第23話 捨てられぬ誓い

「よりによって千明夏実ですか。同姓同名とは奇妙な偶然ですね」

「名前には魔法的な意味があるわ。魂を肉体に定着させるには重要な気がするから、そういう意味では自然なことだけど……」

「それはそうですが、彼女の世界は科学の世界ですよ?」

「魂の秘密まで解き明かしているのだから、魔法的な概念すら科学で解明しているとか?」

「そういう話は聞いていませんが……」


 北斗と咲梨のやりとりを華実は黙ったまま聞いていた。自分の身の上については伝えたわけだが、ふたりの態度にとくに変化はない。ぼんやりとした眼差しを向けていると、それに気づいたのか、北斗は軽く肩をすくめて見せた。


「あなたは少し考えすぎですよ」

「考えすぎ?」

「あなたがどんな想いでそれを造ったにせよ、その時点で、このような事態を引き起こすことを予測することは不可能です」

「でも……」


 華実が抗弁しかけると、それを遮るように咲梨が訊いてくる。


「そもそもあなたの世界には、あんなふうに気軽に異世界に渡る技術があったのかしら?」

「いえ、それは……」


 実際それは華実にとっても不可解な点だった。


「他の国では研究は行われていたわ。でも、実用化の目処は立っていなかったし、そもそもあの状況下では技術開発なんてとても……」

「あの状況下?」

「…………」


 咲梨の言葉に華実は沈黙したが、それは答えたくなかったわけではなく、どう説明すれば信じてもらえるだろうかと迷ったためだ。


「詳しいことは分からないけど、手段もない状況だったのなら、なおさらこんなのあなたの罪じゃないわよ」

「しかも、あなたはセレナイトの所業に怒り、それを阻止するために命まで懸けている。それは責められるどころか、賞賛されるべき行いです」


 ふたりの言葉に華実は黙ったまま俯いた。

 やさしい言葉をかけられて嬉しくないわけではない。胸に染み入るぬくもりを感じて心が震えないわけではない。それでもそのやさしさに、ぬくもりに甘えて自分を赦しそうになるのが怖かった。

 彼らの言葉はきっと正しい。理屈の上では華実が罪を償う必要はないのかもしれない。それでも華実の存在がいくつもの幸せを壊してしまったのは事実だ。その埋め合わせをせずに終わることはできない。

 セレナイトを破壊し、自分自身にケジメをつける。

 今さらその誓いを捨て去ることはできなかった。

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