第14話

翌日の朝。全然眠れなかったせいで身体がだるい。けど、朱里との約束を守る為に9時には起きて、準備を済ませた。後は朱里が来るのを待つだけ。

 集合時間まで1分。まだ朱里が来ない。おかしいな。朱里はいつも5分前行動している。だから、こんなにぎりぎりまで来ないはずがない。……もしかして、釘野が。いや、考えすぎか。

……胸騒ぎがする。心配だ。10時になったら連絡してみるか。

 ――集合時間の10時になった。朱里は来ていない。おかしい。朱里が遅刻するはずがない。

「真喜雄様からの電話です。出ますか、出ませんか?」

 アニマが訊ねて来た。

 ……真喜雄から電話?あいつが電話を掛けて来るのは俺に何かを早く伝えたい時だ。何でも無い時はメッセージで済ますし。

「出る」

「了解致しました」

 アニマは電話を繋いだ。

「もしもし、どうした?」

「釘野が……釘野が」

 真喜雄の慌てた声が聞こえる。釘野がどうした?

「釘野がどうしたんだ?」

「あいつが……釘野がネットマフィア・テバルドのボスだったんだ」

「そ、それは本当か?」

 釘野がテバルドとのボスならソクラクトした事も頷ける。それってかなりヤバイじゃねぇか。

朱里の身が危ない。

「あぁ、たしかな情報だ」

「……そうか」

「気をつけろよ。あいつ何しでかすか分からねぇぞ」

「分かってる。連絡ありがとう。ちょっと確かめたい事があるか電話切っていいか?」

「おう……死ぬなよ」

 真喜雄は普段絶対言わない言葉を言った。それは冗談ではなく本当に心の底から心配してくれている事だ。小さい頃からずっとつるんでいる俺だけから分かる。

「死なねぇよ。ありがとな」

「礼には及ばねぇよ」

「おう。じゃあな」

「はいよ」

 電話を切った。そして、アニマで朱里に電話を掛ける。

 呼び出し音がずっと鳴り続けている。……なんで電話に出ない。も、もしかして。

 脳内に考えたくない悪いイメージが大量に浮かんでくる。俺はそのイメージ達をシャットアウトしようと、朱里と一日何をするかイメージする。けれど、考えたくない悪いイメージは俺の頭を破裂させるかのように溢れてくる。

 ここに居ても埒が明かない。

 俺はベットから立ち上がり、自分の部屋から出て、階段を降りて、玄関に行く。

 玄関に着いて、靴を履き、ドアを開けて、鍵も閉めずに朱里の家へ全速力で向かう。

 頼む。寝坊であってくれ。それだったら怒らないから。無事ならそれでいいから。無事で居てくれ。朱里がもし死……いや、そんな事考えちゃダメだ。朱里は死なない。死なせない。絶対に。

 朱里の家に前に着いた。家の外観は普段と変わりがない。それは襲われていないって事だ。いや、もしかしたら家の中は……

 俺はインターホンを急いで押した。

 誰か出てくれ。走って来たのと恐怖心から過去最速で脈が打っている。それも皮膚を突き抜きそうな強さだ。

 玄関のドアが開き、朱里の母さんが出て来た。

「いらっしゃい。絽充君」

 朱里の母さんは普段と変わらない表情だ。……ちょっとホッとした。朱里は寝ているだけか。

「朱里は居る?」

「居るわよ。地下に」

「……地下?」

 地下?地下って事は……もしかして、アクティメントに行っているのか。約束の時間を過ぎてもか?おかしい。何かあるはずだ。

「えぇ。何か用があるらしくて」

「そ、そうですか。ちょっと上がっていいですか?」

「いいわよ。どうぞ」

 朱里の家の中に入って、玄関で靴を脱いだ。そして、そのまま階段を降りて、地下室に向かう。

 地下室に着いた。

 朱里はヘルメットを被り、精神転送マシーンの座席に座って居た。

 なんで朱里は朝っぱらからアクティメントに行ってるんだ。何か理由があるはず。

 俺はアクティメントに行って調べるか。それしか方法は無さそうだし。

「……イリーガルエリアに来い」

 朱里の口が動いた。そんな事ある筈ない。だって、精神はアクティメントに行ってるんだぞ。

寝言とは違うだぞ。

「誰だ」

「……朱里と結ばれる者だ」

 朱里と結ばれる者?もしかして、釘野か。いや、釘野ので間違えない。こんな事できるのは

釘野だけだ。

「釘野か」

「あぁ、その通りだ。今すぐ、イギリスエリアへ行く為の通路へ向かえ。イリガールエリアへの入り口を開いている」

「……分かった。行ってやる。朱里は無事なんだろな」

「あぁ、今はな」

「今はなだと。ふざけんな。ぶっ殺してやる」

「威勢だけはいいな。早く来い。決着をつけよう」

 朱里は黙ってしまった。

 イリーガルエリアか。これは確実に誘ってきてる。あいつの事だ。罠を仕掛けているはず。それにネットマフィアのボスだ。手下も大人数いるはず。危険だ。けど、その危険の中に行かないと朱里の身が危ない。

 考えている時間が勿体無い。

 俺は精神転送マシーンの座席に座り、ヘルメットを被る。

「精神をデータ化しています。現在28%」

 機械の声が聞こえる。視界が暗くなってきた。どんどん意識が遠のいていく。


 意識が鮮明になっていく。ぼやけている視界のもやが晴れる。アクティメントに着いたみたいだ。

 俺はイギリスエリアのゲートへ急いで向かう。

 アクティメントの街は普段と変わらない。けれど、どこか違和感がする。でも、その岩kんを説明できない。なんだ、この気持ち悪い感覚は。

 イギリスエリアのゲートの前に着いた。

「壊れてる」

 イギリスエリアのゲートは無残に壊されていた。誰の仕業かは検討がつく。けど、どうやって壊したんだ。このゲートのプログラムはそこらへんのプログラムとは強度が違う。壊れるはずがないはず。

 ……そんな事を考えている暇なんてない。朱里を助けに行かないと。

 イギリスエリアの向かう為のゲートへ真下に行く。

 何も機械からの指示が出ない。壊れているから仕方が無いか。

 俺はそのまま進んだ。すると、イギリスエリアに繋がる通路に転送された。

 通路の右側の壁面には大きな穴が出来ていた。あの穴がイリーガルエリアに繋がる入り口で

間違いない。

 俺は穴に向かう。本音を言えば怖い。この前は奇跡的に脱出できたが今回は脱出できる可能性は限りなく0に近い。でも、イリーガルエリアに行かなければ、朱里を助けられない。

 数歩を歩くと、身体が穴に吸い込まれていく。その吸い込む力は抵抗するだけ意味がない程に強い。

 俺は抵抗せずにそのまま穴に吸い込まれていく。

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