。
「せやかて、ランクの見直しを今更するわけにもいかへんからなぁ。どうにかして強うなってもろて、A級を目指してもらいたいもんやね」
次に口を開いたのは小柄で糸目の男性。彼は探索者ギルドの会計責任者――――名を
難波は二人の言葉に対し、後の手間を考えれば各々に努力を続けてもらうしかないと示した。
「だいたいギルドは、ぬるい成果に報酬を与えすぎなのよ。そんなのだから新人の探索者が育たないんじゃない? いっそのこと賃金を下げてもっと働かせるというのはどう?」
妖艶な雰囲気を纏い、露出度の高い服の上に白衣を羽織ったこの女性は、探索者ギルドで武器や防具などを制作する開発責任者――――名を
白石は、難波とはうってかわり探索者の賃金を下げるという提案をした。
「いや、しかしこれ以上賃金を下げれば、ギルドが反感を買う恐れがある。それよりも……だ。最近、何やら話題の男がいるようだが、それについてはどう思う?」
そんな白石の意見に異を唱えたのは、細身で髪も綺麗に整えられ、その外見からはスマートな印象を受ける男性。彼は探索者の管理やその他雑務も請け負っている――――名を
その後齋藤は、単独でゴブリンキングを討伐した
「知らないわよ。どうせ大した事ない餓鬼でしょう? そんなもの、耳に入れるだけでも鬱陶しいわ……?」
「何じゃ、お主知らんのか? その男、ガキではないぞ?」
「あの動画ならワイも見たで。何やけったいなスキルを使うでもなく、単に拳一つでゴブリンキングを屠りよった。あんなもん長いこと生きて来たけど、見た事ないわ」
「ほう……。なら、相当強い探索者と見受けられますが、一体誰なんですかねぇ。派手なスキルを使っていないことから"炎帝"や"
「あぁ。彼は、探索者登録すらしていないただの一般人だ」
「「「「…………っ!?」」」」
齋藤がそう言うと、他の四人は驚愕し背筋を伸ばした。そして齋藤は更に続ける。
「ダンジョン調査員からの報告によれば、その男は突如として渋谷ダンジョン30階層へと現れ、一瞬の内にゴブリンキングを討伐すると、そのまま50階層の階層主"グレートゴーレム"を単騎で討伐し地上へ戻ったそうだ」
「ちょっと待って……。何でゴブリンキングを倒した後に、わざわざ50階層まで降りてグレートゴーレムを倒す必要があるのよ!? 30階層にだって転移陣はあるでしょ!?」
「そう怒鳴りなや。そもそもその男が一般人なら転移陣の存在を知らんで当然やろ。おおかた出口を探して迷い続けて50階層まで行った。そこでグレートゴーレムを倒したら運良く転移陣に乗れて脱出出来たっちゅうとこやろ」
「ほほう……。一般人がグレートゴーレムを倒せる事がさも当然の様な言い方ですねぇ。そやつはA級指定ですよ? よもや炎帝や雷人ですら苦戦する相手だというのに、どこぞの馬の骨かもわからない一般人がそれを単騎でやってのけたというのですか?」
「それを言うなら、ゴブリンキングを討伐すること自体おかしいじゃろうて。して、その男は何者なんじゃ? ワシら探索者ギルドへ加入するつもりはあるのかえ?」
齋藤の言葉に四人は続け様に言葉を放つ。そして最後にギルドマスターである三井の言葉を聞くと全員が、次の齋藤の言葉に注目した。
「――――果たして、それはどうかな。どうやら男は無職らしいのだが、ここ数日で幾つかの会社に面接へ訪れたそうだ。まぁ全て不採用だったみたいだがな。一応働く気はあるようだが、一番に探索者ギルドへ来ていない辺り、何か事情があるのかもしれんな」
「何よそれ。まるでギルドが悪みたいな言い方ね?」
「まったくやで。ワイらは普通にやっとるだけや。しかも求人誌にでっかい金を動かして探索者募集のページを作らせとるっちゅうのに、その男はそれを無視して一般企業へ行ったわけやろ? それは気悪いで、ほんま……」
「ふーん……。ならこちらから勧誘に行けば良いのでは? 人気がある内に登録させて、配信でもさせれば金になると思いますが……」
「ならそれで決まりじゃの。お主、今すぐその男を勧誘しギルドへ登録させるのじゃ。最近はつまらん新人ばかりでうんざりしておったから、これで少しは既存の探索者達が頑張ってくれればよいのじゃが……。さすればワシらの懐も潤うってもんじゃからのう! ほっほっほっ……!」
三井の言葉に深く頷いた四人は下卑た笑い声を響かせた。そして齋藤は命じられるままに、会議室を後にして自室がある"渋谷支部"へと戻った。
◇
「ったく、あの四人め……。俺はお前らの使いっパシリじゃないっての……! 俺だって一応最高責任者の一人だぞ!? その中でいちいち優劣を付けんなよ……!」
そして齋藤は自室で高そうなソファを蹴り付けながら他の四人の愚痴をこぼす。
そんな齋藤だが、元は探索者をやっており、G級からA級までおよそ三年という早さでランクを上げると、年間討伐数の最高記録を叩き出し、前任の責任者が死去して間もなく引き抜かれた生粋の叩き上げである。
だかしかし、最高責任者にも暗黙のランク付けがあり、彼はその最下層。雑務から探索者の管理など、他の四人の仕事を数多く押し付けられていた。
「ふぅ……。まぁそんな事を言っていても仕事は終わらないか……。よし、じゃあやるか……!」
斎藤はそう言うと、翔について調べ始め、当該配信元である愛華を特定する。そして翌日の早朝、彼女を日本探索者ギルド渋谷支部へと呼び付け"特別任務"を授ける。
◇
「君が東條愛華さんだね? 突然で悪いのだが、君に特別任務を受けてもらいたい」
「は、はぁ……」
突然の斎藤からの呼び出しに緊張した面持ちで入室した愛華は心中穏やかではなかった。
「君に依頼したい任務の詳細だが、端的に言えば、先日君の配信に映り込んだ例のスウェット男を探し出し、ギルドへ登録させる事だ」
「えっ……」
愛華は突然呼び出された上に、翔をギルドへ登録させろという任務の内容に戸惑っていた。しかし斎藤は彼女の心境などお構い無しにとどめを刺す。
「やってくれるな?」
「はい……」
C級の愛華にとって齋藤は格上。しかも今や最高責任者の一人。彼女は完全に萎縮してイエスマンと化していた。
◇
その後、愛華は深々と頭を下げ支部を後にすると、調査書を元に翔を探し始める。
「はぁ緊張した……。まぁこれも仕事だし、やるしかないよね……! よし、じゃあまずは……渋谷のパチンコ屋ね……! って……あの人、本当にパチプロなのね……」
そんな独り言を呟きつつ、愛華は翔が通うパチンコ屋へと向かった。
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