第3話 初めてのダンジョン


 愛華にボロクソに体力を削られた後、俺は路地裏から脱し大通りを宛もなくブラブラと歩いていた。



「チッ……。俺が何したって言うんだよ? ったく、今日は踏んだり蹴ったりだな……」


 そんな事をボヤきつつ、適当に歩くこと数十分。日が暮れて来た頃に、とあるスナックを発見した。


 

「おっ? こんな所に飲み屋なんてあったっけか? 今日はツイてなかったことだし、パァーっと呑んで、可愛いお姉ちゃん達に癒されるとしますかァ……!」


 そして俺は、自分が無一文である事も忘れ、そのスナックへと立ち寄った。


 ◇


 カランコロンカラン――――という昔懐かしい鈴の音に迎えられ、店内へと入った俺はカウンターの中にいる女性に向かって人差し指を立てた。


「一人だけどいいか……?」


「構わないけどお前さん、金はあるんだろうね……?」


 俺はその女性の声を聞き、急いで財布の中身を確認した。そして一瞬で血の気が引いた。


「どうしたんだい? まさか……金も無いのに店に入って来たんじゃないだろうね……?」


 女性はドスの効いた低い声でそう言った。そして俺は恐る恐る、今払える最大の額を提示する。

 

「わ、悪いんだけどこの店……500円で何杯呑める……?」


「一杯も呑めないよ! 金が無い奴はさっさと帰んなっ!! ――――と言いたいとこだけど、あんたならいいよ。座んな」


「…………?」


 俺はポカンとした表情でよくよくカウンターの女性を見た。するとそこには、にこやかに笑う山本さんが立っていた。


「や、山本さん……!?」


「何さ、気付かなかったのかい? 今日は翔くんに乗っかったおかげで勝たせてもらったからね。今日は私の奢りで好きなだけ呑みな!」


「マジかよ!? ありがてぇ……!!」


 そして俺は山本さんのご好意に甘え、ひたすらタダ酒を肝臓へ流し込んだ。



 ◇



 呑み続ける事、数時間。

 俺は昼間に出会った愛華の愚痴を吐き散らしていた。



「――――な? ひどい話だと思わねーか?」


「うーん……。まぁ翔くんが無職なのは変わりないからねぇ……」


「無職じゃねぇ! 俺はパチプロ・・・・だ……!」


「はぁ……。散々、翔くんに勝たせてもらっておいてこんな事言うのは何だけどさ。そろそろ定職に就きな? 両親が泣くよ?」


「うっ……」


 完璧な正論を突き付けられ、俺は口を噤む。

 そしてそんな俺を見ていたたまれなくなったのか、山本さんは求人雑誌と水の入ったペットボトルをカウンターの上に置いた。


「とりあえず今日はもう帰んな。そんで、よーく考える事だね」


「あぁ、わかったよ。ありがとう山本さん……」

 

 俺はそう言い残し、店を後にして家に向かってフラフラと歩き始めた。



 ◇


 道中、俺は山本さんに貰った求人誌を眺めていた。


「色んな仕事があんだなぁ。何か適当に座ってるだけで金くれる仕事とかねーかなぁ? ん……? 何だこれ……?」


 そんなあるはずもない求人を探しながら、次々とページをめくっていくと、片面一ページを贅沢に使い、カラフルな色で彩られた求人に目を奪われた。


『"探索者大募集! 完全出来高制! 報酬は回収した魔石の買取額からギルドの取り分を引いた残り分全て! やり甲斐のある仕事で、あなたも世界を平和にするお手伝いをしませんか!"』


「何だこれ、胡散くせぇ。なーにが"世界を平和にー"だ。馬鹿じゃねーのか? えー、なになに……。『因みに、日本で一番稼いでいる探索者の年収は一億超え――――』だと!?」


 誇大広告だと高を括り、適当に流し見をしていると、"最高年収一億超え"という魅力的過ぎる数字に俺は目が眩んだ。


「そんな稼げんのか探索者ってのは……。まさかあのガキもそんくらい……? いや、それはねーか。でもちょっと気になるし――――」


 俺はそう言うとおもむろにスマホを取り出し、探索者についてネットで調べ始めた。


「えっと……? へぇ、探索者にはランクがあんのか。G級からS級ねぇ……。しかもギルドとかいうとこに管理されんだな。ほうほう……」


 ネットの海を渡り周り、気が付けば俺は"探索者ギルド"のホームページに辿り着いていた。そして何となく読み進めて行くと、探索者名簿のようなデータベースのページに飛び、そこには顔写真付きの名前が一覧で表示されていた。


「おいおいマジか……。探索者ってのは顔と名前まで晒されんのかよ? こりゃあ金を弾んで貰わなきゃ誰もやんねーわ。お……? コイツって――――」


 探索者データベースを見ていくと、見覚えのある顔が目に入った。


「東條愛華……ってあの昼間のガキじゃねーか! あ? しかもダンジョン配信なんて生意気な事をしてやがんのか! どれ、一回見てやる。もし、くだらねぇ配信だったら死ぬ程悪口書いて荒らしてやるから覚悟しとけよ!?」


 俺は情けなくも昼間にボロクソに言われた事を根に持ち、次は愛華のライブ配信のページへと飛んだ。すると丁度いいタイミングで愛華のライブ配信が始まった。


 

『どうもーみんな、こんちゃー! "あいきゃん"だよー! 今日も元気にダンジョン攻略していくよーっ!』

 

「コイツ、もう0時前だっつうのにまだダンジョンにいやがんのか。……てか、なーにが、"あいきゃんだよー"だ! ぶりっ子しやがって、テメェはそんなんじゃねーだろ! 本当の姿はクソ生意気な口の悪いガキだって暴露してやる……!」


 そう思い立った情けなく大人気ない俺は、スマホの入力キーを押し始める――――が、やはりおじさんなのか、打ち込みにかなりの時間を要し、気が付けば配信はどんどん先へと進んでしまう。



「『こいつほんとはくそなま』――――って、おいおい、ちょっと待てよ!? 俺はまだ10文字しか……! ――――って、お? なんかモンスターが現れたみたいだな? どれ、探索者様のお手並みはどんなもんか、ちょっくら拝見させてもらうか」


 そして俺は適当に歩きながら配信画面を眺める。(※ 歩きスマホ ダメ絶対!)

 すると愛華は見事、一匹のモンスターを仕留めたようだった。


「ほう……中々やるじゃねーか。さすがは探索者ってやつだな。ん……? 何かコメント欄の様子がおかしいぞ?」


 余裕の笑みを浮かべる画面の中の愛華だったが、次第に暗雲が立ちこめる。そして束の間、愛華はモンスターの大群に追いかけられ始めた。


「おいおいおい……!! ちょっとこれやべーだろ……!? どうなっちまうんだよ!?」


 コメント欄を読んでいると、愛華は相当ピンチのようだった。愛華自身も必死の形相で逃げ始めるも遂にはモンスターに押さえ付けられてしまった。


『キャーーーーー!!』


「マジかよ!? 本気でやべーじゃねーかアイツ――――って、あ……?」

 


 配信に夢中で適当に歩みを進めていた俺は、街灯の無い裏路地を進み、気が付くと"渋谷ダンジョン"の目の前で足を止めていた。


「何の因果だよ、おい……?」


 俺は目の前にある渋谷ダンジョンに困惑していた。

 運命のイタズラか、はたまた歩きスマホをしていた報いか。そんな中俺は、居眠り中に見た夢を思い出していた。

 

 ――"人間腐らせても、男は腐らすな。困ってる女は必ず助けろ"だっけか、親父……?

 チッ……。俺を置いて死にやがった癖に、タイミング良く夢に出てきてんじゃねーよ……。


「ったくしゃあねーなぁ……! やってやるよ……!! えっと、確か……30階層だっけか?」


 俺は頭を搔き、そう叫ぶと運命に従い、人生で初めて・・・・・・ダンジョンの中へと足を踏み入れた。


 

 ◇



 俺はダンジョンの内部へと入るやいなや、30階層を目指し全速力で走り出した。

 渋谷ダンジョンの内部は入り組んではいるが、基本は一本道であり、迷うことなく次の階段へと辿り着けた。

 そして三個目の階段を降り始めた所で、突然とんでもない爆発音と地響きがダンジョン内に木霊した。


 

「……っ!? 何だ今の爆発は……!?」


 俺は爆発音を聞き、慌てて階段を駆け下りようと強く踏ん張った。


 ――――ポンポンッ


 刹那。俺の目の前に金色・・のサイコロが二つ・・発現した。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アラサー無職のダンジョン革命〜かつて世界最強だった探索者の息子、パチプロ辞めて探索者になるってよ〜 青 王 (あおきんぐ) @aoking1210

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画