第25話 親友
往時市は陽楠市よりもさらに田舎町だ。人口は大差ないが、陽楠市と違って交通の便が悪く、町の中央にさえ寂れた雰囲気がり、駅も木造の平屋だった。
「都会に行きたい」
地面に大の字になって倒れていた火惟はボソッとした声を発した。
「なんだ、らしくもなく逃げ出すのか?」
苦笑めいた顔で言ったのは親友の
「勝負に負けたこととは関係ねえよ。ただ、俺にはこの町は狭すぎる。ここにはどう考えても俺の力を必要としている人間はいない」
「都会なら、掃いて捨てるほど悪が溢れていると?」
「ああ、そうさ。俺たちが正義の味方として活躍するには、やっぱそれに相応しい舞台が必要なんだ」
「フッ……言いたいことは分からんでもないが、そのためにはまず、もっと力をつけないとな。クラスメイトの女子ひとりに叩きのめされているようでは話になるまい」
「ぐっ……」
痛いところを突かれて呻く。それにしても、この友人は鼻で「フッ……」と笑うのが、やけに絵になる奴だ。自分がやったときは女子から「豚の鳴き真似?」などとバカにされたが、やはり美形は得だ。
思考が横に逸れて関係のないことを考えていると、いつの間にか彼方が手を差し伸べてくれていた。
素直につかまって身を起こすと、とりあえず衣服の汚れを簡単にはたき落とす。その隣で彼方が夕空を眺めるようにしてつぶやいた。
「だがまあ、彼女に勝てないのは恥じゃないだろうな」
「剣術道場の跡取り娘だからか?」
「いや、それ以前に少女坂はなにか違う気がする。俺たちとはなにかが根本的にな」
「俺はイヤだ。ぜってえ、いつか参りましたって言わせてやる」
「お前が土下座して頼むなら言ってくれる可能性はあるかもな」
「それ、意味ねえだろ!」
癇癪を起こしたように火惟が叫ぶと、口の悪い友人は品の良い笑い声をあげた。
いつもどおりのやりとりだ。出会った時から彼方は口が悪い。
それでも彼は火惟の「正義の味方になりたい」という子供染みた夢を笑ったことがなかった。それどころか賛同してくれているのだ。
初めて火惟がそれを口にしたとき彼方は言ってくれた。
「いいな、それ。僕もそんなふうに熱く生きたいものだ」
「なら、ふたりでなろうぜ。この世の悪をぶちのめす正義の味方によ」
「そうだな。それも悪くなさそうだ」
それは小学校高学年の話だったが、それまで誰からもバカにされていた夢を、学年でもトップクラスの秀才に認めてもらえて、火惟は心から喜んだものだ。
以来、ふたりはお互いを親友と呼んで憚らず、その関係は中学三年になった今も続いている。きっと、これからも末永く続いていくはずだと火惟は信じて疑わなかった。
しかし、その年の夏休みに事件が起きた。
山菜を採りに山に入った彼方の父親が崖から足を滑らせて命を落としたのだ。
少なくとも、表向きにはそうなっていた。
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