第33話 ディストピア

 霊子科学技術アストラルテクノロジー――それは長きにわたって繁栄を続けてきた人類の歴史の中で、結局は存在しないものとされた神秘の実在を証明する革新的なものだった。

 これによって得られた神秘的エネルギーは様々な分野に活用され、瞬く間にそれ以前の技術体系を過去のものにしてしまった。

 古来より神の領域とされていた霊魂の秘密を解き明かし、万病を克服し、ついには悲願であった不老長生さえ、現実のものとしたのである。

 だが、そこに至ってもなお、人類は戦いを捨てることはせず、この新技術を利用した様々な超兵器が開発されることになる。

 そこからさらに半世紀が過ぎた頃、それまで戦場の主役だった機械人形マシンドールを凌駕する生体兵器――人造人間が誕生した。

 それは人工的に魂そのもの生成されて生み出される究極の兵士だった。

 神秘的エネルギーによって身体機能のすべてを強化することで、遺伝子改良や生体強化では太刀打ちできなかった機械人形マシンドールの反応速度さえ凌駕し、魔法のごとき固有の超能力までが与えられ、彼らの台頭は戦闘の常識さえ変えてしまった。

 当初こそ生物ゆえの不安定さが問題視されたが、研究開発は瞬く間に進み、第四世代になる頃には、ほとんどの問題が払拭されていた。

 現在では第五世代型と呼ばれる人造人間が各国の主力となっており、技術先進国では第六世代型の研究開発すら始められている。

 XPS-09G・ナインが生み出されたのは丁度その頃だ。

 開発者の名前は羽成はなり愛海なるみ

 彼女はその時代でも規格外の天才と呼ばれた霊子科学技術の権威だった。

 外見年齢は二十歳に満たないが、この時代の人類はすでに不老長生が当然のものとなっているうえに、外見などいくらでも作り替えることができる。それゆえ、それが本来のものかどうかは当人にしか判らないが、少なくとも現在の容姿は非の付け所がないほど美しいものだった。

 もっとも本人はそのことをどうとも思っていないらしく、着飾ることさえほとんどない。

 数々の輝かしい功績ゆえに様々なパーティーへと招かれるのだが、ドレスを着ていくことはなく、せいぜいが白衣よりはマシといった程度の格好をしていた。

 国家の重鎮の中には、このことを問題にする人物もいないではなかったが、愛海に言わせれば白衣のまま行かないのが最大限の譲歩ということらしい。

 人づきあいが悪く権力者に媚びることのない変わり者のため、彼女を快く思わない者は少なくはなかったが、その程度のことで冷遇するには愛海の才能は貴重すぎた。

 それもあって愛海には科学者として考え得るあらゆる特権が与えられており、ある時彼女はそれを活用して、ひとりの人造人間を完成させた。

 それがXPS-09G――通称、ナインだった。

 実験用の名目で造り出された彼女のスペックは非公開だったが、彼女が造ったものである以上、少なくとも第六世代に匹敵するという噂があった。

 だが、その後十年が経過しても、愛海はナインについての情報を外部に発信することはなかった。ただ、その間にも愛海は次々に新技術を開発しては世界の注目を集めていたため、ナインの存在は自然と人々の意識から薄れていった。

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