第18話

目が覚めた。またまたここは俺の部屋だ。

 ……もう今度こそ、大丈夫なはずだ。幼馴染の朱里に会えるはず。

 ドアが突然開き、部屋の中に入って来た。

 前回と前々回とは違う展開だ。

 朱里は怯えながら、俺を見ている。なんでだ。なぜ、そんな表情をするんだ。まるで知らない人間が部屋に居るような顔をするなよ。

「……誰ですか」

「誰って、俺だよ。門田絽充だよ」

「知りません。ここは私の部屋ですよ」

「はぁ?俺の部屋だよ」

「何言ってるんですか?だ、誰か助けて」

 朱里は叫びながら去って行った。

 つ、次は赤の他人かよ。でも、その設定はおかしいだろ。どう見ても、この部屋は男の部屋だ。朱里の部屋ではない。でも、一応追いかけないと。何か分かるかもしれないし。

 俺はベットから降りて、廊下に出ようとした。

 ――――修正中――――

 なんだ、勝手に修正を始めた。

 頭が割れるほどに痛い。身体の自由が利かない。くそったれ。


 視界が鮮明になっていく。ここはたしかに俺の部屋。

 まただ。次はどんな設定に修正されているんだ。自分の力なのに暴走している。どうすれば制御できるんだ。

 ドアにナイフが刺さった。廊下に居る誰かがその刺さったナイフを抜いた。

 ……次は何なんだ。今までと全く違う。異質だ。ホラー映画だ。邦画じゃなくて洋画。血が大量に出てくる奴みたいだ。

 誰かがまたドアにナイフを刺す。

「だ、誰だ」

「この声は絽充?」

 聞き馴染みのある女性の声。も、もしかして朱里なのか。いや、今回だけはそれを神事だ炊くない。

「誰だ」

「……誰って私よ。木場朱里」

「……朱里」

「開けて。ねぇ、ここを開けてよ。愛しの絽充様」

 こ、怖い。朱里じゃない。こ、殺される。何が何でもドアは開けない。廊下に居るのは殺人鬼だ。きっと、そうだ。そうに違いない。

「どっかへ行け」

 俺は廊下に居る女性に言った。

「な、なんでそんな事言うの?」

 ドアの向こう側から泣き声が聞こえる。

 くそ。朱里と同じように泣く。俺が朱里を泣かしているみたいだ。でも、外に居る女性は朱里じゃない。

「お前が朱里じゃないからだ」

 罪悪感を振り払うように思いっきり言葉を投げつけた。

「私は朱里よ。正真正銘、木場朱里よ。信じて」

「信じられるか」

「それじゃ、どうすれば信じてくれるの?」

「何をしても信じねぇよ」

「そんな……あ、そうだ。私の顔を見たら信じてくれるはず」

「はぁ?ドアは開けないぞ」

「開けなくても顔は見せれるよ」

「ど、どう言う事だ」

 返事がない。なにをする気だ。早く逃げないと。窓から外に出るか。いや、それは無理だ。あの高さは飛び降りても怪我をして捕まってしまう。

 修正するか。でも、上手く修正できるか分からない。ど、どうすれば助かるか考えろ。考えるんだ。

 ドアの向こう側からチェーンソーの機械音が聞こえてくる。

 う、噓だろ。も、もしかして、ドアを切る気か。

 チェーンソーの刃がドアを貫いた。

 思った通りだ。外に居る女性はドアを切る気だ。いかれてる。いかれてやがる。ジェイソンだ。俺は殺されるんだ。

 チェーンソーの刃がドアの真ん中部分を切り抜いた。そこから廊下にいる女性の姿が見えた。

 ……朱里だ。でも、俺の知っている朱里じゃない。

 チェーンソの機械音が鳴り止んだ。

「どう。これで信じてくれる?」

 朱里らしき女性はドアの切り抜いた部分から顔を出して訊ねて来た。

 血だ。朱里らしき女性の顔には血がべったり付いている。何の血だ。これはヤバイ。最悪の場合殺されるんじゃないか。

「ま、まだ信じない。それは誰の血だ」

「え?この血は人の血に決まってるじゃない。さっき人を殺したんだ」

「人を殺した?」

「うん。邪魔だったから。私は絽充だけがいればいいんだもん」

「どんな理屈だよ」

「理屈なんかないよ。ねぇ、信じてよ。信じてくれないと殺すよ」

「わ、わかった。信じる。信じるから」

「やった。ようやく信じてくれた」

 朱里らしき女性は満面の笑みを浮かべた。その表情は今までみた何よりも怖い。

「……うん。だから、出て行ってくれ」

「なんで?意味分かんない」

「怖いからだ」

「怖いって好きって事だよね。それに信じてくれたから入るね」

「はぁ?」

 話が通じない。俺は本当に人間と話しているのか?目の前にいるのは人間じゃなくて人間の皮を被った宇宙人か何かか。

 朱里らしき女性はドアを切り抜いた部分から手を出して、ドアの施錠を解除した。

 入って来る。こいつは入って来る。修正だ。修正すればどうにかなる。修正しろ。

 ……なんでだ。なんで、修正出来ない。こう言う時に修正しなきゃ意味がないだろうが。

 朱里らしき女性はドアを開けて、部屋の中に入って来た。着ている白いシャツは血で赤く染まっていて、至る所がボロボロ。手にはナイフを持っている。

「く、来るな」

「来て欲しいんだね」

 なんで逆に変換して受け取るんだ。……だったら、「来て欲しい」って言えば去って行くんじゃないか。

「うん。来て欲しい」

「本当に?嬉しい」

 どっちにしろ、自分の都合よく受け取るじゃねぇか。くそったれ。助かる方法を早く考えないとマジで殺される。

「愛してる。愛されてる。ルンルン」

 朱里らしき女性は鼻歌を口ずさみながらナイフを振り回して、歩み寄って来る。

 ……動け身体。恐怖で身体が思うように動いてくれない。

「それじゃあ、私からの愛のプレゼント」

 朱里らしき女性は俺にナイフを刺してきた。

 し、死ぬ。頼む、修正してくれ。修正しろ。俺は目を閉じた。

 ――――修正中――――

 

 飛び起きた。心臓が皮膚を突き抜けるじゃないかと思うほどに強く脈打っている。

 ……ここは俺の部屋だ。ドアは破壊されていない。また修正したのか。もうあんな怖い経験はしたくない。

 トントンとドアを叩く音がした。

「……はい」

 恐る恐る返事をした。もう、今さっきみたいなパターンではないだろ。なんだか、ループしているみたいだ。自分がその体験をするとは思っていなかった。いつになったら、このループから抜け出せるのだろう。

「朱里よ。入ってもいい」

「何も持ってないよな」

「何その意味の分からない質問?」

「いいから答えろよ。持ってるか、持ってないか」

「……持ってないよ。だから、入っていい?」

「わかった。入っていいよ」

 ドアが開き朱里らしき女性が入って来た。

「……朱里だよな」

「うん、そうだけど。木場朱里ですよ。正真正銘」

「……そっか。よかった」

 どうやらループから抜け出せたみたいだ。修正が上手くいったのだろう。もうこれで朱里も元通りになった。

「あ、頭が痛い」

 朱里は突然頭を両手で押さえて苦しみだした。

「大丈夫か」

 俺はベットから降りて、朱里の方へ向かおうとした。

「こ、来ないで」

「なんでだよ?」

「分裂する」

「……分裂する?」

 どう言う意味だ。そのまま受け取ればいいのか?でも、人間が分裂するなんて聞いた事がないぞ。と言うか、そんな事あり得ないぞ。

「そう。分裂するの」

 朱里は分裂した。

「ま、マジかよ」

 俺の目の前には二人の朱里が居る。誰かこの状況を説明してくれ。意味が分からない。これはもしかして、まだループから抜け出せて居ないって事か。それに修正も上手く行っていない。

「また分裂する」

「わ、私も」

 目の前に居る二人の朱里は苦しみ出した。

「まだ増えるのか。いや、ちょっと」

 朱里は分裂した。俺の目の前には四人の朱里が居る。さっきのサイコパスな朱里とは違うベクトルで怖い。

「分裂する」

「私も」

「私だって」

「私もね」

 四人の朱里が分裂して8人になった。

 もう止めてくれ。もう頭がパンクする。いや、パンクしている。見ているだけで精一杯だ。

 8人の朱里は16人の分裂した。そして、すぐに16人の朱里は32人になった。

 32人の朱里で部屋は埋め尽くされている。逃げようと思っても逃げられない。

 修正だ。修正しないと、朱里達に押しつぶされてしまう。俺は目を閉じた。

 ――――修正中――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る