第49話 幕間

「ごめんなさい……ごめんなさい……」


 白い闇の中で彼女はそればかり繰り返していた。

 言い返すこともなく、わたしは黙り込む。

 今さらどんな謝罪の言葉も無意味だ。わたしは彼女のせいですべてを失った。

 恨めしさが消えることはないが、烈火のごとき憤りはすでになく、燃え滓になったかのようなやるせなさだけが心を支配していた。

 本当に……昨日までの日々は何だったのだろう。

 緑の中を風を切って駆け抜け、天に届けとばかりに空に向かって跳び上がった。打ちつける波の音に耳を澄まし、潮風の中で意味もなく躍った。朝はお日様におはようの挨拶をして、日暮れにはまた明日と手を振った。

 当たり前に当たり前の青春を謳歌して、それがいつまでも続くのだと信じていた。

 そうやっていつまでも――

 いつまでも愛する人の隣で笑っていたかった。

 なのに、すべてはもう永遠に失われてしまった。

 目の前にいる彼女のせいで。

 絶対に赦せない。八つ裂きにしたって飽き足らない。

 頭ではそう思えるのに、心はもう感じることを忘れてしまったかのようにも、どこまでも空虚だった。


「ごめんなさい……」


 彼女がまた繰り返す。

 それを憐れむことなどできないが、同情めいた気持ちにはなっていた。

 目の前の彼女とて好きでそうしたわけじゃない。それ以外に選べる道がなかったのだ。

 なにも無い白い世界で、わたしはただ立ち尽くす。

 夢は壊れた。

 愛は朽ち果てた。

 それでもまだ、こうしてここに在ることに意味があるのだろうか。

 まだ何かやるべき事があるのだろうか。

 答えの出るはずのない自問自答に、しかし闇の中から答えが返ってくる。

 それはきっと、悪魔の囁きだった。

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