list1:貴方の心

目を覚ますのが遅かった。ああクソ、酒のせいで名前が思い出せん。えぇと、θ型エリート型だったか、そいつがもう既に何処かに行った。行方が分からない。仕事に行ったのか?それとも自分探しか?はて分からんな。バイク相棒は、昨日の土煙がなかったかのようにピカピカであった。よく酔わなかったな、と思う。こっちは弱い酸性の豪雨とバカみたいな気圧でやられてるのに、酷いよな。頭痛は酒の敵!!

「ファルノ、あいつ─エリート型って何で在るんだ?」

「それを問われましてもね、分かりませんよぉ、政府の考える事はっ。

でも、言えることはただひとつ、ってこと。彼含めて彼四人、エリート型がいる。エリート型の中で彼の存在はトクベツ世界に認知が広まっているが、 彼の認知度よりボクの方が力が強い訳。...あと仲、良かったし?よく事件の真相に問い詰めたりしたさ、尋問とか。

元を言えば、ボクら二人が居てこそ、こーんな廃れた緑のプリント基盤な時代の流れに抗えたんだよ。しかし、アイツは...その力を、格を、何も知らない警察官にボロぞうきんの様に扱われた。格を見せつけていれれば、アイツはあんなことをしなくて良かった...これもプログラムされたAI生なんだろうね。」冗談を交えた筈のファルノの目は切なく細かった。本当はファルノ...アイツが好きだったんじゃないのか?と聞きたかったが、あの目をされては問うものも問えない。

「あー、もういい暗い話はナシだ。頭痛が悪化する。」

「あ、頭痛かったんだ。ごめん」

「気にしないで。」

大きい雨粒が屋根に当たると同時に、朝食を終えた。

「あ゛ー...今日は動けねぇな...」

「...ボクがなんか作りましょうか、おやつとか」

「はは、もう十時のおやつにする気か?」

「うん、チョコケーキが食べたいなと思って。」

「小麦粉、あったはずだぞ」

「............あったぁ!!」

「私も手伝うよ」

「レイは寝てなさいよ」そういえば、最近私に愛称がついた。「レイ」。レイティスは長かったからな、愛称がつくのは当然だと思う。だから私もつけた。「ファル」って。

「嫌だよ、手伝う」

「頭痛くなっても知らないからね」


小麦粉とか、薄力粉、バター、砂糖、卵、板チョコ、生クリーム。デコレーション用にアラザンとかいろいろ用意した。こんな機械なご時世だから、チョコ類はあんまり美味しくないと思う。でも小麦粉とかはよくできてると思う。いつも毎年一人二人、働き手が失ってく。AIの所為だ。

だから味が悪くなっていく。前だってそうだ。オムライスがまずかった。全く卵の風味がしない。

「レイ!面倒くさがらないで、ちゃんと量って!一グラムでもミスれば見た目が悪くなる!」

「見た目はどうでもい

「映え!ブログにアップすんの!」へぇ。ブログなんてやってたんだ。初耳。後で見ようかなぁ?と思うのと同時に、ファルに対して、「どうでもいい」は禁句になった。


「レイ、混ぜはしっかりできるんだね」

「見下さないでください」AIのクセに生意気。

「薄力粉!やりたい!」

「どうぞ」子供の癇癪かなんか?

「型流ししたい」

「どぞ」

「オーブン入れるよ、チョコ突っ込んだ?」

「うーい」ファルはやる気が無さそうだ。飽き性でしょこの人


「火傷気を付けてな」

「うんー!」

「よし、これで後は冷ますから...少し休憩」

「んへ、良くできたと思う!...ねぇレイ、ボクと居るの楽しい?」

「回答はイエスだ。ぼっちで旅するよりふたりでデコボコやってた方が楽しいさ。...また暗い話か?」

「...やっぱボク、アイツのこと好きだったかもしれない。れんあ...友情的に」別にいいじゃん、と投げかける。

「なぁ、隠さなくてもいいでしょ。お互い相棒でしょ?」

「じゃあ...うん...そうだよ、レイの言う通り。

彼が好きだった。立ち向かう背中がカッコ良かった...ボクをいじってくる姿も面白くて好きだった...のに...」

「のに?」

「ボクは...本心を...伝えられなかった...だから、別の部に行った。それっきり、会えてなかった。伝えられてたら、まだまだずっと居れた...。もしかしたらだよ、ペア以上の関係になれてたかもしれない。でも、あのボクは勇気がなかった...」

「...別の世界って、いいよな。」

「?」

「犯した過ちをしなければ、と考えれば。こんな泥棒もしなくて良かったはず。あんな奴らと、鬼ごっこなんて無かった話だ...。」

「レイって、本当は、」

「ああ、この話は止めだ。この後のことは酔った私に聞いてくれ」そういって会話を中途半端に終わらした。

「歯切れが悪いなぁ...」


「レイ!お前クリーム塗るの下手くそ過ぎるだろ!?」

「そういうファルだって、イチゴの配置よく考えてないじゃん!」

「うっわ、あれだけ映え意識してたのにクリーム出すの下手くそ~」

「あーはいはい、ブログ出すのやめまーす」

「止めろとは一言も言ってない、被害妄想すぎ」


なんか変な口論とか争いとかしてたけど完成。

「...おいし。」

「だろ?よく考えれば今、ここで二人いる方が楽しいだろ?アイツよりも、こっちの方が愛はあるぞ。」

「...それでボクの心奪えるとでも思ってんの?...奪われたけどさぁ...本当にレイってそういうのだけは一丁前だよね。そこだけ卑怯な怪盗じゃないか。信じられない。」

そうして、彼の心を奪うことができた。しかし、付き合うと迄は考えない。機械に恋ができないからな。ふんわりぽかぽかムードになってきたところで、腹一杯になり寝てしまい、本当のことを伝えられずにいた。

...いや、暫く伝える必要は無さそうだ。


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