第63話 生々しい悪意
戦いがあった山頂では、未だ円卓の回収部隊が活動中だった。
乱戦によって点在してしまった
負傷者の手当と搬送はすでに終わっていたが、今は入れ替わりにマーティンの直属の部下達が周囲の警戒にあたっている。
北斗はバスの車内でマーティンと話し込んでいた。
「結局、セラフと呼ばれたアレは痕跡すら残らなかったそうだ」
残骸が見つかったからといって解析可能とは限らないが、なにかしら手がかりが欲しいと考えるのは当然だろう。
「秋塚さんは、神獣が喚び出す使い魔のようなものだと言っていましたが」
「あのようなものを多数喚び出すとは神獣とは末恐ろしいな」
「ええ。場合によってはアレによって神隠しの元凶であるセレナイト自体破壊されているかもしれませんが」
「ならば良いが……。そもそも奴らはどうして、こちらの世界に出てきたのだ?」
「機械人形を追って来た可能性もなくはないですが……」
躊躇いがちに北斗が答える。その意味にマーティンは察しがついた。
「今さら本音を隠すことはない。師はもう居ないのだ」
言われて、北斗は苦笑いでうなずく。
「あの時、セラフは間違いなく華実さんを狙っていました」
「そうだな。私にもそう見えた。そして奴らは当初、我々には興味を示さなかった」
「はい。こちらから仕掛けなければ襲われなかった可能性すらあります。華実さん以外は……」
「つまり奴らはディストピアの人間――正確には、その魂を持つものだけを狙うのか」
「推測ですが」
北斗の意見を受けてマーティンはやや考え込む。
「だが、ここには人造人間がふたりいた。奴らはなぜ、そちらには見向きもしなかったのだろうか。彼女たちもディストピアの出身だというのに」
「霊子型人造人間とは、文字どおり魂自体が人の手によって造り出された存在です。その意味ではあちらの人類とは違うと考えられます」
「なるほど、確かにな」
「同時に神隠しが、この地でのみ発生する理由も想像がつきました」
「それは……?」
「部長が言っていたでしょ。闇雲にゲートを開いても目的地には行けないと」
暫しの黙考の末、マーティンも気がついたようだ。
「座標――
それがなければゲートはその都度、どこに繋がるか判らない。いや、最悪の場合はどこにも辿り着けずに次元の狭間を永遠に彷徨うことになりかねない。だから、敵は最初からそれを用意していたのだ。
「彼女はセレナイトにマーカーとして利用されていると考えられます。彼女だけがゲートが開くのを感じられるのも、その都度セレナイトが魔力で彼女の居場所を探知するためでしょう」
「なんと辛辣な!」
マーティンは憤りを隠そうともせずに吐き捨てる。
「この敵は彼女にどれだけ重い宿業を背負わせるつもりだ!」
「敵の首魁はコンピュータという話です。合理的に判断し、事を進めていると考えれば、そのやり方は理解できなくもない。ですが……」
言い淀んだのは、そこから先は憶測ですらなく、ただの勘に過ぎないからだ。
「気になることがあるのか?」
マーティンに問われ、迷いながらも続きを口にする。
「生々しい悪意を感じる気がするんです。この一連の事件には」
「悪意……か」
「ただの勘です」
北斗はつけ足したが、マーティンは真剣な顔で考え込んだままだった。あるいは彼も似たようなものを感じていたのかもしれない。
「もう一つ、これは今さらのことですが気になることがあります」
「なんだ?」
「レジナルド卿の動きですが、電話を盗聴したにしては部隊の展開が早すぎませんか?」
「それは……」
マーティンも疑問に感じたらしく、訝しむような顔つきになる。
「理由を訊こうにも彼はすでに亡く、主立った部下も戦死してしまいました。あなたはなにか気づいた点はありませんでしたか?」
「……いや、すまないが、なにも分からん。だが、確かに奇妙だ」
首を傾げるマーティンの隣で北斗も考え込んだが、答えは出そうになかった。
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