第56話 輝きを纏う神の騎士
レジナルドが駆けつけたとき、そこには虹色の光彩が溢れかえっていた。どうやらそれは空間に空いた大穴から溢れ出ているらしく、マーティンを加えた地球防衛部の面々が、やや離れた場所でゲートに対して身構えているのが見えた。
「マーティン!」
弟子の名を叫ぶと、マーティンは驚いたようにこちらを見た。
「師よ、危険です!」
「貴様、師である私を出し抜いたか!」
盗っ人猛々しく叫んだが、マーティンは取り合うことなく逆に声を張り上げた。
「下がってください! 何か出てくる!」
「フンッ、今さらロボットの一つや二つなど――」
レジナルドが言いかけたとき、それは虹の光を突き破るようにして、その姿を現した。
端的に表現するならば、白光を身に纏った全身鎧の騎士だ。どこかメカニカルなその鎧はディストピアで造られた物のようにも見えるが、強い違和感がある。
「セラフ!」
悲鳴染みた声をあげたのは、先日捕獲に失敗した人造人間の娘――泉川希枝だ。
「では、これが神獣の!?」
北斗が焦った声を出すが、レジナルドにはなんのことか分からない。昨年度の事件のあと、円卓本部は千里から情報提供を受けていたが、事件自体がトップシークレットのため、当事者以外の十二騎士には知らされていないのだ。
ただ、神獣に関係するものというのは捨て置けるものでないのは確実だった。
「面白い! ザコばかりで退屈していたところだ! この私が相手になってくれる!」
剣を構えるレジナルドを見て希枝が叫ぶ。
「ダメ、逃げて!」
ただならぬその様子に気づいて火惟がこちらに向かおうとしたようだが、その腕を真夏がつかんで止めた。
直後、虹の光彩を突き抜けて、さらに二体のセラフが飛び出してくる。もし火惟が、あのまま走り出していれば、背後から撥ね飛ばされていただろう。
その刹那のやり取りはレジナルドにも見えていたが、相手が一匹だろうと三匹だろうと大差のないことだとしか思えない。
先日は奇術で真夏に出し抜かれたが、まともに戦えば自分は何者にも負けない。戦いの高揚感もプラスに作用して彼は今、全能感に満たされていた。
超低空を滑空してくるセラフを見据えて聖剣の刃に魔力を纏わせる。直前になってセラフは突然軌道を変えて横に逸れようとしたが、レジナルドは自ら踏み込んで剣を振り下ろした。
「逃がすか!」
敵との距離は剣の間合いからは外れていたが、刃より生じた魔力が目標を両断すべく襲いかかる。
爆音が轟き、セラフの背中の装甲が弾け飛んだ。バランスを崩して大地に激突するが、そいつはそのまま地面を抉って土砂を巻き上げながら体勢を立て直す。再び宙に舞い上がったセラフの姿を見てレジナルドが吐き捨てた。
「チッ……浅いか!」
聖剣を構え直すレジナルド。
空中に舞い上がったセラフは赤い燐光を纏いながら手にした槍を構え直すと、今度は真っ直ぐに彼にめがけて突っ込んできた。
「バカめ!」
再び聖剣に魔力を込めて迎え撃つ。セラフの動きは速いが対応できないほどではない。聖剣を上段に構えると敵の槍をかわしつつ、必殺の斬撃を放つ。かわしようのない確実な一撃だ。少なくとも彼はそれを確信していた。
だが、次の瞬間、聖剣はなんの手応えも彼の腕に伝えては来なかった。
セラフが消えたわけではない。そいつはまだ彼の視線の先に存在している。
わずかに間合いの外に。
「こいつ、慣性を無視して――!?」
通常、あれだけの速度で直進してきたならば、止まることも下がることも急にはできないものだ。だが、セラフはそれをやってのけた。軽く後ろに下がって、次の瞬間には再びトップスピードで直進してくる。徐々に加速するのではない。いきなり最高速度に転じていた。
セラフの槍がレジナルドの胸板を貫くが、痛みを感じる暇もないまま、その突撃によって彼の上半身は消し飛んでいた。
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