第55話 ダリアVSレジナルド
円卓十二騎士のひとり、レジナルド・アディンセルは喜々として大剣を振るっていた。
古来より彼の家に受け継がれてきたその大剣は聖なる力を秘めた逸品であり、俗に聖剣と呼ばれる強力な魔法の武器だ。
アーサーが持つカラドヴルフには及ばぬまでも、同じ聖剣のカテゴリーを持つマーティンのブライトスターにも劣らぬ力を秘めている。
通常の魔法武器は現代の魔術師たちが武器にルーンを編み込むことで造り出されるが、これら古式魔法武器に分類される品は、その製法が失われて久しい。古代の魔法使いか魔術師が生みだしたものとする見解が一般的だが、正確なところは何も判っていない。
ただ確かな事実として、これらの武器は現代魔法武器を遥かに凌駕する力を秘めていた。
唯一の例外が星見咲梨が造り出したアースセーバー・シリーズだが、レジナルド個人はその力を認めていない。
彼が大剣を一薙ぎする度に刃より生じる白光が
「下がれ! そいつの相手はわたしがする!」
機械刀を手に叫ぶと、レジナルドがその好戦的な目をダリアに向けた。それは極上の獲物を前にして舌なめずりをする獰猛な肉食獣の顔を思わせる。
「なるほど、お前が人語を解する
値踏みするような視線を真っ向から受け止めてダリアが問う。
「貴様は円卓の騎士か?」
「なに? なぜ知っている?」
訝しむレジナルドだが、ダリアに答える義理はない。
機械刀を構えると身体の各部に設置された
「ロボットなど拷問したところで意味はなかろうが、メモリが無事なら何か引き出せるかもしれんな」
「わたしに勝ってから考えるのだな!」
叫ぶと同時にスラスターを噴かしながら最高速度で斬りかかる。
「甘いわ!」
レジナルドは真っ向から迎え撃つと、その剛剣によって受け止めるのみならず、信じ難い力でダリアを大きく後ろへと弾き飛ばした。
スラスターによる姿勢制御でかろうじて体勢を立て直すと、そこにレジナルドが猛然と斬り込んでくる。
「くっ……!」
かろうじて横にスライドしてかわしたものの、肩口を浅く斬られて装甲の一部が弾け飛んだ。
「……強い」
苦々しく認める。前回戦った華実とは明らかにレベルが違う。身体能力はもちろんだが、かなりの場数を踏んでいるように思えた。
「この程度か、ディストピアのロボットよ?」
見下すようにレジナルドが嘲笑う。
「思い上がるな!」
ダリアは叫んで再び攻勢に転じる。エネルギー消費を気にせずスラスターを全開にすると、高速の斬撃を矢継ぎ早に繰り出していく。
レジナルドはそれを弾き、いなし、そのガッシリとした体躯に見合わぬ動きで、余裕の笑みすら絶やすことなく捌いていった。
その間にもふたりの周囲では、それぞれの仲間が激戦を繰り広げている。
量産型の赤い
すでに何人かの騎士が地に伏して物言わぬ骸に成り果てているが、レジナルドには気にする様子がない。自分ひとりでもすべてを片づけることができると信じ切っているようだ。ダリアには、それが思い上がりでもなんでもないように思える。
戦えば戦うほどにレジナルドはダリアの動きを見切っていく。機械刀は空を切り、身体に纏ったプロテクターには次々に新しい傷が刻まれていく。戦いは次第に一方的なものへとなりつつあった。
すでにダリアも気づいている。まだ致命傷は受けていないが、それはレジナルドが遊んでいるだけだ。彼が本気になれば彼女の身体は剛剣の一撃によって、たちまち粉砕されてしまうだろう。可能ならば撤退すべきところだが、それこそ至難の業に思える。
重い一撃を支えきれずにダリアが片膝を突くと、レジナルドは舌なめずりをするような顔で口を開いた。
「さて、そろそろ手足を切り落として終わりにするか。サンプルとしては、あまり壊れていない方が望ましいのだが、降伏などするはずもないだろう。自爆されるのが一番厄介だが……」
言葉の割には、さほど心配している様子もない。敵の顔は弱者をいたぶるのが愉しくて仕方がないといったふうだった。
だが、次の瞬間突然異質な波動が周辺に流れ込み、レジナルドもダリアも動きを止めた。
「ゲートか……!?」
ダリアは驚いたが、レジナルドはそれ以上に焦った顔つきになった。
「まさか、奴ら――この私を出し抜いたか!」
叫ぶと同時にダリアに背を向けて走り去る。その行く手には異界とこの世界を結ぶゲートが開いているはずだった。
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