第87話 魔女との戦い
死闘はなおも続いていた。
キーア・ハールスは咲梨の追跡を嘲笑うかのように地上に向けて破壊の雨を降らせ続ける。
北斗はシェルターがある小高い丘の上に立つと無言のまま金色の銃の各パーツを展開し、より攻撃的な形へと変形させる。
咲梨の造った武器は本来ならば担い手に魔力を与える力を持つが、それを逆転させて担い手の魔力を武器に上乗せするという裏モードが存在していた。
この状態で使えば心身にかかる負担は半端なものではないが、気にしていられる状況ではない。
倍近くまで伸びた銃を構えて敵の魔女に狙いをつけると、躊躇うことなくトリガーを引く。瞬間、身体から魔力とともに熱が奪われるかのような錯覚を感じたが、撃ち出された光は先ほどまでとは桁外れの速さと密度で敵の魔女に迫る。
キーア・ハールスはすかさず防壁を張ったが、その防壁もろとも弾き飛ばされ、慌てて姿勢を整えた。
そこに咲梨が金色の杖を振りかぶって襲いかかる。
「なっ……!?」
驚きと怒りに目を剥きつつキーア・ハールスが自らの機械杖で、金色の杖を受け止める。まさか魔法使いが殴りかかってくるとは思っていなかったようだが、咲梨の攻撃はこれで終わりではなかった。
魔力を込めた蹴りが腹部に突き刺さり、キーア・ハールスが血反吐を吐く。
「もう一撃!」
追い打ちをかけるべく咲梨が杖を振り上げるが、突如としてキーア・ハールスの姿がかき消える。
「
元よりキーア・ハールスは空間制御を得意とする魔法使いだ。失念していたわけではないだろうが、その速さと正確さは咲梨の予測を上回っていたのだろう。背後に現れた気配に慌てて振り向くが間に合わない。
だが、そのタイミングで北斗は再びトリガーを引いていた。
「ちぃっ!」
悔しげに吐き捨てながら、攻撃を断念してキーア・ハールスが飛び退く。それでも撃ち出された光は曲線を描いて目標を追尾する。
敵の魔女は再び防壁を張るが、先ほどと同じように弾き飛ばされて体勢が崩れた。
そこを狙ってさらに狙撃しようとする北斗だが、その途端身体がよろめいて地に足をついてしまう。
「たったの二発でこれとは……」
自分の不甲斐なさに歯がみする。
そこに駆け寄ってくる者たちがいた。
「あとは任せろ!」
猛々しい声を上げたのは十二騎士のブラウンだ。彼は一緒に付いてきたリスティアに告げる。
「何度戻って来ようと叩き落としてやるから、遠慮なくあいつを撃て!」
「は、はい」
一度跳ね返されて以来、躊躇していたのだろう。
それでもリスティアはブラウンの護りを信じて弓を構えると再び魔女を射た。
飛来した矢をキーア・ハールスは魔法で受け止めるが、それを打ち返す前に咲梨が金色の杖で殴りかかる。
「あなたはそれでも魔法使いですか!」
慌てたよう叫んで、再び
「くそっ、こっちを先にやる気か!」
焦りながらもブラウンが仲間を守ろうと前に出る。魔女が光の奔流を迸らせるのと彼が
圧倒的な火力にその身をさらされながらも、ブラウンは大地に根を下ろしたかのように踏ん張り続ける。
異能で金属のように変化した身体には魔力を弾く力もあるらしく、飛び散った魔力を浴びて周囲の草木が炎に包まれた。
凄まじい破壊の波が去ったあと、ブラウンは全身から煙を噴き上げながらも、かろうじてそこに立っていた。
「さすがに、ちとキツかったか……」
ブラウンが片膝をつく。
「ブラウン!?」
声をあげるリスティアに彼は片手を軽くあげて大丈夫だと合図した。遥か上空では再び、咲梨とキーア・ハールスの戦いが再開されている。
援護が必要なのは分かりきっていたが、もう一度あの一撃を浴びせられれば、ブラウンでも防ぎきれないだろう。
足を止めることなく移動しながら攻撃すれば、かわすことも不可能ではないだろうが、北斗にはすでにそれだけの余裕がない。
戦力が激減した今、火惟と希枝、そしてアーサーはシェルターから離れることができず、援護は期待できない。
「あなた達は下がっていてください」
決意の光を瞳に宿してリスティアが告げる。
北斗が考えたとおり、移動しながら魔女を狙撃するつもりだろう。
しかし、万が一にもキーア・ハールスに矢を返されたら、おそらくそれで最期。命はない。
だからといって十二騎士が怖じ気づくはずもなく、彼女は北斗達の返事を待つことなく魔女の居る方向へと駈け出していった。
だが、その途上で、いきなり足下から土砂が噴き上がり、為す術もなく吹っ飛ばされてしまう。
「きゃあぁぁぁぁーっ!」
悲鳴をあげながら宙を舞うリスティア。
茫然と北斗達が見守る中、その土砂を巻き上げた張本人が、落ちてきた彼女を見事に受け止めた。
「……人造人間ナイン」
ブラウンが目を丸くしてつぶやく。思わずそちらの名前で呼んでしまったようだが、現在は秋塚千里が彼女の名前である。
先ほどキーア・ハールスに魔力の奔流で吹き飛ばされたはずの少女は、まったくの無傷でそこに立っていた。
両腕に抱えたリスティアの身体を下ろすとマントについた埃を払って、地面に半ば埋もれていた金色の大鎌を掘り起こす。
相変わらずボーッとした顔をしているようだったが、北斗にはどことなく不機嫌そうに見えた。
手にした鎌を軽く振って土埃を落とすと、どこか音楽的なシャンッという音色が響く。
その金色の瞳は咲梨と空中戦を繰り広げる魔女をじっと見つめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます