第11話
茜色の空。蛍の光がどこからか聞こえる。それに近所の家からカレーの香りがする。
朱里に肩を借りながら、家の前に着いた。身体の痛みはあるが先程まではない。自分の身体の強さが恐ろしい。
「ありがとう。もう大丈夫」
「本当に?」
朱里は心配そうに訊ねてくる。
「おう。本当に大丈夫だよ」
「ごめんね。クレープ奢ってとか言って」
「なんで?約束だっただろ」
「……そうだけど」
「朱里は悪くない。悪いのは釘野だ。それに朱里と一緒に居れて嬉しかったし」
あれ、なんでそんな事言ったんだ。俺はイケメン俳優じゃないぞ。殴られてどこかおかしくなったのか。一緒に居れて嬉しかったのは本当だけど。あーやばいぞ。朱里に何かされるぞ。
「……本当に?」
朱里は顔を赤めて言った。
え?思っていたリアクションと違う。「普段なら何言ってるの」とか言って、肩を叩いてくるはずなのに。何かあったのか。何か変なものでも食べたのか。食べたのはクレープだ。ネーミングはおかしいが味はいい。だから、違う。
どう答えればいい。噓だとかは言えない。事実だし。仕方ない。あと数日で終わる人生だ。
「本当だよ」
言った。言っちゃった。言ってしまった。
「……嬉しい」
「…………」
こう言うとき何て言えばいいんだ。経験と語彙力がなくって言葉が出ない。情けない。
「また明日。ちゃんと絆創膏とか貼りなよ」
「うん。分かった。また明日」
「じゃあね」
「お、おう」
朱里は走って去って行った。
青春か。これは青春なのか。なんだか、何とも言えない嬉しいような寂しいよなよく分からない感情が身体全身を駆け巡っている。
ズボンのポケットから、家の鍵を取り出す。玄関のドアの鍵穴に鍵を差して回す。
カチッと言う音が鳴り、施錠が解除される。その後、鍵を抜いて、ズボンのポケットに戻す。
ドアノブを引いて、家の中に入り、内側から鍵を閉める。
靴を脱ぎ捨てる。誰も居ないはずだからこのままでいいや。
リビングに向かう。
リビングのドアを開ける。何も変わりがない。変わっていたら問題だ。
リビングの中に入り、ソファに鞄を投げ捨てる。
木製のチェストの前に行き、チェストの天板に置いている救急箱を手に取り、リビングから出て、階段を上り、自分の部屋に行く。
……リビングで治療するべきだったかな。階段を上ったせいで今まで気にならなかった箇所が痛くなってきた。
自分の部屋のドアを開けて、ベットへ向かう。
ゆっくりベットの上に座り、横に救急箱を置く。
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